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2023

2023年12月

TOPIC米国雇用統計

  1. 11月雇用統計は、米国景気が緩やかに成長している姿を示唆
  2. 米10年金利の行方は、米中央銀行の政策金利見通しと市場の利下げ期待次第
  3. 日銀がマイナス金利を解除しても、円高圧力は小さいだろう
  4. リスク~アメリカの景気とインフレが上振れること、日本から海外への資金流出増加

米ドル円は、米国景気の減速を示す経済指標が出てくれば、円高へ

2023年10月以降のドル円は、昨年10月以来となる151円台まで円安に動いた後、11月中旬からはドル安円高方向です。ドル円は、一時142円割れまで円高に動きました。米10年金利は、10月に5%近辺まで上昇した後、4.1%程度まで大幅に低下しました。ドル円は、米10年金利を追いかけるように動いています。米10年金利は、堅調なアメリカの経済指標を受けて5%近辺まで上昇しましたが、11月に発表された米雇用統計や米CPIは、アメリカの景気減速とインフレ鈍化の可能性を示唆しました。

円高の流れが続くかは、米国景気の強さと市場の米金融政策予想に左右されると考えます。11月の米雇用統計などから、ドル円の見通しを考えてみます。結論からいえば、当面のドル円は、145円前後で推移すると想定しますが、今後、米国景気の減速を示す経済指標が出てくれば、円高に動くと予想します。

1.11月雇用統計は、米国景気が緩やかに成長している姿を示唆

11月の雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は、前月比で+19.9万人とほぼ市場予想に沿った増加幅でした。自動車大手などのストライキが終わった影響もあり、製造業の雇用も前月比で増加しました。

失業率も3.7%と前月から0.2%低下しました。平均時給も、前月比+0.4%、前年比+4.0%と堅調でした。11月の雇用統計は、米国景気が緩やかに成長している姿を示唆していると考えます。市場では、米国景気の下振れへの警戒感が薄れて、米10年金利が上昇し、ドル高円安に動きました。

2.米10年金利の行方は、米中央銀行の政策金利見通しと市場の利下げ期待次第

米10年金利は、10月の5%程度から4.1%台まで低下してきましたが、米11月雇用統計を受けて小幅上昇しました。アメリカの政策金利は5.25-5.50%ですから、米10年金利は政策金利を1%以上も下回っています。ただし、過去の米政策金利と米10年金利の関係を考えると、米利下げ直前であれば、米10年金利が米政策金利を1.5%程度下回ることもありえます。よって、米10年金利は、アメリカの利下げが視野に入るか次第で上下に動くでしょう。

12月のFOMCでは、経済や政策金利の見通しが示されます。米国景気は底堅く、インフレ率もまだ高いため、アメリカの中央銀行は、過度な利下げ期待をけん制すると想定されます。12月FOMC後には、米10年金利が一旦上昇する可能性があるでしょう。

しかし、市場の利下げ期待は、長い目でみれば、アメリカの景気と物価の見通し次第です。米国景気の減速感が強まり、インフレ率がさらに縮小すれば、市場で、早期の米利下げ期待が高まることもありえます。その場合、米10年金利に低下余地が出てくるため、円高材料になるでしょう。

3.日銀がマイナス金利を解除しても、円高圧力は小さいだろう

市場で米利下げの前倒し期待が強まり、米金利低下が低下したことを受けて、円金利も一旦低下しました。しかし、直近では、日銀高官の発言を受けて、早期にマイナス金利が解除されることへの警戒感が高まり、円金利は上昇に転じました。実際に、日銀がマイナス金利を解除するのは、来年前半だと予想します。植田日銀総裁が、11月の講演で、「来年の春季労使交渉は重要な点検ポイントであり、その動向を注視していく必要があります」と発言しているためです。2024年の春闘の妥結状況を把握するには、来年まで待つ必要があるでしょう。

日銀のマイナス金利解除への警戒感は、円高材料だと考えます。来年は、欧米の中央銀行が利上げから利下げ局面に転換すると想定される一方で、日銀が利上げ方向に動くと予想されるためです。ただし、日銀がマイナス金利解除後に急激な利上げを実施するとは考えていません。来年の海外景気は減速して、国内景気の不透明感も高まると考えるからです。日銀は、長短金利操作(YCC)やマイナス金利などの非伝統的な金融政策を終了させつつ、緩和的な金融環境を維持するでしょう。ドル円にとっては、日銀よりも、アメリカの金融政策の影響の方が大きいと考えます。

4.リスク~アメリカの景気とインフレが上振れること、日本から海外への資金流出の増加

当面のドル円は、145円前後で推移し、米国景気の減速感が強まれば、円高が進むと予想します。 ただ、円安に押し戻されるリスクもあります。

第一に、米国の景気やインフレが再び上振れるリスクです。

米政策金利が5%を超えても、米国景気は堅調に推移してきました。インフレ率が低下してきたことも、個人消費にはプラスの面があるでしょう。米国の成長率が再加速して、インフレ率が再び上振れた場合、アメリカの中央銀行は高い政策金利を続けるでしょう。その場合、米長期金利は上昇して、ドル高円安に動くリスクがあります。

第二に、日本から海外への資金流出が増加するリスクです。

企業の純直接投資は増加傾向であり、海外への資金流出が増えています。また、個人も、来年拡充される予定の新NISA制度のもとで、海外への投資を増やす可能性があります。日本から海外への資金流出が増えれば、円売りが増えることで、円安要因でしょう。

執筆日:2023年12月11日

2023年11月

TOPIC米国CPI

  1. 10月の米CPIコアの上昇率は縮小が続き、市場予想対比で弱め
  2. 大きな日米政策金利差は円安要因だが、急激な円安時には円買い介入が想定される
  3. 米10年金利は米国景気と同じ方向に動くだろう、米金利低下と円高転換を予想

米ドル円は、円安トレンドだが、年末までに円高転換すると予想

2023年10月以降のドル円は、円安トレンドであり、昨年10月以来となる151円台をつけました。米10年金利は、7月に4%前後でしたが、10月には一時5%台まで上昇して、ドル高円安を促しました。米10年金利は一旦4.5%程度まで低下しましたが、米10年金利が低下トレンドに入ったと、市場は確信が持てない状況でしょう。アメリカの中央銀行は、7月利上げ後に、政策金利を5.25%-5.50%で据え置いていますが、日米政策金利差が5%以上もあるなか、金利の高いドルが強くなりやすい状況ともいえます。

アメリカの中央銀行が高い政策金利を長く続ける姿勢を示しているのは、高いインフレ率を抑えるためでしょう。10月の米消費者物価指数(CPI)を確認して、今後のドル円を予想します。当面のドル円は、150円前後のレンジで推移した後、米国景気に減速感が出てくることで、ドル安円高方向に転換すると予想します。

1.10月の米CPIコアの上昇率は縮小が続き、市場予想対比で弱め

10月の米CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.2%、前年比+4.0%と市場予想よりも弱めの結果でした。米インフレ率は着実に縮小しています。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+0.1%とディスインフレが定着しつつあり、サービスコアは前年比+5.5%と上昇幅が縮小しています。粘着性の高いサービス価格の上昇率が縮小トレンドであることは、インフレ沈静化を目指すアメリカの中央銀行には良いニュースでしょう。

米企業への価格関連のアンケート調査などからみると、今後のインフレ率は、縮小方向だと予想します。

2.大きな日米政策金利差は円安要因だが、急激な円安時には円買い介入が想定される

米10月CPI発表後の米金利市場では、アメリカの中央銀行の利上げは終了との見方が強まりました。市場が想定する米利下げ時期も、来年後半からやや前倒しされています。それでも、米政策金利は5.25-5.50%ですから、日米政策金利差は2007年以来となる5%以上の水準が来年初まで続く見通しです。ドル円の予想変動率は低下しており、金利の高い米ドルを買って、金利の低い円を売る、円キャリートレードが発生しやすい環境です。

一方で、今後のドル円が急激に円安に動けば、日本政府の円買い介入が入る可能性があります。日本政府高官は、年初からみて20円以上も円安に動いていることに言及するなど、やや長めの時間軸で為替変動をウオッチしているようです。日本政府は、昨年9月から10月にかけて合計で約9.1兆円の円買い介入を実施しました。昨年のドル円は、昨年10月の152円手前が円安の天井となり、今年1月には127円台まで円高に動きました。昨年の政府の円買い介入は、非常に効果があったようにみえますが、円買い介入と米10年金利の低下局面が重なったためだと考えます。ドル円にとっては、米10年金利のトレンドが低下方向に変わったかが重要でしょう。

3.米10年金利は米国景気と同じ方向に動くだろう、米金利低下と円高転換を予想

米10年金利は7月の4%近辺から10月には一時5%程度まで上昇した後、4.5%前後まで低下する局面がありました。昨日の米10月CPI発表を受けて、米10年金利は、4.4%台まで大幅に低下しました。米インフレが高止まるリスクが後退したためと考えます。米国市場の注目はインフレよりも景気の強さにシフトし、今後の米10年金利は、米国景気の方向に連動して動くと予想します。

アメリカでは、個人のクレジットカードの延滞が増加していること、米ミシガン大学消費者信頼感指数が8月以降に低下していること、などから米個人消費の増加ペースは減速すると予測します。本日の米10月小売売上高に注目です。米国景気は10-12月期から減速すると想定され、その場合、米10年金利は低下するでしょう。昨年からのドル円は、米10年金利との相関が高いため、米10年金利が低下すれば、ドル安円高要因と考えます。

執筆日:2023年11月15日

TOPIC米国雇用統計

  1. 10月雇用統計は、雇用増加ペースが鈍化している可能性を示す
  2. 日銀の金融政策調整で、円金利が上昇しても、円安は続く
  3. 円買い介入の効果も、米10年金利の影響を受けるだろう
  4. 米国景気に減速感が出れば、米10年金利が低下トレンドになり、円高に転換へ
  5. リスク~米国景気の上振れが長引くこと、地政学リスクの高まり

米ドル円は、米国景気の減速感が確認されれば、円高転換と予想する

2023年9月以降のドル円は、円安方向に動いて、昨年10月以来となる151円台をつけました。米10年金利は、7月に4%前後でしたが10月には一時5%台まで上昇し、ドル高円安を促しました。米10年金利が大幅に上昇したのは、アメリカ経済の堅調さが目立っているためでしょう。米金利市場が想定する米利下げの開始時期は、7月には来年前半でしたが、強い米経済指標が続いたことで、来年後半まで後ずれしました。アメリカの中央銀行は、2会合連続で政策金利を据え置いていますが、市場は、高い政策金利が長く続くことを想定しています。

