2023/12/20
転職しても住宅ローンは組めるのか? 審査への影響や注意点を解説
執筆者:新井智美
「転職しても住宅ローンは組めるのか?」
住宅の購入と転職を検討している人は、上記のような悩みを抱えているのではないでしょうか。結論としては、金融機関によって異なりますが、転職直後に住宅ローンを組むことは難しいので、住宅購入と転職は計画的に行うのがおすすめです。
住宅ローンを利用するには、申込みしたあとに審査を受ける必要があります。審査に通らなければ当然、住宅ローンは利用できません。
審査基準は、申込んだ住宅ローンを取扱う金融機関によって異なりますが、多くの金融機関において返済能力を審査するために「安定した収入があるかどうか」を重視している傾向があります。今回は、転職しても住宅ローンは組めるのか、転職が審査に与える影響や注意点について解説します。
■住宅ローンの審査でチェックされる項目
住宅ローンの審査基準は、金融機関によって異なり、一般的に審査内容の詳細を教えてもらうことはできません。しかし金融機関が審査の際に重視する項目を知ることで、自分が置かれている状況が審査にどのような影響を及ぼすかを事前に把握することができます。
国土交通省が発表している「令和4年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」によると、金融機関が融資を行う際に考慮する項目として90%を占めているのは、以下の項目です。
項目 | 回答割合 |
---|---|
完済時年齢 |
98.7% |
健康状態 |
97.9% |
借入時年齢 |
97.2% |
担保評価 |
96.1% |
勤続年数 |
93.2% |
連帯保証 |
93.1% |
返済負担率 |
93.0% |
年収 |
92.9% |
金融機関の営業エリア |
90.7% |
参考:国土交通省|令和4年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書
この調査結果を見ると金融機関の約93%が、審査の際に勤続年数を考慮していることがわかります。
実際、申込条件に勤続年数を2年以上などと具体的に明記している金融機関もあり、年齢や年収もさることながら、勤続年数がいかに審査において重視されているかが読み取れます。
■転職が住宅ローンの審査に及ぼす影響
転職が住宅ローンの審査に及ぼす影響としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。転職時期を以下の3つのパターンに分け、それぞれのタイミングで審査に及ぼす影響と注意点について解説します。
- 住宅ローンを組む直前の転職
- 住宅ローンを審査中の転職
- 住宅ローン利用中の転職
●住宅ローンを組む直前の転職
住宅ローンを組む直前の転職は、住宅ローンの審査に大きな影響を及ぼす可能性があります。なぜなら転職で収入が下がる恐れがあるほか、一時的に無収入になる可能性も予想されるからです。さらに「今後も転職を繰り返すのではないか」と思われてしまい、審査に不利に働く可能性は否定できません。
住宅ローンを申込む際に申告するのは、転職後の勤続年数です。そのため金融機関が決めた勤続年数の基準に満たない場合は、申込み自体ができません。また転職後の年収については、転職後に受取った収入を考慮して算出するため、場合によってはボーナスの額が含まれず本来受け取れる収入金額よりも低く算出されてしまいます。
そのため転職直後の収入金額によっては、希望する金額まで借入れできないケースも考えられます。これらのことから転職直後の住宅ローンの申込みはできるだけ避け、2年もしくは3年以上の勤続年数が経ってから申込むようにしましょう。また転職直後に住宅ローンを申込むことで、提出しなければならない書類が増える可能性がある点にも注意が必要です。
通常、住宅ローンの審査で必要になる書類は以下のようなものがあります。
- 本人確認書類
- 収入証明書類
- 担保となる購入する家の情報がわかる書類
- 収入証明書類(源泉徴収票もしくは確定申告書の控え) など
しかし転職直後の申込みとなると、金融機関によって異なりますが、採用通知書や、勤続証明書、給与明細書などの提出が必要な場合があります。特に勤続証明書は、会社に発行してもらわなければならないため、書類の入手に時間がかかる可能性もあります。
申込条件のなかに在籍期間の基準を設けていない金融機関でも、提出する書類によっては審査がスムーズに進まない可能性がある点には気をつけておきましょう。
●住宅ローン審査中の転職
住宅ローンの審査中に転職した場合、審査を最初からやり直さなければならなくなります。住宅ローンは、申込時に申告した内容で行われる仮審査と仮審査通過後に行われる本審査の2段階で行われるのが一般的です。
しかし本審査に移行した直後に転職してしまうと仮審査時に申告した内容と異なってしまうため、場合によっては住宅ローンを利用できない結果になることも予想されます。住宅ローン審査中の転職は行わないことが賢明です。
●住宅ローン利用中の転職
住宅ローンを利用し、返済中に転職するケースも考えられます。転職する理由はさまざまですが、転職後もそれまでのように返済を続けていくことができるのかをよく考える必要があります。
転職後に収入が下がることが予想されるなら、「転職前と比べてどのくらい下がるのか」「収入が下がることで家計の負担にならないか」についてよく考えたうえで転職先を決めましょう。転職先が同じ給与水準を維持できるかはもちろん、ボーナスの有無やボーナスの支払時期なども事前に調べておくことをおすすめします。
もし転職後に一時的に収入が下がったり、一定期間無収入の状態になったりすることが予想される場合は、その間の返済計画を考え直さなければなりません。ほかにも「預貯金で賄えるのか」「その期間に住宅ローンの返済以外にもまとまった支出が必要になる時期がないか」などを含めて、無理のない返済計画に見直す必要があります。
また転職で収入が下がった場合、今よりも低い金利の住宅ローンへ借り換える方法もありますが、その際には諸費用が発生するため、一時的な負担が増えます。なによりも転職したからといって、金利の低い住宅ローンへ簡単に借り換えられるわけではありません。なぜなら借換先の金融機関によっては新規の申込みとなり、通常の住宅ローン審査のように勤続年数を重視するからです。
金融機関としては、転職直後の申込みと捉えるため、審査に不利に働き結果として審査に通らない可能性が上がってしまう点にも注意しましょう。
■転職後の住宅ローン控除の取り扱いは?
