[米国雇用統計] なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

9月7日発表「米国雇用統計」

変動結果

発表直後からの10分間は↑円安ドル高に変動!
  • じぶん銀行FX米ドル/円10分足のチャートより抜粋
発表直前 10分後 変動幅
米ドル/円
為替レート
110.741円 110.939円 +0.198円
  • じぶん銀行FXレート
失業率 非農業部門
雇用者数
予想 3.8% +19.1万人
結果 3.9% +20.1万人
乖離 +0.1% +1.0万人
  • 結果は速報値です。

詳しい解説

米国8月雇用統計発表(9月7日21:30)前後の為替動向について

1. 発表前

8月の米ドル/円相場は、例年通り円高が進む展開*1となった。1日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)で当面の利上げ継続が示唆されたことを受け、112円15銭まで上昇したが、ここが高値となり、その後は解決の糸口が見えない米中間の貿易摩擦に加え、対米関係が悪化したトルコの通貨リラの暴落を受け、リスク回避の動きが強まることとなった。円高は米ドル/円だけでなく、ユーロ/円や豪ドル/円といったクロス/円でもじりじりと進み、20日の海外市場でトランプ米大統領がFRB(米連邦準備理事会)の利上げ政策を批判すると一段安となり、月中安値となる109円78銭(21日)をつけた。一方で、好調な米国経済と米長期金利の安定を背景に、米国株(S&P500、ナスダック)は史上最高値を再度更新。日経平均株価も月央からは反転・上昇となり米ドル/円相場の下支えとなった。月末にかけては、英国のEU離脱問題に対する楽観的な見方*2から英ポンド/円が大幅に上昇し、米ドル/円は一時111円台後半まで押し上げられた(29日)。しかしながら9月に入ると、北海道胆振東部地震の影響を受けた日本株安や、トランプ大統領の対日通商政策に係る報道*3で再び売られ、110円台へ下落。結局110円80銭近辺で、指標の発表を迎えることとなった。
事前予想は、「失業率」が3.8%(前月3.9%)、「非農業部門雇用者数」が+191千人(前月+157千人)、「平均時給」が+0.2%(前月+0.3%)であった。

  1. *1 8月は、①本邦実需筋の先物予約(年内もの)に係るドル売り、②9月中間決算前の海外利益回金、③米国債の満期償還に伴う機関投資家のドル売り、などの外貨売り・円買い要因により、他の月に比して円高となることが多い。
  2. *2 EU首席交渉官バルニエ氏が「英国のEU離脱に際してEUが英国に対し特別措置で柔軟に対処する用意がある」と表明。
  3. *3 ウォールストリートジャーナル紙「トランプ大統領が貿易で次に日本との争いの公算(現地時間9月6日)」

2. 発表直後

8月「失業率」は、前月と変わらず3.9%。「非農業部門雇用者数」は、事前予想を上回る前月比+201千人(ただし6・7月分は合わせて50千人下方修正)。「平均時給」は、事前予想を上回る前月比+0.4%(前年比は+2.9%に急上昇)と、賃金データの堅調さが注目を集めた。

米ドル/円は、「平均時給」の上昇に反応し111円台へ上昇。111円を挟んでしばらくもみ合うも、米長期金利(10年国債利回り)の上昇につれて一段高となり、本日高値となる111円25銭をつけた。

3. NYK Closeまで

雇用統計の結果を受け、111円台で堅調に推移していた米ドル/円は、ニューヨーク時間昼過ぎにトランプ米大統領が、「中国に対する追加関税2,670億ドルを用意*4」と発表すると米国株の下げに合わせて110円70銭台まで急落。しかし米国株が終盤にかけて戻したことから、米ドル/円も再び111円台を回復。結局111円05銭前後でクローズとなった。米長期金利(10年国債利回り)は2.94%台へ上昇。ニューヨークダウは25,916ドル(前日比▲79ドル)と反落した。

  1. *4 記者団に対して「2,000億ドルの対中輸入に対する関税の早期適用と、さらに2,670億ドルを対象とした、追加関税の用意がある」旨に言及。

4.「米ドル/円が上昇したのはなぜ」

  • 「非農業部門雇用者数」は事前予想を上回ったが、過去2ヶ月分が下方修正されており、それほど良い内容ではない。しかし「平均時給」の大幅上昇はサプライズであり、米長期金利の上昇につながり、米ドル/円を押し上げることになったと考える。
  • 雇用統計発表前の東京市場ではドル売りが優勢となり、一時110円40銭を割り込んだが、欧州時間に入り短期筋のドル買戻しが進んでいた。トランプ発言後に110円台へドルが下落した局面では、ドル売りポジションの買戻しが再び行われたと思われる。

5. 当面の見通し

  • (Ⅰ)9月雇用統計

    「失業率」が低下する中で、賃金データは非常に緩やかな上昇で加速しない、という構図が続いてきたが、ようやくはっきりと賃金上昇(総賃金と平均時給)が確認されることとなった。「失業率」と「非農業部門雇用者数」ともに良好な状況が続いている。