ドル高円安が続くかは、アメリカの10年金利の上昇トレンドが続くか次第だと考えます。10月の米雇用統計などから、ドル円の見通しを考えてみます。結論からいえば、当面のドル円は、150円前後で推移すると想定しますが、今後、米国景気の減速を示す経済指標が増えれば、ドル安円高方向に変わると予想します。

1.10月雇用統計は、雇用増加ペースが鈍化している可能性を示す

10月の雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+15.0万人と市場予想を下回り、過去2か月分も下方修正されました。

失業率も3.9%と前月から0.1%上昇しました。また、平均時給も、前月比+0.2%、前年比+4.1%と上昇幅が縮小しています。雇用の増加ペースが緩やかになり、賃金インフレも収まる方向です。10月雇用統計は、米国景気が減速して、インフレが鎮静化している可能性を示唆しました。

さらに、米ISM非製造業景気指数も51.8に低下しました。市場では、12月以降の追加利上げへの警戒感が後退し、10月中旬に5%近辺だった米10年金利は、4.5%近辺まで低下しています。

2.日銀の金融政策調整で、円金利が上昇しても、円安は続く

10月には、日銀が長短金利操作(YCC)の柔軟化を実施したため、円の10年国債金利は上昇しました。具体的には、日銀は10年国債金利の上限を1%で厳格に抑制してきましたが、10年金利の上限は1.0%を「目途」とすることに変えました。日銀が10年国債金利の1%超えを容認することを意味しており、市場は、YCCの長期金利目標が実質的に形骸化したと受け止めたとみられます。市場では、日銀のマイナス金利解除が近づいているとの見方が増えて、円の10年国債金利は上昇しましたが、円安を抑制する効果は限定的でした。

日銀の金融政策調整を受けても、ドル高円安トレンドが続いている理由は、2つ考えられます。第一に、ドル円と相関の高い日米10年金利差は、長い目でみれば、米10年金利の上下に左右されてきました。10年金利の変動幅は、アメリカの方が日本よりも大きいことが多いためです。米10年金利の上昇トレンドが変わるかが、ドル円にとっては重要だと考えます。

第二に、日米の短期政策金利の差が大きいことが、ドル高円安を促していると考えます。米国の政策金利は5.25-5.50%であるのに対して、日銀の短期政策金利は-0.1%であり、日米の政策金利差は5%を大幅に超えています。さらに、ドル円の予想変動率が低下しています。金利の高いドルを買って、金利の低い円を売る取引が増えやすい環境といえます。

ドル円にとっては、米金融政策とその見通しを反映する米10年金利の方向が重要だと考えています。

3.円買い介入の効果も、米10年金利の影響を受けるだろう

円買い介入とドル円の関係を考える上でも、米10年金利の方向が重要だと考えます。10月3日に150円台まで円安に動いた後、一時的に147円台まで2円以上急落する局面がありましたが、日本政府は円買い介入を実施していなかったことが確認されています。

とはいえ、今後さらに円安が進めば、日本政府の円買い介入が入る可能性は高いと予想します。神田財務官は、1日に、介入を含めた準備を問われて、「スタンバイだ。マーケット状況を緊張感を持って見ているなかで判断する」と答えました。日本政府は、昨年9月から10月にかけて合計で約9.1兆円の円買い介入を実施しました。ドル円は、昨年10月の152円手前が円安の天井となり、今年1月には127円台まで円高に動きました。昨年の政府の円買い介入は、非常に効果があったようにみえます。

しかし、昨年10月から米10年金利が低下し始めたこともドル安円高要因だったとみられます。円買い介入と米10年金利の天井が重なったことで、円高の値幅が大きくなったと考えます。そのため、今後、米10年金利が上昇するなかで、円買い介入があった場合に、どれだけの円高要因になるかは不透明でしょう。今後の円買い介入は、米10年金利が低下方向に変わる局面で実施されれば、より効果を持つと予想します。米10年金利の行方が重要でしょう。

4.米国景気に減速感が出れば、米10年金利が低下トレンドになり、円高に転換へ

米10年金利を低下させる要因として考えられるのは、米国景気の減速感が強まり、米利上げ終了との見方が強まることでしょう。過去の米利上げ終了局面の前後で、米10年金利はピークアウトする傾向があります。アメリカの中央銀行は、追加利上げの可能性を残しており、市場も追加利上げの可能性を多少は織り込んでいます。市場が米利上げ終了と確信するには、米国景気の拡大トレンドが下向きに変わる必要があると考えます。

アメリカの消費マインドは8月から悪化しています。また、11月FOMCが声明文で指摘したように、家計と企業向けの与信状況は引き締まっているとみられます。個人のクレジットカードや自動車ローンの延滞率は上昇し、米国商業銀行の貸出増加ペースは鈍っています。今後、弱い米国経済指標が出てくれば、米国景気の下振れリスクが意識されるでしょう。その際、共和党が下院で過半数を占めているため、米国政府が財政拡大でサポートするのは難しいと考えます。また、アメリカの中央銀行も、インフレ率が高いために、迅速に利下げするとは想定しづらいです。景気悪化時に、政策当局のセーフティネットが期待しづらいことは、景気の方向性が変わった時に、米10年金利の急激な低下につながる可能性があります。

米国景気の方向が下向きとなり、米10年金利が低下方向に動けば、ドル安円高のペースは意外と早いと考えます。

5.リスク~米国景気の上振れが長引くこと、地政学リスクの高まり

当面のドル円は、150円前後で推移し、米国景気に減速感が出れば、米10年金利の低下トレンドと円高が起きると予想します。ただ、円安が続くリスクもあります。

第一に、米国景気の強さが長引くリスクです。

米政策金利が5%を超えても、米国景気が強いのは事実です。米国の潜在的な経済成長率が上昇していて、インフレ率が再度上昇する可能性が出てくれば、アメリカの中央銀行は利下げではなく、再利上げするかもしれません。その場合、米金利が上昇して、ドル高が続くリスクがあります。

第二に、中東情勢の緊迫化など地政学リスクです。

中東を中心に地政学リスクが高まることは、資源価格の上昇要因になりやすいです。その場合、資源輸入国である日本よりも、資源大国であるアメリカの通貨である米ドルが上昇するでしょう。地政学リスクに伴って、安全資産のドルを買う需要も発生する可能性があります。

執筆日:2023年11月6日

TOPICFOMC

  1. アメリカの中央銀行は政策金利を維持、長期金利上昇の金融引き締め効果に言及
  2. 過去を参考にすれば、米10年金利の上昇余地は小さいと考える
  3. 大きな日米政策金利差は円安要因だが、米10年金利の方向性が重要と考える

米政策金利は据え置き、今後は米10年金利低下に合わせて、円高に転換すると予想

2023年9月以降のドル円は、円安方向に動いてきて、昨年10月以来となる151円台をつけています。米10年金利が一時5%台まで上昇するなか、ドル高円安トレンドは変わっていません。アメリカ経済の堅調さが目立っています。アメリカの7-9月期GDPは前期比年率+4.9%と個人消費を中心に高い成長となりました。アメリカの景気が強くて、米10年金利の天井が明確にみえないなか、米ドルが強い状況が続いています。

では、10月31日から11月1日に開かれた、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)決定内容やパウエル議長記者会見などから、今後のアメリカの金融政策とドル円の行方を考えてみます。

1.アメリカの中央銀行は政策金利を維持、長期金利上昇の金融引き締め効果に言及

アメリカの中央銀行は、11月FOMCで、市場予想通り、政策金利を5.25-5.50%に据え置くことを決定しました。

FOMC声明文では、追加的な引き締めの程度を決定するうえで、「金融政策の累積的な引き締めや、金融政策が経済活動とインフレに与える影響の遅効性、経済や金融の情勢を考慮する」という文言が維持されました。パウエル議長は、記者会見で、追加利上げの選択肢を残しました。

一方、声明文では、経済活動・雇用・インフレに影響を及ぼす公算が大きい要因として、家計と企業向けの与信状況だけでなく、「金融」の引き締まりを追記しました。パウエル議長は、記者会見で、「長期金利上昇によって、ここ数か月の金融環境は顕著に引き締まった」と述べました。米長期金利の上昇が、追加利上げと同じような金融引き締め効果を発揮していることを示唆する発言でした。

市場の関心は、高い政策金利をいつまで維持する見通しなのかという点だったと思います。その点、パウエル議長は、「利下げについて、今は全く考えていない」と発言しましたが、いつまで利下げしないかという時期については明言していません。市場は、雇用統計やCPIなど景気やインフレ関連の経済指標を確認しながら、今後の金融政策見通しを予測していくことになります。

2.過去を参考にすれば、米10年金利の上昇余地は小さいと考える

11月FOMC後の米金利市場は、今後の追加利上げの可能性を多少織り込みつつ、来年後半からの利下げを想定しています。アメリカの景気が強く、インフレ率も高いため、市場は利上げの終了を明確に織り込めていません。

しかし、米10年金利の上昇余地には限界があると考えます。米政策金利は、2006年から2007年にかけて、5.25%で長く据え置かれました。この期間の米政策金利と米10年金利の関係を振り返ると、米10年金利は、概ね政策金利を上限として、平均すれば政策金利よりも0.5%程度低い水準で推移しました。今回、米利上げが終了していると仮定すれば、米10年金利の上限は5.3%台、平均的には4.8%台で推移するとイメージできます。米10年金利は、今年7月まで4%以下で長く推移していたため、最近の金利上昇は急激にみえますが、過去からみれば妥当な水準まで上がってきたといえるでしょう。2006年から2007年を参考にすれば、米10年金利のここからの上昇余地は大きくないと考えます。

昨年3月以降のドル円は、米10年金利と同じような動きをしてきましたので、米10年金利は重要です。11月FOMC後の米10年金利は一旦低下しましたが、今後は米国景気次第でしょう。

3.大きな日米政策金利差は円安要因だが、米10年金利の方向性が重要と考える

日米政策金利が5%を上回っていること、ドル円の予想変動率が昨年10月の円安時に比べれば低いこと、などは金利の高いドル買い要因といえます。当面はドル高円安圧力の強さが意識されやすいでしょう。

