2024/02/29
貯蓄から投資へ|初心者に向けて投資についてわかりやすく解説
執筆者:馬場愛梨(ファイナンシャル・プランナー)
「貯蓄から投資へ」は政府が打ち出しているスローガンですが、どのような意味なのか、なぜそのような方向に進もうとしているのか、どんなメリットがあるのか、よくわからないという人もいるのではないでしょうか。
この記事では「貯蓄から投資へ」の概要や背景の他、投資のメリット・デメリットについても解説します。「これから投資を始めたほうがいいのかな?」と迷っている人は、ぜひ参考にしてください。
■「貯蓄から投資へ」とは?
まずは、「貯蓄から投資へ」の意味を確認しておきましょう。
ここでいう「貯蓄」とはお金を蓄えること、例えば銀行預金を利用することなどを指します。一方で「投資」とは利益を得るためにお金を投じることで、例えば株式や投資信託の購入などが該当します。
つまり「貯蓄から投資へ」は、「蓄えているお金を投資商品の購入に回す」ことを目指すスローガン(標語)といえます。
このスローガン自体は2003年に行われた投資減税の頃からありますが、近年岸田政権が注力していることから再び注目を浴びています。
岸田首相は、2023年6月に以下のメッセージを発信しています。
内閣総理大臣の岸田文雄です。
岸田政権では、今年を「資産所得倍増元年」とし、「貯蓄から投資へ」のシフトを大胆かつ抜本的に進めていきます。
「人生100年時代」。個々人の生き方、働き方も多様になり、それぞれのライフプランにあわせた資産形成が重要になっています。
皆様が、ご自身のライフプランにあわせた資産形成を進められるよう、政府一丸となって取り組んでいきます。
(出典:首相官邸「『資産所得倍増元年 - 貯蓄から投資へ』岸田総理からのメッセージ」)
詳しくは後述しますが、スローガンだけでなく具体的な施策も打ち出しており、すでに進行しています。「貯蓄から投資へ」という動きは、今後も継続しそうです。
■なぜ「貯蓄から投資へ」? 変化が求められる背景
政府は、なぜ「貯蓄から投資へ」を推し進めようとしているのでしょうか。その背景は2つあります。
●背景1:自分で資産形成を行う重要性が増している
日本では少子高齢化が進んでいます。「将来年金を受取れるのだろうか」「老後にお金が尽きたらどうしよう」と不安な人もいるでしょう。
寿命が延びて長く生きるようになるほど、老後に生活費が枯渇してしまう可能性は高まります。以前、「老後に2,000万円不足する」といった金融庁の試算がニュースなどで話題になったこともありました。
日本は米国や英国などと比較して資産に占める現預金の割合が高く、有価証券(株式・投資信託・債券など)の割合が低いと言われています。
現預金の割合が高いと株価上昇の恩恵を受けにくく、インフレ(物価が上がっていくこと)の影響を受けやすくなります。
こうした現状を変えるために、「貯蓄から投資へ」のシフトが求められています。「将来の暮らしに必要な資産を守るために投資が必要になった」とも言えるでしょう。
●背景2:お金を循環させて景気を良くするため
また、岸田政権が掲げている「新しい資本主義」や「資産所得倍増プラン」の実現には、「貯蓄から投資へ」が必要不可欠であるという側面もあります。
以下のとおり、「貯蓄から投資へ」を実現することで、個人の家計だけでなく企業や経済にも良い影響があるとしています。
中間層がリターンの大きい資産に投資しやすい環境を整備すれば、家計の金融資産所得を拡大することができる。また、家計の資金が企業の成長投資の原資となれば、企業の成長が促進され、企業価値が向上する。企業価値が拡大すれば、家計の金融資産所得は更に拡大し、「成長と資産所得の好循環」が実現する。
(出典:内閣官房「新しい資本主義実現会議決定(令和4年11月28日)資産所得倍増プラン」」)
■「貯蓄から投資へ」変化を促すための国の施策
「貯蓄から投資へ」という流れを強化するため、現在以下のような施策が進められています。
【7本柱の取り組み】
第1の柱:NISA の抜本的拡充や恒久化
第2の柱:iDeCo 制度の改革
第3の柱:中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設
第4の柱:企業による従業員の資産形成支援を強化
第5の柱:金融経済教育の充実
第6の柱:世界に開かれた国際金融センターの実現
第7の柱:顧客本位の業務運営の確保
ここでは上記の施策のうち、第1の柱の「NISA」と第2の柱の「iDeCo」をピックアップして解説します。いずれも、投資を行うならぜひ知っておきたい国の制度です。
●NISA
「第1の柱」はすでに実施されています。NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)は、投資で得た利益に税金がかからない制度です。
NISAは2014年にスタートしましたが、「貯蓄から投資へ」の流れを加速するため、2024年1月から大幅に拡充されました。
従来のNISAにあった期間の制限がなくなり、2024年以降のNISA(新NISA)はいつでも始められて、いつまでも続けられる制度に変わりました。また、投資できる金額の上限も大幅にアップし、年間で最大360万円まで、生涯で1,800万円まで非課税で投資できるようになったのです。
●iDeCo
iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)は「自分で自分の年金を作る制度」で、自分でお金を積み立てて運用し、それを老後に年金として受取る仕組みです。
iDeCoを利用して投資すればNISAと同様に、いくら利益が出ても税金がかかりません。さらに、iDeCoにはNISAよりも強力な税制優遇措置が用意されています。掛金(積み立てるお金)の全額が所得控除になり、受取る時にも大きな控除を受けられるというメリットもあるため、節税効果が高いと言えます。
一方、いつでも好きなタイミングでお金を引出せるNISAと違い、iDeCoには原則60歳まで引出せないという制限があります。
●「貯蓄から投資へ」は進みつつある?
