[米国雇用統計] なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

5月5日発表「米国雇用統計」

変動結果

発表直後からの10分間は↑円安ドル高に変動!
  • じぶん銀行FX米ドル/円10分足のチャートより抜粋
発表直前 10分後 変動幅
米ドル/円
為替レート
112.364円 112.377円 +0.013円
  • じぶん銀行FXレート
失業率 非農業部門
雇用者数
予想 4.6% +18.5万人
結果 4.4% +21.1万人
乖離 -0.2% +2.6万人
  • 結果は速報値です。

詳しい解説

1. 発表前

米中首脳会談後の夕食会の最中(日本時間4月7日午前)に米国のシリア爆撃が行われたことから、「地政学的リスク」*1がにわかに高まった。25日の北朝鮮・朝鮮人民軍創建85周年記念行事を控え、米朝間の緊張が近年にない高まりを見せる中、為替市場だけでなく株式市場にも投資家のリスク回避姿勢が鮮明となり、日本株安に伴う円高*2もあいまって、米ドル/円は上旬の111円台前半から中旬には108円台前半へと下落した。結果次第ではEU離脱となる可能性もあった23日の仏大統領選(1回目)では、中道派のマクロン大統領誕生の可能性が高まった。英国に続く連鎖的なEU離脱という一つの大きな不安が解消され、24日からは海外勢を中心に米ドル/円と日本株を買い戻す動きに転じた。北朝鮮情勢という予断を許さない状況下、様子見姿勢を変えられない投資家も多かったと思われる中、米ドル/円の上げピッチは速く、日本が連休中の5月4日には一時113円台まで上昇し、112円台半ばで指標の発表を迎えることとなった。
事前予想は、「失業率」が4.6%(前月4.5%)、「非農業部門雇用者数」が+185千人(前月+98千人)、「平均時給」が+0.3%(前月+0.2%)であった。

  • *1ある特定地域が抱える政治的・軍事的・社会的な緊張の高まりが、地理的な位置関係により、その特定地域の経済、あるいは世界経済全体の先行きを不透明にすること。この言葉は、2002年9月の米FOMC議事要旨で初めて「geopolitical(地政学的)」として使われた。
  • *2外国人投資家が日本株投資を行う際、円安による資産価値の減少を回避すべく、その一部を為替市場で円売りヘッジを行うのが一般的。株価下落(売却)に伴い、円売りヘッジのポジション調整(円買い)を行う必要があり、この操作が円高の要因となるといわれている。

2. 発表直後

4月「失業率」は4.4%へと低下。一方注目度が高い「非農業部門雇用者数」は、事前予想を上回る前月比+211千人(2・3月は合わせて6千人下方修正)と、堅調な雇用トレンドが確認された。また「平均時給」は、前月比+0.3%と事前予想を上回った。

米ドル/円は、予想を上回る「非農業部門雇用者数」に反応し、112円70銭台へ上昇するも、米長期金利(10年国債利回り)が一段高とはならずに低下に転じると、発表前の水準を割り込み112円30銭台へと下落した。その後しばらく112円台半ばで揉み合いを続けたが、良好な雇用統計の結果から米ドル/円を売り込む向きは少なく、徐々に下値を切り上げる形で再び112円70銭近辺まで上昇した。

3. NYK Closeまで

日付が変わると米ドル/円は上値の重さが嫌気され徐々に反落。ニューヨーク時間午後には112円50銭を割り込んだが、引け前の1時間で突然ドル買いが強まり、この日の高値である112円80銭台まで上昇し、112円70銭前後でCloseとなった。米長期金利(10年国債利回り)は2.375%へ上昇後、2.35%で取引を終了。ニューヨークダウは安寄りしたが結局上昇(前日比+55ドル)して引けた。

4. 「雇用統計は良好な結果でありながら、米ドル/円の上値が重かったのはなぜ」

  • 3日に開催されたFOMCで、1-3月期の米国景気減速は一時的との見方が示され、市場が6月の追加利上げを相応に織り込んでいたことから、雇用統計の結果でさらにそれが増幅されることにはならなかったと考える。
  • 米ドル/円は4月下旬の109円台後半からすでに3円近く上昇しており、東京市場が連休となる中、上値は実需筋のドル売り注文で押さえられたものと思われる。

5. 当面の見通し

  • (Ⅰ)5月雇用統計

    足下での米経済指標はやや鈍化しているが、雇用を取り巻く環境は引き続き良好である。3月に減少した「非農業部門雇用者数」は、暖冬要因の反動であることが確認され、今後も堅調に推移するものと考える。「失業率」は、サブプライム問題が発生した2007年と同水準にまで低下しやや過熱気味。一方、「平均時給」の伸びは依然として緩やかで、インフレ期待を高める状況ではなく、米長期金利が大きく上昇しない理由の一つであろう。