しかし、過去2回の米利下げ局面を振り返ると、アメリカが利下げに転じる前に、円安はピークを迎えています。円安のピークは、米10年金利が低下し始める時期とほぼ重なります。そのため、米10年金利が低下するタイミングが重要だと考えます。アメリカの利上げ終了時期を基準にすれば、過去の米10年金利は、アメリカの利上げ終了前か終了から1か月程度で天井を打っています。12月のFOMCでも利上げなしとの見方が強まれば、米10年金利が低下して、円高方向に転換すると予想します。

米10年金利低下のタイミングは、アメリカの景気減速懸念が高まる時期でしょう。11月1日に発表された10月の米ISM製造業景気指数は46.7と50を大幅に下回り弱い結果でした。また、アメリカの個人消費と相関がある消費マインド指数は、8月以降、低下しています。今後、米国景気には減速感が出てくると考えます。その場合、米10年金利が低下して、ドル円は円高方向に転換すると予想します。

執筆日:2023年11月2日

TOPIC日銀

  1. 日銀は、10年国債金利が1.0%を上回ることを容認へ
  2. 日銀のマイナス金利解除は、物価と賃金の好循環の実現がカギになるだろう
  3. 目先のドル円は円安の天井を試すだろうが、来年までに円高転換と予想する

日銀の政策微調整では円安が続くが、来年までには円高転換へ

2023年9月以降のドル円は、円安方向に動いて、昨年10月以来となる151円台をつけています。米10年金利が一時5%台まで上昇するなか、ドル高円安トレンドは続いています。

アメリカの個人消費は堅調に推移しており、アメリカの10月PMI速報値が50割れ寸前から上昇するなど、景気先行指標も強めです。アメリカの景気が強くて、米10年金利の天井がみえないなか、市場参加者は、昨年10月につけた1ドル151円台の更新を意識しているでしょう。

10月の日銀金融政策決定会合の結果などから、今後のドル円の見通しを考えてみます。結論からいえば、当面のドル円は、150円前後のレンジで推移した後、米国景気に減速感が出てくれば、ドル安円高方向に転換すると予想します。

1.日銀は、10年国債金利が1.0%を上回ることを容認へ

10月の日銀金融政策決定会合は、長短金利操作(YCC)の運用の柔軟化を決定しました。具体的には、日銀は10年物国債の実質的な上限である1.0%を「目途」として、1%を上回ることを容認する姿勢を示しました。10年金利の実質的な上限を厳守するために、10年国債を1%で無制限に購入する「指値オペ」を毎営業日実施することをやめます。ただし、日銀は、10年国債金利の「目途」である1%と整合的な金利形成のために、機動的に、国債買入の増額や指値オペを実施するとしています。

しかし、市場は、YCCが実質的に形骸化したと解釈したでしょう。植田日銀総裁は、記者会見で、「(10年国債金利が)1%を大幅に上回るとはみていない」と述べましたが、日銀の金利抑制姿勢が確認されるまで、日本の10年金利は高下すると予想します。

ただし、ドル円と相関の高い日米10年金利差は、長い目でみれば、アメリカの10年金利の上下の影響の方が大きいでしょう。10年金利の変動幅は、アメリカの方が日本よりも大きいと考えます。今はアメリカの10年金利が上昇トレンドであり、ドル高円安要因になっているでしょう。

2.日銀のマイナス金利解除は、物価と賃金の好循環の実現がカギになるだろう

日銀が発表した展望レポート(3ヶ月毎に発表)の経済・物価見通しは、日銀のマイナス金利の解除が近づいていることを意識させる内容でした。

日銀は、2023年度から2025年度のCPIコア見通しの中央値をそれぞれ+2.8%、+2.8%、+1.7%と7月から上方修正しました。数字上は、安定的な2%インフレ目標を2025年度も達成できるとは想定していません。よって、日銀は、粘り強く金融緩和を継続する方針です。

とはいえ、植田日銀総裁は、記者会見で、物価安定の目標の達成について、「見通し実現の確度が少し高まってきていることは事実」と述べました。日銀は、展望レポートの概要の最後で、「賃金と物価の好循環が強まっていくか注視していくことが重要である」としています。物価は2%を上回って上昇しているので、持続的な賃金の上昇が、マイナス金利解除のカギになるでしょう。植田日銀総裁も「来期の春季労使交渉は重要なポイント」と述べています。2024年春闘などで持続的な賃金上昇が確認されて、それがサービス価格などに反映される循環が明確になれば、日銀は、2024年前半にマイナス金利を解除すると予想します。

日銀がマイナス金利を解除しても、日米の政策金利差が大きいことは変わりません。ただし、日銀が2007年以来となる短期金利の引き上げに動けば、心理的な円高要因になると考えます。

3.目先のドル円は円安の天井を試すだろうが、来年までに円高転換と予想する

本日の米FOMCが終われば、次の日米金融政策イベントは12月13日のFOMCと間が空きます。日米政策金利差が5%以上もあるうえ、ドル円の予想変動率が下がりそうであり、金利の高いドルを買って金利の低い円を売る取引が増えやすい時間帯にみえます。

しかし、円安がさらに進めば、日本政府が円買い介入に動くでしょう。11月1日、神田財務官は、為替介入の可能性について「スタンバイしている」と市場をけん制しています。昨年10月のように、アメリカの10年金利が低下するタイミングで、円買い介入が実行されれば、円高要因になると考えます。

その点、IMFは10月発表の世界経済見通しで、アメリカの2023年と2024年の成長率を上方修正しました。一方で、ユーロ圏や中国の成長率見通しを下方修正しています。アメリカ経済だけが強い状況は続くでしょうか。アメリカの利上げの影響が出てくるタイミングは近いと考えます。アメリカの消費マインドは、8月以降、低下しています。また、クレジットカードや自動車ローンの延滞も増えています。アメリカの経済指標が悪化し始めれば、金融市場は米国景気の方向の変化に注目するでしょう。アメリカの景気が軟着陸するか深刻な景気後退に陥るかは、事後的にしか分からないためです。インフレ率がまだ高いため、アメリカの中央銀行が迅速に大幅利下げするとも思えません。主要国でアメリカ経済だけが強いことが広く認識されたことで、アメリカの景気減速時には、ドル安が進みやすいと予想します。

執筆日:2023年11月1日

2023年10月

TOPIC米国CPI

  1. 9月米CPIコアの上昇率は縮小するが、縮小ペースは緩やか
  2. 大きな日米政策金利差が長く続くとの期待感は円安要因だが、介入リスクあり
  3. 米10年金利を予測するうえでは、米景気に減速感が出てくるかが重要

米ドル円は、円安基調だが、年末までに円高転換すると予想

2023年9月以降のドル円は、円安方向に動いて、昨年10月以来となる150円台をつけました。その後は、ハト派的なFOMCメンバーの発言や中東情勢の緊迫化を受けて、米金利が低下したため、一時的にはドル高円安に歯止めがかかりました。

しかし、ドル高円安のトレンドは変わっていないでしょう。アメリカの景気が強いため、利下げ転換には時間がかかるとの見方が根強いためです。地政学リスクの高まりから米10年金利は大幅に低下しましたが、市場が想定する利下げの開始時期は来年6-7月以降と大きく変わっていません。市場参加者は、昨年10月につけた151円台を意識しているでしょう。

とはいえ、アメリカで高い政策金利を長く続ける必要があるのは、インフレ率が高いためでしょう。9月の米消費者物価指数(CPI)を確認して、今後のドル円を予想します。結論からいえば、当面のドル円は、145-150円のレンジで推移した後、米国景気に減速感が出てくれば、ドル安円高方向に転換すると予想します。

1.9月米CPIコアの上昇率は縮小するが、縮小ペースは緩やか

9月の米CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.3%、前年比+4.1%とほぼ市場予想通りの結果でした。ただ、インフレ率の縮小ペースは緩やかです。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+0.0%と前月から伸びが縮小して、サービスコアも前年比+5.7%と上昇幅が7か月連続で縮小しました。ただし、粘着性の高いサービス価格の上昇率の縮小ペースは緩やかです。

米企業への価格関連のアンケート調査などからみると、今後のインフレ率の縮小ペースは緩やかであると予想します。

2.大きな日米政策金利差が長く続くとの期待感は円安要因だが、介入リスクあり

米9月CPI発表後の米金利市場では、高い政策金利が長く続くとの見方が強まりました。11月か12月の追加利上げの可能性を意識しつつ、利下げ転換は、来年後半からとの見方です。この場合、米政策金利は5.25-5.50%ですから、日米政策金利差は2007年以来となる5%以上の水準が来年前半まで続く可能性があります。ドル円の変動幅が大きくならなければ、金利の高い米ドルを買って、金利の低い円を売る、円キャリートレードが拡大しそうです。

ただし、ドル円が150円を超えて上昇するならば、日本政府の円買い介入が入る可能性があります。ドル円の想定変動率は、昨年の円買い介入時に比べて低いです。しかし、日本政府高官は、年初からみて20円以上も円安に動いていることに言及するなど、やや長めの時間軸で為替変動をウオッチしていることを示唆しています。昨年の円買い介入後に、円高転換したのは、米10年金利の低下局面と重なったためだと考えています。米10年金利の動きが重要でしょう。

3.米10年金利を予測するうえでは、米景気に減速感が出てくるかが重要

米10年金利は8月末の4%近辺から一時4.9%程度まで上昇した後、地政学リスクの高まりなどから、4.5%近辺まで低下していました。9月のCPIを受けて、米10年金利は、再び4.6%台まで上昇しています。過去の米10年金利と政策金利との比較や現状の米利下げ織り込みからみて、米10年金利の下限は政策金利より1%程度低い4.3%程度だと予想します。

ただし、市場の米利下げ織り込みやそれを左右する米国景気の強さ次第で、米10年金利は上下両サイドに動くでしょう。個人のクレジットカードの延滞移行率が上昇していること、学生ローンの返済が再開すること、景気先行指標とされる企業の景況感調査などからみて、米国景気は10-12月期に減速の兆しが出ると予想します。その場合、米追加利上げ観測が消えて、米10年金利は低下するでしょう。昨年からのドル円は、米10年金利との相関が高いため、米10年金利が低下すれば、ドル安円高要因と考えます。

