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年金のルールが「人生100年仕様」に。2022年4月から何が変わる?

冨士野喜子(ファイナンシャルプランナー)

2022年3月25日

年金制度改正法により、2022年4月以降、年金に関するルールが「人生100年」を想定したものに変わっていきます。何が変わるのか改正点をチェックしながら、どのような備えをすべきか人生100年時代のマネー対策について考えていきます。

■年金制度改正法の概要について

年金制度改正法によって変わる年金ルールは主に4つあります。各改定について、代表的な変更点を紹介します。

●1. 被用者保険(会社の社会保険)の適用が拡大

従来、「従業員数501人以上」の企業に適用されている短時間労働者への社会保険の適用が、2022年10月からは「従業員数101人以上」に変わります。適用者が拡大することで今まで社会保険が適用されなかった約45万人が社会保険(厚生年金・健康保険)に加入できるようになります。

●2. 在職老齢年金制度の見直し

従来60~64歳の方は、年金の基本月額と月収(総報酬月額相当額)の「合計額が28万円」(65歳以上の方は47万円)を超えると年金が全部または一部停止となっていました。2022年4月からは、65歳未満の方も「合計額が47万円」までは年金を満額受け取れるようになります。

●3. 年金の受給開始年齢の選択肢が拡大

従来の受給開始年齢は、65歳を基準に60~70歳まで自由に選ぶことができましたが2022年4月より上限年齢が5歳引き上げられ「60~75歳」となります。「繰上げ受給」「繰下げ受給」の簡単な説明は以下の通りです。

・繰上げ受給:年金の受給開始を前倒しにできるが毎月の年金額は減額される
・繰下げ受給:年金の受給開始を後ろ倒しにすることで毎月の年金額が増額される

「繰上げ受給」「繰下げ受給」のどちらを選択した場合でも減額・増額した年金額は、一生涯変わりません。

●4. 確定拠出年齢の加入可能年齢、受給開始可能年齢の引き上げ

確定拠出年金には、企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)の2つの制度があります。従来、企業型DCは65歳未満、iDeCoは60歳未満でなければ加入できませんでした。しかし、2022年5月からは企業型DCは70歳未満、iDeCoは65歳未満と、それぞれ加入可能年齢が5年引き上げられます。

また受給開始に関しては、従来どちらの制度も「60~70歳の間」でした。それが2022年4月からは「60~75歳の間」に変更されます。つまり受給開始可能年齢も5年引き上げられることになるのです。

■ルールが「人生100年」を想定したものに

年金のルール改正でどのようなお金の変化が想定されるでしょうか。例えば、今まで厚生年金の加入対象外だったパートやアルバイトの方は、厚生年金の加入で将来の老齢厚生年金がアップします。老齢厚生年金は亡くなるまで受給できるので、長生きするほど、年金の受給総額が多くなります。
また、在職老齢年金の制度改正に伴い年金の支給停止を気にせず就労で収入を増やすことも期待できます。

年金受給と就労による収入を2本柱として資産を増やすこともできるでしょう。さらに公的年金は、繰下げ受給を選択すると1ヶ月ごとに0.7%年金が増加するため、できるだけ長く働いて年金の受給開始を遅らせることも可能です。企業型DCやiDeCoといった私的年金制度が活用しやすくなったことで、多くの方が自助努力で老後に備えられるようになりました。

今回の年金制度の改正で公的年金を含めた定年後の収入を確保できる可能性が広がったといえるでしょう。

■改正を受けて今から考えたいこと

今回の改正を受けて具体的にどのような行動をしていけば良いでしょうか。考えておきたいポイントを3つご紹介します。

●いつまで働くか

総務省の「労働職調査(基本集計)2021年」によると、2011年における労働人口に対する65歳以上の就業者の割合は約9%でした。それが年々割合は増加傾向で2021年は約13%に達しています。

定年年齢の引き上げや再雇用制度の導入などでシニアの働く環境は整備されている傾向です。一方で退職後の家計収支を予測し「いつまで・いくら分の就労が必要か」など就業ビジョンを描くことも必要でしょう。

・収入に関して

将来受給できる年金額を計算してみましょう。将来の年金受給額の目安は、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」、もしくは「ねんきんネット」で試算することができます。ご夫婦の場合は、それぞれの受給見込み額を合計して考えていきましょう。

・支出に関して

ローンがある場合は、住宅ローンやカーローン、教育ローンなどの完済時期、また住居や自動車の維持費など、現在の支出から老後の支出を予測してみましょう。「年金だけで生活してけるか」「不足する場合はいくら不足するか」といった視点で具体的に数字を出していくといつまで就労が必要か見えてきます。

●受給開始年齢を何歳からにするか

前述した通り、年金の受け取りを65歳以降に繰下げ受給した場合、繰下げ受給の増額割合は、1ヶ月繰り下げるごとに0.7%増加します。例えば、老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計額が年間100万円、75歳から受給開始(120ヶ月繰下げ)とした場合、増加割合は0.7%×120ヶ月で84%です。つまり本来年間100万円受給できる年金を75歳から受給すると184万円となります。

このように年金の受給を繰下げ受給をすれば年金額を増やすことも可能です。あわせて就業期間を延長したり貯蓄でやりくりしたりするなど行えば、人生100年に備えることが期待できるでしょう。ただし今回の例で考えると損益分岐点は約87歳です。万が一この年齢よりも早く亡くなってしまうと、10年間繰下げ受給しないほうがトータルの年金受給額は多くなります。

また、逆に繰上げ受給の場合は、1ヶ月繰上げるごとに0.5%(※)年金受給額が減少するのが特徴です。そのため、例えば「生活費がかからない」「もともと年金受給額が多い」「資産の備えがある」といった方は、検討してみるのも良いでしょう。

  • 1962年4月2日以降生まれの人は、2022年4月から1ヶ月0.4%の減額率に変更されます。

●DCへの加入をどうするか

最後に制度改正で活用しやすくなった「DCの加入」についてです。加入が任意となっている「iDeCo」「選択制DC」「マッチング拠出」などでは、加入することで税制の優遇や社会保険料の軽減などのメリットがあります。しかし、以下のような注意点があることも忘れてはいけません。

・60歳までは原則資金の引き出しができない
・選択する商品によっては、元本が保証されていない
・加入可能年齢が決められている など

そのため加入期間が短くなる方(おおむね10年に満たない方)、税制優遇のメリットが少ない方は、DC以外の方法で老後資金を準備することがおすすめです。例えば貯蓄型の生命保険の商品や投資信託の積立購入などが挙げられます。老後資金は、ハイリスク・ハイリターンな資産運用を行うより毎月定額を積み立てられる堅実な商品を選ぶことが大切です。

■老後を真剣に考えるきっかけに

人生100年時代に対応するためには「年金の繰下げをしたらいくらになるか」「老後の収入をどのように確保するか」などいろいろなパターンで具体的にシミュレーションすることが大切です。今回の年金の改正法を老後と真剣に向き合うきっかけとしていきたいですね。

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