住宅ローンを利用して自宅を購入した場合、床面積や年収などの要件を満たせば住宅ローン控除が適用できます。給与所得者の場合、1年目は必ず確定申告で行う必要がありますが、2年目以降は年末調整で対応できるため、確定申告の必要はありません。年の途中で転職した場合には、転職先の年末調整で住宅ローン控除の手続きが行えます。
ただし転職して自営業や個人事業主、もしくはフリーランスになった場合や、転職のために会社を辞め再就職までに時間がかかってそのまま年末を向かえてしまった場合は、自分で確定申告を行わなければなりません。確定申告が必要な場合は、忘れずに翌年の2月16日~3月15日(休日の場合は翌営業日)までに申告を行い、還付を受けるようにしましょう。
住宅ローン控除は、所得控除とは異なり、所得税額から直接控除される税額控除になるため、還付される金額も年末の住宅ローン残高によっては大きな金額となります。確定申告の方法がわからない場合は、税務署で相談することも可能です。また確定申告の方法については、国税庁のウェブサイトでも詳しく解説されているため、参考にするのもよいでしょう。
作成した確定申告書は、添付書類と合わせて住所地を管轄する税務署に提出しますが、税務署への持参や郵送、e-Taxの利用も可能です。持参するには、平日の営業時間でなければならないため、時間が取れない人は郵送もしくはe-Taxを選択しましょう。
■転職直後の住宅ローンは難しい
転職直後の住宅ローンは、金融機関によっても異なりますが、基本的に難しいと覚えておきましょう。なぜなら多くの金融機関では、審査において勤続年数を重視する姿勢を取っており、勤続年数が短くなる転職直後は審査に不利となるからです。また審査に通ったとしても希望する金額まで借入れできないなど、厳しい結果になる可能性もあります。
ただ転職の内容によっては、審査に不利にならないケースもあるかもしれません。例えばグループ会社へ出向した場合などでは、会社名は変わったものの「異動」として扱われる可能性があります。その場合だと、勤続年数は異動前の期間を引き継ぐため、審査に不利になることもありません。
■住宅購入・借り換えの予定がある場合
住宅ローンを利用する予定があったり、借り換えを考えていたりするなかで転職しようと考えている人は、転職のタイミングを計画的に行うことが必要です。申込もうとしている住宅ローンの申込条件を確認し、年収や勤続年数の基準が明記されている場合は、それらを満たす状態から逆算して転職を行うことが求められます。
また転職直後で条件を満たさない場合は、条件を満たすまで待って申込むことも選択肢の一つといえます。なぜならあわてて申込んでも審査に不利になるばかりでなく、結果として希望通りの金額まで借りられないなど条件が悪くなってしまう可能性があるからです。また転職を考えるなら、転職後も無理なく返済を続けていける返済計画を立てる必要があります。
例えばボーナス払いはなしで契約しておき、まとまった資金が貯まったら繰上返済を行うなどの方法を選択することで、年収に対する返済負担も楽になります。
■まとめ
新しい人間関係や新たな知識の習得など、転職をすることで得られるメリットはたくさんあります。しかし「これから住宅購入を考えている」「現在借りている住宅ローンの借り換えを考えている」という場合は、注意が必要です。転職することで得られるメリットと、住宅ローンの審査に不利になる影響を十分に比較しながら慎重に行う必要があります。
転職直後の住宅ローンの申込みは極力避けたり、審査中の転職は絶対しないと心がけたりするなど住宅ローンの申込みに最適なタイミングを考えて転職活動を行うようにしましょう。