執筆日:2023年10月13日

TOPIC米国雇用統計

  1. 9月雇用統計は、米国の雇用の強さを示す
  2. 大きな日米政策金利差とドル円の予想変動率の低下は、引き続き円安要因
  3. 為替介入だけでなく、米10年金利の動きが、ドル円を左右するだろう
  4. 米国景気に減速感が出てくれば、米10年金利低下で、ドル安円高に転換へ
  5. リスク~米国景気の強さが長引くリスク、中東情勢の緊迫化

米ドル円は、米景気の減速感が確認されれば、円高転換と予想

2023年9月以降のドル円は、じりじりと円安方向に動き、昨年10月以来となる150円台をつけました。日本政府高官は円安けん制のトーンを強めましたが、ドル高円安基調は変わっていません。市場参加者は、昨年10月につけた151円台を意識しているでしょう。

アメリカの労働市場や個人消費関連の統計は強めです。9月のFOMCでは、2023年と2024年のGDP見通し(中央値)は前回6月から上方修正され、2024年末の政策金利見通し(中央値)は5.125%と、前回6月の4.625%から0.5%上方シフトしました。景気抑制的な高い政策金利を長く続けると予想するFOMCメンバーが増えたことを意味しています。

アメリカの10年金利は、8月末の4%台から4.9%近辺まで上昇し、米ドル高をけん引しています。ドル高円安が続くかは、アメリカの金利上昇が続くか次第だと考えます。9月の米雇用統計などから、ドル円の見通しを考えてみましょう。結論からいえば、当面のドル円は米国景気の強さを反映して円安基調が続くと想定しますが、今後、米国景気の減速感が確認されれば、ドル安円高方向に変わっていくと予想します。

1.9月雇用統計は、米国の雇用の強さを示す

9月の雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+33.6万人と市場予想を大幅に上回る強い結果でした。過去2か月分も上方修正されました。

一方で、失業率は、3.8%と前月から横ばい。また、平均時給は、前月比+0.2%、前年比+4.2%と緩やかに上昇率が縮小しています。雇用が大幅に増加しているにもかかわらず、賃金インフレは高まっていません。米雇用市場の強さを考えると、アメリカの中央銀行が高い政策金利を長く続ける可能性を高める内容だったでしょう。

今後の米労働市場の波乱要因は、労働組合のストライキでしょう。高い賃上げ要求が通れば、賃金インフレの懸念を高めて、アメリカの中央銀行が高い政策金利を長く続けるリスクになります。

2.大きな日米政策金利差とドル円の予想変動率の低下は、引き続き円安要因

日米の政策金利差の大きさが、ドル高円安を促していると考えます。米国の政策金利は5.25-5.50%であるのに対して、日銀の短期政策金利は-0.1%であり、日米の政策金利差は5%を大幅に超えています。仮に、2024年末の米国の政策金利が9月FOMCの政策金利見通し通りに5.125%まで低下しても、日銀が利上げしなければ、5%以上の日米政策金利差が続きます。

日米の政策金利差が5%以上になるのは、2007年以来です。当時は、米ドルと日本円で運用した時の金利差が大きいため、金利の低い円で資金調達して、金利の高い米ドルで運用して利ザヤを稼ぐ円キャリートレードが増えて、ドル高円安要因になりました。

米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによれば、投機筋のドル買い円売りのポジションは、95億ドル程度にじりじりと拡大しています。2007年の円売りポジションの最大額は、191億ドルであり、円売りの拡大余地はありそうです。

日米の政策金利差をリターンとすれば、ドル円の予想変動率がリスクともいえます。ドル円の1か月の予想変動率は、9%台まで下がっています。よって、ドル円のキャリートレードのリスク対比でみたリターンは上がっています。投機筋の円キャリートレードが急増した2006年7月から2007年6月のドル円の予想変動率は、平均で7%台でした。予想変動率の水準でみても、円キャリートレードが増加しやすい水準まで下がっています。

3.為替介入だけでなく、米10年金利の動きが、ドル円を左右するだろう

ドル円は、10月3日に150円台まで円安に動いた後、一時的に147円台まで2円以上急落する局面がありました。市場では、日本政府が円買い介入を実施したとの観測が広がりましたが、日銀当座預金の動きからみて、為替介入が入った可能性は低いとみられます。

ただし、今後さらに円安が進めば、日本政府が円買い介入を実施する可能性は高いと考えます。神田財務官は、4日に、為替介入の有無にノーコメントとしたうえ、「年初来からだとドル円は20円以上の値幅がある。そういったことも一つの要素だ」、「一方的な動きが積み重なって一定期間に非常に大きな動きがあった場合は過度な変動にあたりうる」と述べました。これまで、日本政府高官は、一方向的で、過度な値動きがあれば、為替介入を検討するとコメントしていました。もっとも、神田財務官の発言は、過度な変動を判断する時間軸は、短期間だけでなく、半年から1年程度の長期的な観点も含まれると受け止められます。

しかし、円買い介入が入れば、円高トレンドに転換するとは考えていません。昨年10月の円買い介入の後の円高転換は、米10年金利が低下し始めたタイミングと重なっていた点が重要でしょう。円高転換には、将来の景気動向に敏感なアメリカの10年金利が低下して、ファンダメンタルズがドル安要因となることが必要でしょう。

4.米国景気に減速感が出てくれば、米10年金利低下で、ドル安円高に転換へ

10月末から11月初めに、日米の金融政策を決める会合が予定されています。日銀金融政策決定会合では、展望レポートで経済物価見通しが更新されます。市場は、日銀が来年1-3月にもマイナス金利を解除することを想定しています。前回7月の物価見通しでは、2023年度と2024年度の物価見通しには上振れリスクありとの判断でした。今回10月見通しでは、2024年度や2025年度のCPIコア見通しが2%程度まで上方修正されるかに注目です。ただし、円10年金利が上昇しても、アメリカの10年金利の変動幅に比べれば小さいため、アメリカの金利動向がドル円には重要と考えます。

米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果は11月1日に発表されます。市場では、11月の利上げは見送られるとの見方が優勢です。ただ、市場の注目は、高い政策金利がいつまで続くかという点でしょう。その点、今の米国景気は強いですが、年末にかけては減速すると予想しています。理由は、コロナ禍の給付金などで生じた過剰なコロナ貯蓄が枯渇するリスクがあること、個人のクレジットカードの延滞移行率が上昇していること、学生ローンの返済が再開すること、などが挙げられます。市場が予想するアメリカの利下げ時期が、来年後半から前倒しされれば、アメリカの金利が低下して、ドル安円高に動くと考えます。

5.リスク~米国景気の上振れが長引くこと、中東情勢の緊迫化

当面のドル円は、145円から150円で推移し、市場が予想する米利下げ時期が前倒しになれば、ドル安円高に動くと予想します。なお、ドル円が大きく高下する要因もあります。

第一に、米国景気の強さが長引くリスクです。

米10年金利が節目となる5%に近い水準まで上昇したのは、米国景気の強さが来年まで続くリスクが意識されているためでしょう。それが実現した場合、景気を熱しも冷ましもしない中立金利が上昇したとの見方が再び強まる可能性があります。その場合、来年後半以降に織り込まれている利下げ見通しが後退することで、米金利がさらに上昇するリスクがあります。

長い目でみれば、高すぎる金利が長く続くことで、深刻な景気悪化が起こる懸念が高まるものの、短期的にはドル高要因になると予想します。

第二に、中東情勢の緊迫化です。

中東情勢の緊迫化が為替市場に与える影響は不透明です。初期反応としては、地政学リスクの高まりは、安全資産である米国債の買い(金利低下)要因でしょう。米金利が低下すれば、ドル安円高材料といえます。

しかし、長期的には、9日のWTI原油先物価格が大幅上昇したように、原油価格の上昇を通じて、世界的にインフレ不安を高める材料にもなります。日本は原油輸入国なので輸入のドル買いが増えることで、ドル高円安要因ともいえます。中東情勢の緊迫化がどの程度続くのか、原油価格の上昇が続くのか、などによってドル円への影響は変わってくる点には注意が必要です。

執筆日:2023年10月10日

2023年9月

TOPICFOMC

  1. アメリカの中央銀行は、高い政策金利をより長く続ける可能性を示唆
  2. 来年の利下げ見通しの変化に注目、米国景気の強さがドル円を左右するだろう
  3. 大きな日米政策金利差が円安要因に。為替介入だけでなく、米金利が重要と考える

円安トレンドが続くかは、米国景気の強さ次第だろう

2023年8月以降のドル円は、じりじりと円安方向に動き、昨年11月以来となる148円台をつけました。9月に入って、日本政府高官は円安けん制のトーンを強めて、日銀が早期にマイナス金利を解除するとの観測が高まりましたが、ドル高円安基調は変わりませんでした。

米国景気の強さを背景に、アメリカの早期の利下げ観測が一段と後退したためと考えます。8月の米ISM非製造業景気指数や米小売売上高は、米個人消費が堅調であることを示唆しました。市場参加者は、昨年10月につけた1ドル151円台を意識しているでしょう。

では、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定内容と先行き見通しなどから、今後のアメリカの金融政策とドル円の行方を考えてみます。

1.アメリカの中央銀行は、高い政策金利をより長く続ける可能性を示唆

アメリカの中央銀行は、9月FOMCで、市場予想通り、政策金利を5.25-5.50%で維持することを決定しました。

FOMC声明文では、今後の利上げについて「金融政策の累積的な引き締めや、金融政策が経済活動とインフレに与える影響の遅効性、経済や金融の情勢を考慮する」という中立的な文言が維持されました。一方で、経済活動は堅調なペースで拡大していると、前回の緩やかなペースから、景気判断を上方修正しました。

市場が注目していたのは、3ヶ月に1度のペースで更新する経済・物価・政策金利見通しだったでしょう。2023年末の政策金利見通し(中央値)は、5.625%であり、年内の11月か12月に0.25%の追加利上げを実施する可能性を示しました。また、2024年末の政策金利見通し(中央値)は5.125%と、前回6月の4.625%から0.5%上方シフトしました。景気抑制的な高い政策金利を長く続けると予想するFOMCメンバーが増えたことを意味しているでしょう。市場は2024年末の政策金利見通しの上方修正を予測していたでしょうが、0.5%の上方シフトは市場予想を上回ったとみられ、タカ派的なサプライズと考えます。