これまで、日本では「貯蓄から投資へ」という動きがなかなか進んでいませんでした。
しかし、近年はNISAやiDeCoも広まりつつあります。新NISAの開始時には、証券会社の新規口座開設数が急増するといった影響がありました。
また学校の授業で「金融教育」が取り入れられるといった変化も起きています。今後は、金融教育を受けて知識を得た人が、新たに投資を始めるようになるかもしれません。
■個人が投資を行うメリット
「貯蓄から投資へ」という変化は、個人にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。投資のメリットには、以下のようなものがあります。
【投資のメリット】
- 貯蓄より効率良くお金を増やせる可能性がある
- インフレ(物価上昇)に対応しやすくなる
投資を行えば、預貯金よりも早く資産を増やせるかもしれません。しばらく使う予定のないお金を銀行で寝かしておくのではなく、お金に働いてもらうことで、老後資金などを効率良く準備できる可能性があります。
投資には、なるべく早く始めて長期にわたって取り組むほどお金が増えやすくなるという特性があります。また、利益を再度投資に回し、上昇トレンドに乗ることができれば利益が利益を生む状態になり、「雪だるま式」にお金が増えていきます。これは「複利効果」と呼ばれています。
■個人が投資を行うデメリットと注意点
メリットだけでなく、デメリットや注意点も確認しておきましょう。
【投資のデメリット・注意点】
- 損失が出る可能性もある
預貯金と違って、最終的に受取る金額が、投資した金額よりも少なくなる(損失が出る)可能性もあるということです。「毎年○%ずつ増える」といった確約もなく、利益(あるいは損失)は相場の動きなどに応じて変動します。
運用がうまくいかなかった場合はお金が減ってしまうため、「投資は怖い」と思う人もいるかもしれません。しかし、リスクを抑える方法はあります。
運任せではなく、正しい知識を持って長期的に取り組むことで、たとえ一時的に損失が出ても挽回できるチャンスが巡ってくるでしょう。
●投資のリスクを抑える方法
リスクを抑えて投資に取り組みたいなら、以下のような方法を試すとよいでしょう。
【投資のリスクを抑える方法】
- まずは少額で始める
- 長期的に取り組む
- 分散投資を実践する
- リスクの低い投資商品を選ぶ
投資の中には、わずか100円程度から始められるものもあります。しばらく使う予定のないお金(余裕資金)で、失っても気にならないくらいの金額で試してみてはいかがでしょうか。
また、1つの投資先に大金を一度に投入するのではなく、長い時間をかけて少しずつ、複数の投資先に分けて投資することで、リスクを抑えられます。金融庁では、これらを「長期・積立・分散投資」として推奨しています。
なお、投資先によって想定されるリスクやリターンが異なります。初心者はFXや先物取引など、ハイリスクな投資は避けたほうがよいでしょう。
■投資を始めたほうがいい? 初心者が取るべき行動
「貯蓄から投資へ」「新NISAがスタート」「株高が進んでいる」などと聞くと、まだ投資をしていない人は「すぐに始めるべきなのかな」とあせってしまうかもしれません。
確かに、投資はなるべく早く始めて長く取り組んだほうが有利になりやすい傾向にあります。しかし、スタートを急ぐあまり、何も知らないまま無謀な投資にチャレンジして、挽回するのが難しいほど大きな損失を出してしまっては大変です。
まずは、あせらず情報を集めるところから始めましょう。納得いくまで知識を得てから始めても、遅くありません。金融庁や証券会社などの公式サイトや書籍、セミナー、SNSなど、学ぶ手段はたくさんあります。
また、一口に「投資」と言ってもさまざまな種類があります。自分に合うものを探して、少しずつ実践しましょう。
特にNISAやiDeCoを活用した投資や、前述の「投資のリスクを抑える方法」で紹介したような方法は、初心者でも取り組みやすいのでおすすめです。
■まとめ
「貯蓄から投資へ」という流れは、今後も加速しそうです。投資にはリスクがあるため損失が出る可能性もありますが、貯蓄よりも早く大きく資産を増やせる可能性もあります。正しい知識を身につけながら、少しずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。