  • (Ⅱ)米ドル/円動向

    雇用統計だけでなく、先月大幅に低下したISM(米供給管理協会)景気指数も、8月は14年3ヶ月ぶりの高い数値となり、米利上げが継続する可能性は高まっている。8月22日に発表されたFOMC議事要旨(7月31日-8月1日開催)では、「経済見通しが良いままであればさらなる利上げは適切。ただこの水準からの連続利上げに消極的な参加者が増えてきている」ことが示唆されており、今後は、利上げペースの加速 ⇒ 米長期金利の急騰 ⇒ 米株価の急落・新興国通貨の下落 ⇒ 米国景気減速、という図式につながるかが注目される。今年2月、米長期金利(米10年国債利回り)が2.3%台から2.8%台へ急騰した際は、ニューヨークダウが2千ドルを超える下落となったが、5月に3%を超えた局面では米株価への影響は小さく、新興国通貨の大幅下落となった。したがって、堅調な米国経済の下で利上げペースが加速することなく、緩やかな利上げが継続するという状況であれば、米国景気が減速につながるのは、まだ先のことであろう。筆者は、市場がリスクオン志向となり、ニューヨークダウがS&P500とナスダックに続いて史上最高値を再度更新する日は近い、と考えている。これは日本株の上昇を通じて米ドル/円の好材料となろう。

    一方、先月はトルコリラや南アフリカランド等の新興国通貨急落といった事象もあったが、リスクオフ(円高)の根本は、トランプ大統領の通商政策である。米中間の追加関税・それに対する報復関税に終わりが見えない中、9月7日から日本との貿易協議が始まったが、早速トランプ大統領は「日本に対しても強硬姿勢で臨む構え(7日)」、「合意に達しなければ日本は大変な問題になる(8日)」と日本側をけん制した。20日の自民党総裁選で3選が確実視される安倍首相との日米首脳会談が25日に予定されているが、少なくともそれまではけん制を続けることが予想され、市場は円高リスクを払しょくすることはできないであろう。しかしながら、一方的な円高になるかといえばそうでもないのが為替市場である。「(中国が主な標的とみられる)鉄鋼とアルミニウムに輸入関税を課す」と最初に発表されたのは3月初めである。当時106円台であった米ドル/円は、その後米中貿易摩擦が激化する中で、4月以降はドル高・円安地合いとなり、足下では111円台となっている。上述のトランプ大統領の対日強硬発言も、直後はドル安・円高材料としてとらえられるも、徐々にその反応は小さくなり、連続安となっていないことから、過度に材料視する必要はないと考えている。

    今年は7月以降大規模な自然災害が相次ぎ、本邦経済への悪影響が懸念されている。政府は相次ぐ災害を受け、2018年度補正予算案を編成する方針を固めているが、相応の規模となることが想定される。熊本地震が発生した2016年は、事業規模約28兆円の経済対策を織り込んだ補正予算(一般会計の追加歳出は4兆円強)が同年10月に成立し、その後の円安と株高の契機となった。したがって、短期的には補正予算を先取りした日本株高と円安が進みやすいものと考えている。現時点で安倍首相は、2019年10月の消費税引き上げは「予定通り」としているが、北海道地震の影響次第では、再々延期となる可能性も否定できない。ただ消費増税延期に伴う財政状況悪化という材料は、円長期金利に影響して円高、個人消費の下支え(可処分所得の増加)で円安、との両面があり中長期的な判断は難しい。

    本稿で筆者は、赤字から黒字に転換した本邦貿易収支、および日銀のマイナス金利政策による個人消費の減退を背景に、2016年以降は基本的な相場観を円高方向に見ていた。しかし以下の理由から、相場観を円高方向から中立に変更することとしたい。それは、①今年に入り上昇を続け、足下では70ドル近辺で高止まる原油価格により、貿易黒字幅が前年比で大幅に縮小していること(貿易収支額は半年から1年程度のラグを置いて為替相場に反映するとみられる)、②7月日銀金融政策決定会合で決定された政策(強力な金融緩和継続のための枠組み強化)は、拡大する本邦機関投資家の外債投資を抑止するものではないこと、③テロや地政学的リスクといったリスクオフ材料はなくならないが、それ以上に米国経済の強さが際立ち、長期化する可能性があること、である。中長期的なドル高・円安トレンドとなるか、あるいはトランプ政権の政治リスク等によりドル安が進み円高トレンドとなるかの見極めには、もうしばらく時間を要するため、現時点では円高方向の見方から中立に戻すに留めておきたい。

    「米ドル/円のチャートは、104円台半ばをつけた3月の年初来安値から、現在週足で2段上げの状態にあり、次の上昇波で昨年11月の高値である、114円台半ばを試す可能性も秘めている」と前稿で記載したが、月足では、2015年6月の125円台と2016年6月の99円台を頂点とする三角保合い*5を上抜けつつあり、月足で年内110円が守られれば、2019年は円安トレンドを造りそうな形である。

    1. *5 チャートにおいて、上下に大きく動いていた値動きの幅が、時間の経過とともに徐々に小さくなり、一定期間を集合的に見ると、右側がとがった三角形を形成している状況。各高値を結んだ線(抵抗線)、各安値を結んだ線(支持線)を抜けると一方向に相場が進みやすい。
    予想レンジ:
    109円50銭~113円50銭(向こう1ヶ月程度)
    107円50銭~115円50銭(向こう半年程度)
  • 当内容は2018年9月11日現在の見解です。
執筆者:
株式会社じぶん銀行 ALM部長 島本薫

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