2023年と2024年のGDP見通し(中央値)は前回6月から上方修正されて、失業率見通し(中央値)は下方修正されました。FOMCメンバーは、米国景気の見通しを引き上げたのに合わせて、2024年末の政策金利見通しを引き上げたと解釈できます。そのため、米国景気の強さが今後も続くかが、米金融政策の見通しを左右するでしょう。

2.来年の利下げ見通しの変化に注目、米国景気の強さがドル円を左右するだろう

9月FOMC後の米金利市場は、今年の追加利上げの可能性を織り込みつつ、来年の利下げを想定しています。しかし、来年想定されている利下げ幅は、9月FOMCを受けて、さらに縮小しました。米国景気が予想以上に強かったことは、米金利の上昇とドル高円安を促したと考えます。高田日銀審議委員も、9月の記者会見で、為替に関して、米国景気が非常に強い点に言及していました。

ドル円は、今後の米国景気の強さ次第だと予想します。仮に、米国景気が今回のFOMC見通しよりも上振れた場合、来年の米利下げ見通しは更に後ずれするでしょう。一方で、米国景気が下振れた場合には、早期の利下げ見通しが強まるでしょう。景気の方向感が上から下に変わった時に、景気悪化は緩やかであると判断するには相当な時間がかかります。日米金利やドル円などの市場は、景気の水準よりも方向に左右されやすいと考えます。

3.大きな日米政策金利差が円安要因に。為替介入だけでなく、米金利が重要と考える

市場が警戒する為替介入について、イエレン米財務長官は、19日に、為替の過度な変動を均すような介入については理解できるとの認識を示しました。また、神田財務官は、20日に、米国などの海外当局とは「過度な変動は望ましくないとの認識を共有している」と述べて、円安をけん制しました。ドル円が急速に円安に動けば、日本政府の円買い介入が想定される環境になってきました。

もっとも、ドル高円安を促している大きな要因は、日米の政策金利差が大きい点でしょう。金利の低い円で資金調達して、金利の高い米ドルで運用して利ザヤを稼ぐ円キャリートレードが増えやすい環境です。

昨年10月の円買い介入と円安の天井が重なっているため、円買い介入は非常に有効だったようにみえます。ただし、昨年10月の円買い介入は、米10年金利が低下し始めたタイミングと重なっていた点が重要だと考えます。今後、アメリカの景気減速懸念やそれに伴う早期の利下げ期待が生じるかが、ドル円を左右すると予想します。当面は、景気先行指標である22日発表の9月の米PMI、速報性の高い新規失業保険申請件数などに注目しています。

執筆日:2023年9月21日

TOPIC米国CPI

  1. 8月米CPIコアの上昇率は縮小するが、縮小ペースは緩やか
  2. 9月FOMCで示される2024年末の政策金利見通しが上方修正されれば、円安要因か
  3. 米景気に減速感が出てくれば、ドル安円高に転換へ 

米ドル円は、150円を上限に円安基調だが、10-12月期には円高転換すると予想 

2023年8月以降のドル円は、9月上旬に148円近くまで円安に動きました。しかし、日本政府高官が円安けん制のトーンを強めたこと、日銀が早期にマイナス金利を解除するとの見方が高まったこと、などから一時145円台まで円高に戻しました。ただ、市場参加者は、昨年10月につけた151円台を意識しているでしょう。

植田日銀総裁は、9月9日に発行されたメディアインタビューで、次の政策変更に必要な来年の賃金上昇の見極めについて「年末までに十分な情報やデータがそろう可能性はゼロではない」と述べました。市場は、日銀が来年1月にもマイナス金利を解除する可能性を意識したとみられます。円の10年国債金利は、約10年ぶりに一時0.7%台まで上昇し、円金利市場は2024年1月にもマイナス金利が解除される可能性を織り込みました。

しかし、ドル高円安基調は変わっていないようです。アメリカの8月雇用統計は労働需給の緩和を示しましたが、8月のISM非製造業景気指数は上昇して米個人消費が堅調な可能性を示唆しました。米国景気が想定以上に底堅いことを背景に、日米の政策金利差に着目したドル買い円売りが入りやすいとみられます。

9月19・20日の米FOMCに向けて、8月の米消費者物価指数(CPI)を確認して、今後のドル円を予想します。結論からいえば、当面のドル円は、150円を上限に円安基調が続くでしょうが、米国景気の減速感が明確になれば、ドル安円高方向に転換すると予想します。

1.8月米CPIコアの上昇率は縮小するが、縮小ペースは緩やか 

8月の米CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.3%、前年比+4.3%とほぼ市場予想通りの結果であり、インフレ率の縮小が確認されました。ただし、縮小ペースは緩やかです。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+0.2%と7月から伸びが縮小して、サービスコアも前年比+5.9%と上昇幅が6か月連続で縮小しました。ただし、粘着性の高いサービス価格の上昇率の縮小ペースは緩やかです。

米企業への価格関連のアンケート調査などからみると、今後のインフレ率の縮小ペースも緩やかであると予想します。

2.9月FOMCで示される2024年末の政策金利見通しが上方修正されれば、円安要因か

米8月CPI発表後の米金利市場は、9月以降の追加利上げを警戒したままです。米国の政策金利は5.25-5.50%であるのに対して、日銀の短期政策金利は-0.1%であり、日米政策金利差が5%を大幅に超えていることは、ドル高円安要因とみられます。

当面の注目点は、9月19・20日のFOMCで示される2024年末の政策金利見通しです。前回6月分では、2024年末の政策金利見通しの中央値は4.625%と、2024年に1%程度の利下げが想定されていました。実際、米金利市場は2024年中に1%程度の利下げを想定しています。

しかし、6月以降の米経済指標は底堅く、高めの政策金利を長く続けたいと考えるFOMCメンバーが増える可能性があります。その場合、2024年末の政策金利見通しの中央値が上方修正されて、米金利が上昇すると考えます。ドル高円安要因でしょう。

3.米景気に減速感が出てくれば、ドル安円高に転換へ

直近では、植田日銀総裁のインタビュー記事を受けて、日銀の金融政策に注目が集まり、円金利も上昇しています。しかし、日銀のマイナス金利解除の観測が高まっても、一方向的な円安に歯止めをかける程度だと考えます。日本の政策金利の上昇幅が0.1%から0.2%に過ぎないとみられる一方で、アメリカの政策金利見通しの変化幅の方が大きいためです。ドル円にとっては、アメリカ要因の方が重要でしょう。

その点、米経済指標の底堅さは、米金利の高止まりにつながっています。14日に発表される8月の米小売売上高、毎週発表される米新規失業保険申請件数、景気先行指標とされる企業の景況感調査などで、景気減速の兆しが確認されるかに注目します。

仮に、米国景気の減速を示唆する経済指標が増えてくれば、市場は、アメリカの利上げが近いうちに終了することを意識するでしょう。その場合、過去5回の利上げ停止前後の米10年金利の動きを振り返ると、過去の米10年金利は、米利上げ停止前か利上げ停止から1か月程度でピークをつけています。 昨年からのドル円は、米10年金利との相関が高いため、米10年金利が低下すれば、ドル安円高要因でしょう。

執筆日:2023年9月14日

TOPIC米国雇用統計

  1. 8月雇用統計は、労働需給の緩和を示す
  2. 大きな日米政策金利差とドル円の予想変動率の低下は、円安要因だろう
  3. 9月FOMCの焦点は利上げの有無だけでなく、中期的な政策金利見通し
  4. 米利上げ終了ならば、米10年金利は低下しやすく、ドル安円高に転換へ
  5. リスク~米国景気やインフレの上振れ、円買い介入

米ドル円は、145円中心で推移した後、長い目でみれば、円高転換と予想

2023年8月以降のドル円は、上旬に141円台まで円高に動きましたが、月後半には一時147円台をつけて、円安方向の戻りを試しています。市場参加者は、昨年10月につけた151円台を意識しているでしょう。

アメリカでは堅調な7月の小売売上高や7月のPPIコアの上振れに加えて、経済を熱しも冷ましもしない米中立金利が上昇したとの議論を受けて、米10年金利が4.3%台まで上昇し、ドル高が進みました。一方で、1ドル145円から150円近辺は日本政府が昨年に円買い介入した水準であり、円安の進行ペースは緩やかです。

市場が注目していたパウエルFRB議長の8月25日講演は、市場に中立的な内容でした。パウエル議長は、今後の金融政策について、「適切ならさらに利上げする用意がある」と述べつつも、データ次第で政策金利を維持する可能性も示しました。米10年金利やドル円の行方は、米経済指標次第でしょう。

8月の米雇用統計などから、ドル円の見通しを考えてみましょう。結論からいえば、当面のドル円は円安基調が続くと想定しますが、米国景気の減速感が確認されれば、ドル安円高方向に変わっていくと予想します。

1.8月雇用統計は、労働需給の緩和を示す

8月の雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+18.7万人と市場予想並みでしたが、過去分は下方修正されました。雇用の増加ペースは鈍くなっています。

また、失業率は、3.8%と前月から0.3%上昇しました。失業率が大幅に上昇した一因は、労働参加率が62.8%と前月から0.2%上昇して、2020年2月以来の高水準まで戻ったためです。雇用市場から退出していた人が求職を始めたため、失業率が上がった面もあるでしょう。米労働市場は求人数が失業者数を大きく上回る需要超過の状態でしたが、労働需給が緩和する兆しと考えます。

平均時給は、前月比+0.2%、前年比+4.3%と減速感がみられました。労働市場の需給緩和を反映しているとみれば、賃金インフレ懸念は後退するでしょう。8月雇用統計は、FRBが9月に利上げする可能性を低下させる内容だったと考えます。ただし、9月FOMCまでには、米8月CPIの発表が残っています。

2.大きな日米政策金利差とドル円の予想変動率の低下は、円安要因だろう

日米の政策金利差の大きさがドル高円安を促していると考えます。米国の政策金利は5.25-5.50%であるのに対して、日銀の短期政策金利は-0.1%であり、日米の政策金利差は5%を大幅に超えています。日米の政策金利差が5%以上になるのは、2007年以来です。当時は、米ドルと日本円で運用した時の金利差が大きいため、金利の低い円で資金調達して、金利の高い米ドルで運用して利ザヤを稼ぐ円キャリートレードが増えて、ドル高円安要因になりました。

米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによれば、投機筋のドル買い円売りのポジションは、84億ドル程度です。2007年の円売りポジションの最大額は、191億ドルであり、円売りの拡大余地はありそうです。

