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親が認知症になって困るお金の悩み・トラブル 高齢者の5人に1人が発症?

執筆者:冨士野喜子(ファイナンシャルプランナー)

2020年9月17日

「人生100年時代」などと言われるようになり、長寿社会となったことも受けて、50代前後ともなれば「親の介護」について考える機会も増えるのではないでしょうか。介護について考える時に見逃せないのが「認知症」です。身体の障害とは異なるために異常が見えにくく、様々な症状の種類があるので対処に困るケースもあります。ここでは家族が認知症になった時に知っておきたい、お金のトラブルの対処法や活用できる制度について紹介します。

「7人に1人」から「5人に1人」へ──認知症の基礎知識

認知症患者数は2012年に462万人で、65歳の7人に1人(15%)でしたが、2025年には5人に1人(25%)の約700万人になると推計されています(内閣府「平成28年版高齢社会白書」)。

また、認知症は介護が必要となった原因の第2位でもあり、高齢社会では見過ごせない病となっています(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)。

認知症の症状は、原因によって様々ですが、主に行動や心理面での変化が見られます。例えば、帰り道が分からなくなる、家電などの機械操作ができなくなる、計画や段取りを立てて行動できないなどが、行動面の変化です。一方、心理面では、穏やかだった人が短気になる、見えないものが見えるなどの幻覚や妄想、気分が落ち込み無気力になるといった症状が見られるようです。

認知症で起こりうるトラブルは?

認知症の症状から、どのようなトラブルが起こるのでしょうか。まず考えられるのは、買い物や契約におけるトラブルです。インターネットを利用しないのにプロバイダーなどと通信の契約をしてしまう、という不要な物の買い物や、リフォームなどの高額契約、金融商品のトラブルもあります。

また、電子機器などによる自宅火災にも注意が必要です。冷凍食品などを包装されたまま加熱したり、加熱しすぎたり、コンロや暖房機器の取り扱いにも気を付けたいところです。

外出時のトラブルとしては、お店のものを壊すなどして損害賠償の請求をされることもあります。実際に、認知症で徘徊中の男性が線路内に入り死亡した事故では、鉄道会社から損害賠償を求められる、というケースがありました。最高裁で逆転勝訴し、最終的には責任なしとの判断でしたが、本人に責任能力がなくても、家族に賠償請求が及ぶ可能性もあります。物を壊すだけでなく、気性が荒くなっている場合には、他者に暴力をふるってケガをさせるということも考えられます。

事前の対策、家族として気をつけるべきこと

こうしたトラブルを回避するために大切なのは、認知症が疑わしい場合は早めに医師からの診断を受けておくことです。

本人に意思能力のないことが確認されていれば、契約をしても無効にできる場合があります。ただしそれは、認知症の程度にもよりますので、定期的に郵送物や通帳の引き落としをチェックしたり、物が増えていないかなど自宅の様子を確認したりすることも大切です。

保険に加入することで、損害賠償請求に備えておくというのも一案です。民間保険会社の「個人賠償責任保険」という商品では、日常生活で人にケガをさせたり、物を壊してしまったりして法律上の損害賠償請求を受けた時に保険金が支払われます。ただし保障の上限額が定められていたり、人から借りた物を壊した場合や自動車運転中の事故は対象外となったりするなど、条件もあるので内容を確認しておきましょう。

民間の保険会社ではなく、自治体でも認知症の方を対象とした賠償責任保険を準備しているところもあります。保険料は自治体の負担となっていたり、事故による見舞金が出たりする自治体もあります。

成年後見制度や信託などの制度活用も

契約やお金のトラブルを防ぐために活用できる制度としては、「成年後見制度」や「信託」があります。成年後見制度は、判断能力が低下している人の財産を管理したり、必要な契約を本人に代わってすることができたり、逆に本人がした不当な契約を取り消すこともできます。

成年後見制度を利用するにあたっては、家庭裁判所に申し立てを行い、審理、鑑定手続きなどのために時間を要します。また、後見人によって財産を守れる一方で、不動産売却の際には家庭裁判所によって選任された保佐人(ほさにん)の同意を得る必要があります。

その点、信託は金融機関で扱う金融商品で、指定された家族が信託財産の管理を行うことができるサービスです。後見制度よりも資金の使用使途に縛りがなく、資金を自由に使うことができますが、契約には認知症と診断されていないことが基本的な前提条件となることには注意が必要です。

現状では、認知症への効果的な治療法はないとされていますが、早期発見・早期治療で進行を遅らせられることもあるそうです。できれば症状が出て認知症と診断される前に対策を講じておきたいところですが、たとえ既に認知症と診断を受けていたとしても、家族でしっかり話し合いながら専門のサービスの手を借りるなど、無理をしない見守り・サポートをしていきたいものです。

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