  • (Ⅱ)米ドル/円動向

    今月7日に行われた仏大統領選決選投票で、事前予想通りマクロン候補が勝利し、週明け8日以降も米ドル/円は堅調な推移となっている。先月の本稿で、シリア・北朝鮮といった地政学的リスクと、仏大統領選の行方はどちらも短期的な市場かく乱要因にとどまり、一方的なドル安・円高にはならずに保合いの展開を予想するとしていたが、おおむねそうした展開となっており現在の米ドル/円の水準に違和感はない。筆者は年初から、『トランプ政権への期待と現実』、『需給関係の重し』、『本邦経常収支動向』を主たる要因として、米ドル/円はドル安・円高方向と考えていたが、年央に向けて保合いとなるのか、ドル一段高となるかを今一度見極める必要があろう。

    ハネムーン期間と呼ばれる、1月20日の就任から100日が経過し、予想外の大統領選勝利から膨らんだ政策への期待は、ある程度しぼんできている。上下両院を共和党が制しているとはいえ、政治・軍事経験のない大統領であり、過度な期待は禁物ということがようやく浸透してきたようである。「移民政策」でつまずき、「医療保険制度改革法案(オバマケア)」が廃案となり、ここまでの主たる成果は、「9月末までの総額1兆1,000億ドルの包括的歳出法案に超党派で暫定合意」となっただけである。極限近くまで高まった米朝関係の緊張は、貿易制裁圧力の緩和を引換えに中国に仲裁役を依頼せざるを得ない状況に追い込まれた、と報道されており、トランプ大統領の支持率は下がったままで急速に回復することはないであろう。

    3月FOMCでの追加利上げ後も米長期金利は上昇せず、足下での「地政学的リスク」の高まりを受け、米国債買い(金利低下)ポジションが急増している。昨年11月以降、トランプ政権への期待と米追加利上げを見込んで、シカゴ商品先物取引市場での先物米国債売り(金利上昇)ポジションが大きく積み上がり、一段の金利上昇をはばむ要因となっていたが、今回の局面で一気に米国債売りポジションが解消し、逆に米国債買いポジションに傾いているのである。これまでとは逆の状況であり、ここから米長期金利が下がり辛い状況となるであろう。これは米ドル/円の下支え要因となる。今後順当に6月、9月に追加利上げがなされ、バランスシート政策*3への着手が今年12月とするならば、秋口以降に米長期金利動向が相場のテーマとなることも考えられる。

    短期的なドル上げ要因として日本株動向について考えてみたい。本稿執筆時点では日経平均株価が2015年12月以来の2万円回復をうかがっている。4月日銀短観で示された大企業製造業の2017年上半期想定為替レートは108円45銭であり、現在の為替水準であれば、上半期決算での増益要因となろう。日本証券取引所の発表(投資主体別売買動向)によると、外国人投資家は、昨年11月からのトランプラリー局面で約2兆円日本株を買い越して、本年1月以降でその半分を売却している。外国人投資家から見たドル建て日経平均株価(日経平均株価÷米ドル/円レート)は、現在175ドル前後であり、2000年のITバブル以来の水準に上昇している。日経平均株価が2万円を回復し一段高となれば、前述したように外国人投資家によるヘッジの米ドル/円買いを呼び、ドル高・円安要因となるであろう。

    • *3これまでの金融緩和・量的緩和局面では、FRBが市場から債券を買い入れる(対価として資金を供給)ことでFRBのバランスシート【貸借対照表:資産、負債、純資産の状態を表した計表】規模が膨らんだ。2014年10月末の量的緩和政策の終了とともに、新規の債券買い入れは停止されたが、市場に出回る資金が急激に減少して、市場が混乱するのを回避するため、FRBは保有している債券が満期償還した際には、再投資(同額の債券を市場から購入し資金供給を続ける)を行い、バランスシートの規模を維持してきた。今後政策金利が正常化すると共に再投資を停止することで、市場に出回る資金を徐々に回収し(結果としてFRBのバランスシート規模は縮小)し、引き締め効果を浸透させていく。

    「地政学的リスク」は継続しており、本邦輸出企業のドル売りが本格化する時期である。また、本邦経常収支の拡大傾向も変化なく、利上げ効果による米国景気減速もこれから表れるであろう。中長期的にはドル安・円高リスクが高いという考え方に変わりはない。しかしながら、今回の「地政学的リスク」(特に北朝鮮開戦リスク)への過度な反応により、機関投資家は戻り局面での対応が追い付いていないと思われる。米ドル/円の下値不安はやわらいでおり、向こう1ヶ月~3ヶ月程度は堅調な推移となるものと予想する。

    予想レンジ:
    111.50円~116.50円(向こう1ヶ月程度)
    105.00円~118.00円(向こう半年程度)
  • 当内容は2017年5月9日現在の見解です。
執筆者:
株式会社じぶん銀行 ALM部長 島本薫

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