日米の政策金利差をリターンとすれば、ドル円の予想変動率がリスクともいえます。ドル円の1か月の予想変動率は、9%台まで下がっています。投機筋の円キャリートレードが急増した2006年7月から2007年6月のドル円の予想変動率は、平均で7%台でした。今の予想変動率は、円キャリートレードが増加しやすい水準まで下がってきたと考えます。

3.9月FOMCの焦点は利上げの有無だけでなく、中期的な政策金利見通し

9月19・20日のFOMCまでには、8月CPIの発表が残っています。しかし、市場は、9月の利上げを見送ったうえ、11月の利上げバイアスを残すとの見方が多そうです。追加利上げの有無は、経済、インフレのデータ次第で変わらないでしょう。

9月のFOMCの焦点は、利上げの有無だけでなく、3ヶ月に1度のペースで更新する長期的な経済・物価・政策金利見通しです。6月に発表された2023年末の政策金利見通し(中央値)は5.625%と前回3月の5.125%から0.5%上方シフトして、タカ派的なサプライズになりました。

政策金利見通しに関して、2023年末の見通しに加えて、2024年末の見通しも注目されます。前回6月分では、2024年末の政策金利見通しの中央値は4.625%と、2024年中に1%程度の利下げが想定されていました。景気抑制的な金利を長く続けたいFOMCメンバーが多ければ、2024年末の政策金利の見通しが上方修正されて、米金利には上昇圧力になるでしょう。

また、長期的な政策金利見通しが2.5%から上方向に動くかも焦点です。パウエル議長は、8月25日の講演で、「中立金利を確実に特定することはできないため、金融引き締めの正確な度合いは不確実である」と明確な言及を避けました。長期的な政策金利を2.5%より高く想定するFOMCメンバーが増えれば、米10年金利には上昇要因と考えます。

なお、9月21・22日の日銀金融政策決定会合は、現状維持が想定されます。市場への影響は小さいと予想しています。

4.米利上げ終了ならば、米10年金利は低下しやすく、ドル安円高に転換へ

今年10-12月には、ドル安円高に転換すると予想しています。市場は、アメリカの利上げは、9月か11月で最後になると想定しています。

1989年以降、過去5回の利上げ停止(1989年、1997年、2000年、2006年、2018年)の前後の米10年金利の動きを振り返ると、過去の米10年金利は、米利上げ停止前か利上げ停止から1か月程度でピークをつけています。

昨年からのドル円は、米10年金利との相関が高いです。アメリカの10年金利が天井をつけて、低下すれば、ドル安円高要因でしょう。

5.リスク~米国景気やインフレの上振れ、円買い介入

当面のドル円は、145円を中心に推移し、米利下げ転換が意識されればドル安円高に動くと予想します。なお、ドル円が大きく高下する要因もあります。

第一に、米国景気やインフレの上振れリスクです。

市場では、米国景気とインフレの緩やかな減速によるソフトランディングシナリオが浮上しています。8月雇用統計もソフトランディングシナリオに沿った結果だと考えます。しかし、パウエル議長は、8月の講演で、金融政策運営を取り巻く3つの不確実な要因を挙げて、それらの不確実な要因が金融政策を引き締め過ぎるか引き締めが足りないリスクのバランスを取ることを複雑化させると述べました。

当面は、金融引き締めが足りずに、高インフレが定着するのがリスクにみえます。賃金上昇率の鈍化ペースがまだ緩やかなためです。その場合、目先的には、アメリカの中央銀行の更なる利上げが織り込まれて、米金利が上昇し、ドル高円安が進む可能性があります。

第二に、日本政府の円買い介入の可能性です。

日本政府の高官は、足元の円安進行をけん制していますが、円買い介入が実施された昨年9月や10月に比べれば、けん制のトーンは穏やかです。しかし、今後、円安の進行ペースが速くなれば、円買い介入が実施される可能性はあるでしょう。

昨年は、10月の円買い介入と円安の天井が重なり、円買い介入は非常に有効だったようにみえます。ただし、10月の円買い介入は、米10年金利が低下し始めたタイミングとも重なっていました。ドル円を円高トレンドに変えるには、円買い介入だけではなく、米金利の低下など外部環境のサポートも必要だと考えます。円買い介入は、ドル円が大きく高下する要因だと予想します。

執筆日:2023年9月4日

2023年8月

TOPIC米国CPI

  1. 7月米CPIコアの上昇率は縮小、ただし縮小ペースは緩やか
  2. 目先は日米政策金利の差が円安要因か
  3. 米2年金利の大幅な低下が円高転換へのサインと考える

米ドル円は、当面は円安、10-12月期には円高転換を予想

2023年7月以降のドル円は、145円近辺から137円台まで円高に動いた後、再び145円近辺まで円安方向の戻りを試しています。

7月中旬に発表された6月米CPIコアの上昇率が明確に鈍化して、米金利が低下したこともあり、ドル安円高に動いたと考えます。しかし、パウエルFRB議長が7月26日の記者会見で「FRBのスタッフはもはや景気後退を予測していない」と発言するなど、米国景気のソフトランディング期待が高まったことは、円安要因だったでしょう。

また、日銀が7月会合で、長短金利操作目標の運用を柔軟化したため、円10年金利は上昇していますが、0.6%台と修正前の0.4%台から小幅な上昇にとどまっています。ドル円相場への影響は今のところ限定的でしょう。むしろ、円買い材料を消化したことで、日米の政策金利差に着目したドル買い円売りが増えたと予想します。実際、投機筋の円売りポジションは、日銀会合後に小幅拡大しています。

9月中旬のアメリカのFOMCに向けて、雇用統計と米消費者物価指数統計(CPI)が注目されています。米インフレの現状を確認して、今後のドル円を予想します。

結論からいえば、当面のドル円は、円安基調で推移した後、米国景気の下振れがみえてくれば、ドル安円高方向に転換すると予想します。

1.7月米CPIコアの上昇率は縮小、ただし縮小ペースは緩やか

7月の米CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.2%、前年比+4.7%と市場予想通りの結果であり、インフレ率の鈍化が確認されました。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+0.8%と6月から伸びが縮小して、サービスコアも前年比+6.1%と上昇幅が5か月連続で縮小しました。ただし、粘着性の高いサービス価格の上昇率の縮小ペースは緩やかです。

また、7月の米PPIコアの前月比は+0.3%と市場予想を上回り、インフレ圧力の根強さを連想させました。

米企業への価格関連のアンケート調査などからみると、今後のインフレ率の縮小ペースは緩やかであると予想します。

2.目先は日米政策金利の差が円安要因か

米7月CPI発表後の米金利市場は、9月以降の会合での追加利上げを十分に織り込んでおらず、来年の米利下げ転換を織り込んでいます。9月FOMCまでに、米雇用統計とCPIの発表があと1回残っており、今後の金融政策の織り込みは、今後の経済、インフレデータ次第でしょう。

米政策金利は5.25-5.50%と高い一方で、日本の短期政策金利は-0.1%であり、日米政策金利差が5%以上もある状況が続いています。日米政策金利差が5%以上もあるのは、2007年以来となります。FXの投資家にとっては、円売り米ドル買い(円キャリー取引)で金利差による収益が得やすい状況です。

FX投資家がキャリー取引を実施する際のリスクは、ドル円の相場変動が大きい場合です。その点、ドル円の想定変動率(1か月)は、9%台と緩やかに低下しています。円売り高金利通貨買いが出やすいため、円安に振れやすい状況でしょう。

また、今の円安のペースは緩やかであるため、日本政府は、円買い介入を実施しづらいと予想します。

3.米2年金利の大幅な低下が円高転換へのサインと考える

投機筋のドル円ポジションを確認すると、米ドル買い円売りに傾いています。その規模は71億ドル程度と過去の円売りの最高水準に比べれば小さいため、円売り余地が残されていそうです。

ただし、過去の米利下げ局面では、利下げ開始の前に投機筋の米ドル買い円売りポジションは解消される(米ドル売り、円買いが起きる)傾向があります。タイミング的には、利下げの3ヶ月から半年程度前から本格化しました。

市場は、来年3月頃にアメリカの中央銀行が利下げに転換する可能性があると想定しています。その場合、過去の例からいえば、今年10-12月期にも、米ドル買い円売りのポジションが縮小して、ドル安円高に動く可能性があります。政策金利の予想を反映しやすい米2年金利の大幅な低下が円売りポジション縮小の一つのサインと考えています。

米2年金利が低下するきっかけとしては、米国景気の減速を示唆する指標が出てくる、米インフレ率が大幅に下振れるなどが想定されます。円高に振れるサインとして、米経済・インフレ指標の下振れ、それを受けた2年金利の低下に注目します。逆に、米経済やインフレの上振れを示す経済指標が出てくれば、ドル高円安が長引く可能性もあります。9月のFOMCに向けて、円安のトレンドが転換するのか持続するのか、経済、インフレ動向に注意したいと考えます。

執筆日:2023年8月14日

TOPIC米国雇用統計

  1. 7月雇用統計は強弱入り混じる内容、市場は利上げ停止を想定へ
  2. アメリカの10年金利に上昇余地、ドル高円安圧力に
  3. ドル円の想定変動率が低下すれば、日米政策金利差が大きく、円安が進みそう
  4. 長い目でみれば、米利下げが視野に入れば、ドル安円高に転換へ
  5. リスク~米国景気やインフレ指標の上振れ、円長期金利の大幅上昇 

米ドル円は、短期目線で円安、長い目でみれば、円高転換と予想 

2023年7月以降のドル円は、145円近辺から137円台まで円高に動いた後、再び円安方向の戻りを試しています。

1ドル145円近辺は政府が昨年に円買い介入した水準であること、6月の米CPIコアの上昇率が明確に鈍化して米金利が低下したこと、などからドル安円高に動いたと考えます。しかし、パウエルFRB議長が7月26日の記者会見で「FRBのスタッフはもはや景気後退を予測していない」と発言するなど、米国景気のソフトランディング期待が高まったことは、円安要因だったとみられます。

7月27・28日の日銀金融政策決定会合は、長短金利操作目標(YCC)を柔軟に運用することを決定し、円金利は上昇しました。ただ、マイナス金利の解除など、日銀が本格的な金融政策正常化に動くにはまだ時間があることも確認されました。日米政策金利差が5%を大幅に上回るなか、市場はドル買い円売りに傾いたとみられます。

7月の米雇用統計などから、ドル円の見通しを考えてみましょう。結論からいえば、当面のドル円は円安基調と想定しますが、米国景気の減速感が確認されれば、ドル安円高に方向が変わっていくと予想します。

1.7月雇用統計は強弱入り混じる内容、市場は利上げ停止を想定へ 

7月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+18.7万人と市場予想を下回りました。また、過去分も、下方改定されており、雇用の増加ペースは鈍くなっています。

一方で、失業率は、3.5%と前月から0.1%低下しました。平均時給は、前月比+0.4%、前年比+4.4%といずれも強めの結果でした。平均時給の増加ペースは、高止まりしています。雇用者数の増加ペースが鈍化する一方で、平均賃金は高止まりしており、7月雇用統計は強弱入り混じる内容でした。 

雇用統計の結果に対して、FOMCメンバーの発言も利上げ停止と継続で割れています。アトランタ連銀のボスティック総裁は、7月の雇用統計について、「経済はかなり秩序だった形で減速すると想定している」と利上げ停止を示唆するような発言をしました。シカゴ連銀のグールズビー総裁も、メディアインタビューで、政策当局者らはディスインフレのプロセス全体にわたって忍耐強くあるべきだろうと指摘しています。一方で、ボウマンFRB理事は、「インフレ率をFOMCの目標である2%に押し下げるには、追加利上げが必要になる可能性が高い」と発言しました。9月FOMCまでには、1回の雇用統計と2回のCPIの発表があるため、市場の利上げ想定は、これらの経済データ次第で動くでしょう。

2.アメリカの10年金利に上昇余地、ドル高円安圧力に 

アメリカの10年金利は、7月中旬には3.7%台でしたが、今は4%台まで上昇しています。米10年国債金利が上昇したことは、ドル高円安要因になったでしょう。

大手格付会社のフィッチ・レーティングスが8月1日に、米国の外貨建て長期債務格付けを最上位の「トリプルA」から1段階低い「ダブルAプラス」に引き下げたことも米金利上昇方向に影響した可能性があります。

ただ、アメリカの10年金利は、政策金利対比で低すぎたうえ、目先は利下げが見込めないため、上昇したと考えます。過去30年程度で、米10年金利が米政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、1.5%程度の逆イールドが限界であり、米利下げ直前にみられる大きさです。つまり、アメリカの政策金利(中央値)が現行の5.375%で変わらない場合、4.8%台は下限といえる水準です。利下げ直前でないならば、過去の経験からみて、政策金利より1%程度低い4.375%までは米10年金利は上昇する余地があるでしょう。 10年金利は、昨年10月に4.3%台まで上昇しており、一つの節目になりそうです。

3.ドル円の想定変動率が低下すれば、日米政策金利差が大きく、円安が進みそう 

日銀がYCCの柔軟化に動いたにもかかわらず、ドル高円安方向に動いたのは意外でした。日米の政策金利差の大きさがドル高円安を促していると考えます。米国の政策金利は5.25-5.50%であるのに対して、日銀の短期政策金利は-0.1%であり、日米の政策金利差は5%を大幅に超えています。日米の政策金利差が5%以上になるのは、2007年以来です。当時は、米ドルと日本円で運用した時の金利差が大きいため、金利の低い円で資金調達して、金利の高い米ドルで運用して利ザヤを稼ぐ円キャリートレードが増えやすく、ドル高円安要因になっていました。 

米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによれば、投機筋のドル買い円売りのポジションは、69億ドル程度と今年5月以来の低水準まで縮小したので、円売り余地がありそうです。

その場合、2007年との違いは、ドル円のインプライドボラティリティー(予想変動率)の大きさになります。日米の政策金利差をリターンとすれば、予想変動率はリスクともいえます。今のドル円の1か月の予想変動率は10%程度ですが、投機筋の円キャリートレードが急増した2006年7月から2007年6月のドル円の予想変動率は、平均で7%台でした。今の予想変動率は、円キャリートレードが大幅に増加するにはまだ高いでしょう。

ただし、日米の政策金利差は当分動かない可能性があります。その場合、ドル円の予想変動率は低下しそうであり、変動率というリスクが下がれば、円キャリートレードが増える要因でしょう。当面はドル高円安が続く可能性があります。

4.長い目でみれば、米利下げが視野に入れば、ドル安円高に転換へ 

今後半年程度でみれば、ドル安円高に転換すると予想しています。市場は、来年1-3月にアメリカの中央銀行が利下げに転換すると想定しています。その場合、日米の政策金利差の縮小が見込まれるため、投機筋が円売りドル買いのポジションの利益確定(円買いドル売り)に動いて、ドル安円高に方向が変わるでしょう。

過去の米利下げ局面での投機筋の円売りドル買いポジション変化をみると、米利下げ転換の3ヶ月前から半年程度前に、ポジションの圧縮が始まる傾向があります。 

市場が米利下げを意識するきっかけは、米経済指標で、米景気悪化やインフレ率の明確な低下の兆しがみられるかでしょう。当面は、9月のFOMCまでに発表される8月の雇用統計と2回のCPI統計がカギになります。

5.リスク~米国景気やインフレ指標の上振れ、円長期金利の大幅上昇 

当面のドル円は、円安基調で推移し、米利下げ転換が意識されればドル安円高に動くと予想します。 なお、ドル円が大きく高下する要因もあります。

第一に、米国景気やインフレの上振れリスクです。 

市場では、米国景気とインフレの緩やかな減速によるソフトランディングシナリオが浮上しています。しかし、アメリカの中央銀行が政策金利を1年強の間に5%以上引き上げても、明確な景気悪化は確認されていません。コロナ禍で生じた家計の過剰貯蓄などが引き続き消費をサポートすることで、米国景気やインフレが上振れるリスクは残ります。その場合、目先的には、アメリカの中央銀行の更なる利上げが織り込まれて、米金利が上昇し、ドル高円安が進む可能性があります。

第二に、円長期金利の大幅な上昇です。 

日銀は、10年国債金利の実質的な上限を0.5%から1.0%に広げました。ただし、金利上昇ペースが早ければ、日銀は、臨時の国債買入を実施することで、金利上昇ペースを抑制しています。

しかし、今後出てくる賃金や物価上昇率が上振れれば、円金利の上昇ペースが早くなるリスクがあります。経済指標に沿った金利上昇が起きれば、日銀による金利上昇抑制にも限界があるでしょう。円金利の大幅上昇が起きれば、株や為替の変動率も高まり、ドル円も高下するリスクがあります。

執筆日:2023年8月7日

2023年7月

TOPIC日銀

  1. 日銀は、10年国債金利の実質的な上限を0.5%から1.0%に拡大した
  2. 日銀はインフレの上振れを警戒。ただし、短期金利引き上げは来年以降だろう
  3. ドル円は目先円安に動く可能性もあるが、トレンドはドル安円高方向と予想

日銀は7月会合で長短金利操作目標の柔軟な運用を決定、長期トレンドは円高と予想

2023年6月以降のドル円は、138円台から一時145円台まで円安に動きました。しかし、7月に入ると、1ドル145円近辺は政府が昨年に円買い介入した水準であること、7月日銀会合での政策修正観測が高まったこと、などから、一時137円台まで円高方向に押し戻されました。

その7月27・28日の日銀金融政策決定会合は、長短金利操作目標を柔軟に運用することを決定しました。7月28日のドル円相場は、日銀会合の結果発表後に、138円程度から141円程度まで3円程度乱高下しました。

7月の日銀金融政策決定会合の結果などから、今後のドル円の見通しを考えてみます。結論からいえば、ドル円は、日米金利差に伴う円安圧力と来年の米利下げを睨んだドル安円高圧力との綱引きになるでしょう。長期のトレンドはドル安円高と考えます。

1.日銀は、10年国債金利の実質的な上限を0.5%から1.0%に拡大した

7月の日銀金融政策決定会合は、長短金利操作目標の運用の柔軟化を決定しました。具体的には、日銀は10年物国債を無制限に毎営業日購入する「連続指し値オペ」の利回りを0.5%から1%に引き上げました。10年国債金利の実質的な上限が0.5%から1.0%に広がったとも解釈できます。

一方で、各年限において機動的に国債買入額の増額や指値オペなどを実施することで、急激な金利上昇は防ぐ姿勢もみせています。

7月28日の10年国債金利は、0.5%を上回っています。日銀がどの金利水準で金利上昇に歯止めをかけるかが不透明であるため、当面の円10年金利は高下するとみられます。

2.日銀はインフレの上振れを警戒。ただし、短期金利引き上げは来年以降だろう

日銀は、長短金利操作の運用を柔軟化することで、経済・物価の「上下双方向のリスクに機動的に対応していく」としています。日銀が発表した展望レポート(3ヶ月毎に発表)の経済・物価見通しから、市場が上下どちらのリスクを警戒するかを考えてみました。

日銀は、2023年度から2025年度のCPIコア見通しの中央値をそれぞれ+2.5%、+1.9%、+1.6%と示しました。2023年度のCPIコア見通しを+1.8%から+2.5%に上方修正していますが、数字上は、安定的な2%インフレ目標を2024年度以降も達成できるとは想定していません。よって、粘り強く金融緩和を継続する必要があることを示唆しています。

一方で、物価見通しのリスクバランスついて、2023年度と2024年度は上振れリスクの方が大きいとしており、日銀はインフレの上振れリスクを警戒しているようにみえます。

次の日銀の金融政策変更は、長短金利操作(YCC)の撤廃やマイナスの解除でしょう。そのためには、2%インフレ目標の持続的・安定的な実現を見通せる必要があります。日銀は賃金上昇を伴う物価安定目標の達成を目指していますから、次の金融政策変更は、2024年度春闘の結果が判明する2024年春以降でしょう。

3.ドル円は目先円安に動く可能性もあるが、トレンドはドル安円高方向と予想

7月10日の本レポートでは、7月の日銀会合は10年金利目標を修正するには良いタイミングであること、日銀の政策修正があった場合の円高リスクを警戒すること、をお伝えしてきました。日銀会合後の米ドル円は、高下した後、141円前後で推移しており、一方向的な円高は進んでいません。

日米政策金利差が5%以上開いていることは、金利の高いドルを買って金利の低い円を売る取引が増えやすい要因であり、ドル高円安材料となるためでしょう。日米金融政策の先行き不透明感が薄れたことで、ドル円の想定変動率が下がる可能性があることも円売り要因と考えます。

しかし、日銀が長短金利操作の運用を柔軟化したことで、円安圧力は緩和されると考えます。円10年金利の上限は、実質的に0.5%から1.0%に変わったからです。例えば、為替市場が円安に動いた場合、日銀が円10年金利の上昇を容認すれば、一方向的な円安が進みにくくなるでしょう。

昨年3月以降、日米10年金利差が1%縮小すると、円高方向に13円程度動く関係あります。今後の円10年国債金利を予想すると、当面は0.7%程度までは上昇する余地があると考えます。翌日物金利スワップ(OIS)市場をみると、10年OIS金利が、0.7%台まで上昇しているためです。10年国債金利が日銀結果発表前の0.5%以下から0.7%まで0.2%変化して、アメリカの10年金利が変わらないとすれば、日米10年金利差が0.2%程度縮小します。機械的に計算すれば、ドル円は、3円弱、円高方向に動くと試算できます。

円の10年金利は落ち着きどころを探るまで上下するでしょう。国内投資家は、金利の上限がみえれば、一旦、日本国債を買いたいでしょう。日銀の金融政策に対する不透明感が後退したうえ、日銀への警戒感から十分に日本国債に投資できていなかったとみられるためです。8月は、日銀の動きを見守りながら、円金利が落ちつく水準を探る時間帯だと考えます。

その後、今年10-12月期には、来年の米利下げを睨んで、米2年金利が低下しはじめると予想します。その場合、投機筋の円売り米ドル買いが減少するでしょう。円10年金利の上昇余地が広がったこと、将来的に米利下げが視野に入ることでドル安圧力がかかると想定すること、などからドル安円高が長期のトレンドになるとの予想を維持します。

執筆日:2023年7月31日

TOPICFOMC

  1. アメリカの中央銀行は0.25%の追加利上げ実施。最後の利上げかは今後のデータ次第
  2. 年内の米利下げがなければ、米10年金利の低下余地は小さいだろう
  3. 日銀会合が目先の注目点。日銀が現状維持でも、長い目ではドル安圧力を意識

目先のドル円は、日銀の政策修正の有無次第。長い目ではドル安を予想する

2023年6月以降のドル円は、138円台から一時145円台まで円安に動きました。しかし、7月に入ると、政府が昨年に円買い介入した水準である1ドル145円近辺に達したこと、アメリカのインフレ率が明確に下がる兆しが出てドル安に動いたこと、などから137円台まで円高方向に押し戻されました。その後、ドル円は、再び140円を上回っています。

また、7月の日銀金融政策決定会合での政策修正への警戒感も、ドル円を高下させたでしょう。7月28日の日銀会合に向けて政策修正リスクが意識されて、円金利が一旦上昇する局面では円高に動きました。しかし、日銀が現状維持する可能性が高そうだ、という複数の報道を受けて、円安に動きました。

では、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定内容と先行き見通しなどから、今後のアメリカの金融政策とドル円の行方を考えてみます。

1.アメリカの中央銀行は0.25%の追加利上げ実施。最後の利上げかは今後のデータ次第

アメリカの中央銀行は、26日のFOMCで、市場予想通り、政策金利を5.25-5.50%に0.25%引き上げることを決定しました。

FOMC声明文は、今後の金融政策見通しについて「インフレ率を時間とともに2%に戻すために適切となり得る追加的な政策引き締めの程度を決定する上で、委員会は金融政策の累積的な引き締めや、金融政策が経済活動とインフレに与える影響の遅効性、経済や金融の情勢を考慮する」と前回の文言を維持しました。

市場の関心は、9月以降の金融政策への示唆だったでしょう。その点、パウエル議長は、記者会見で、毎回の会合で判断すること、その判断はデータ次第であることを強調しました。9月FOMCまでに2回の雇用統計とCPIの発表があることにも言及しました。また、年内利下げの可能性について、否定的なことは変わりませんでした。

7月の米FOMCの決定内容やパウエル議長の記者会見は、市場にとってサプライズなしと考えます。次回の9月FOMCまでには、2回の雇用統計やCPIを確認することができます。米中央銀行と市場の見通しにずれがあれば、8月後半の米ジャクソンホール会議などで米中銀高官が講演することで、市場との溝を埋めることができるでしょう。アメリカの中央銀行は、柔軟な金融政策運営を実施する余地を確保したといえます 。

2.年内の米利下げがなければ、米10年金利の低下余地は小さいだろう

米金利市場は、9月以降の追加利上げをある程度織り込んでいます。逆に、来年1-3月以降の米利下げ開始の可能性を想定しています。市場の米金融政策予想がどう変わるかは、今後の米経済指標次第でしょう。

米10年金利は3.8%台であり、米政策金利レンジの中央値である5.375%を1.5%程度も下回っています。過去30年を振り返ると、10年金利が政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、利下げ直前に1.5%程度下回るのが限界でした。アメリカの中央銀行の見通し通り、年内の利下げがない場合、当面の米10年金利の低下余地は小さいでしょう。米10年金利が低下して、ドル安円高になる展開は、当面想定していません。

3.日銀会合が目先の注目点。日銀が現状維持でも、長い目ではドル安圧力を意識 。

ドル円相場にとって次の大きなイベントは、28日の日銀金融政策決定会合であり、市場コンセンサスは現状維持とみられます。よって、日銀が10年金利目標などの微修正に動けば、サプライズであり、円金利が上昇して、円高要因になるとみられます。

一方で、日銀が市場予想通り、現状維持を決定すれば、円金利は低下して、円安圧力になると考えます。今年1月の日銀金融政策決定会合以降、長めの円金利は、政策修正がなければ低下するというパターンを繰り返してきたためです。

日銀が現状維持すれば、次の日米金融政策決定会合まで1か月以上も時間があること、日米の政策金利差が5%台と大きいこと、などから金利の低い円を売って、金利の高い通貨を買う取引(円キャリートレード)による円安圧力が意識されるでしょう。日銀会合が現状維持を決定した場合、ドル円は、6月高値の145円方向に動くと予想します。

しかし、金利差を狙った円キャリートレードは、長く続かないと考えます。過去2回のアメリカの利下げ局面では、金融政策に敏感な米2年金利が大幅に下がり始める前後で、投機筋の円売り米ドル買いが減少する傾向がみられました。そして、アメリカが利下げを開始する時には、円売りドル買いのポジションはほぼ解消されていました。

過去2回の米利下げ局面では、米利下げの約3ヶ月から半年程度前から、米2年金利は急速に下がり始めました。今回もアメリカの中央銀行が来年1-3月に利下げ転換するならば、今年10-12月期にも、米2年金利が低下しはじめるでしょう。投機筋の円キャリートレードが長く続かないと考え、今年末にかけてドル安円高に転換すると予想します。

執筆日:2023年7月27日

TOPIC米国CPI

  1. 6月米CPIコア上昇率は明確に鈍化、サービス価格の前年比上昇率の縮小が続く
  2. 米金利市場は、7月の0.25%利上げで米利上げ局面終了と想定
  3. 日銀が、7月会合で10年金利目標を修正するかが、ドル円を左右しよう

米ドル円は、日銀の政策修正の有無次第で高下あるだろう。円高リスクを警戒

2023年6月以降のドル円は、138円台から一時145円台まで円安に動きました。しかし、7月に入ると、1ドル145円近辺は政府が昨年に円買い介入した水準であること、7月日銀会合での政策修正観測が高まったこと、などから、138円台まで円高方向に押し戻されています。ドル円は、チャート上の節目である200日移動平均水準の137円台前半を割り込むかが重要なポイントになるでしょう。

6月まで円が独歩安となった理由は、海外主要中銀が利上げ継続姿勢だったのに対して、日銀が予想外に政策修正に慎重であると、市場が受け止めたことだと考えます。

しかし、5月の毎月勤労統計では、所定内給与の増加率が加速するなど国内の賃金上昇の兆しが確認されました。日銀が10年金利目標を修正するには追い風となる材料です。12日には、円10年金利は0.475%と4月以来の高水準まで上がりました。

7月下旬には、米欧日の金融政策決定会合を控えています。アメリカの金融政策を左右する6月の米消費者物価指数(CPI)から、米インフレの現状を確認します。

結論からいえば、当面のドル円は、138円前後で高下した後、日銀の政策修正の有無で高下すると考えます。円高方向を警戒します。

1.6月米CPIコア上昇率は明確に鈍化、サービス価格の前年比上昇率の縮小が続く

6月の米CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.2%、前年比+4.8%と市場予想を下回って、インフレ率の鈍化が確認されました。CPIコアの前年比上昇率は、2021年後半以来の低い伸びとなりました。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+1.3%と5月から伸びが縮小して、サービスコアも前年比+6.2%と上昇幅が4か月連続で縮小しました。粘着性の高いサービス価格の上昇率が連続して縮小しており、アメリカの高インフレに終息の兆しがみえます。

米企業への価格関連のアンケート調査などからみれば、今後のインフレ率は縮小すると予想しています。

2.米金利市場は、7月の0.25%利上げで米利上げ局面終了と想定

米金利市場は、7月会合の0.25%利上げを織り込んでいますが、9月以降の会合での利上げを十分に織り込んでいません。6月FOMCの政策金利見通しの中央値では、0.5%の追加利上げが示唆されていましたが、米6月CPIを受けて、市場では7月で利上げ打ち止めとの見方が強まりました。9月FOMCまでに発表されるインフレ率が再上昇しなければ、7月で米利上げが終了する可能性は高まったでしょう。

ただし、米10年金利は、4%台から3.8%台まで低下しました。アメリカの政策金利(中央値)が現行の5.125%から5.375%までの上昇にとどまった場合でも、アメリカの10年金利は、政策金利を約1.5%下回る計算です。過去30年程度で、米10年金利が米政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、1.5%程度の逆イールドが限界であり、米利下げ直前にみられる大きさです。米10年金利が更に低下する余地は小さいと想定します。米10年金利低下に伴って、さらにドル安円高が進むとは考えていません。

3.日銀が、7月会合で10年金利目標を修正するかが、ドル円を左右しよう

欧米の中央銀行が7月会合で0.25%利上げを実施するとの見方が大勢である一方で、7月28日の日銀金融政策決定会合の市場予想は定まっていません。日銀が金融政策を判断する材料を考えると、日銀がどう動くかは不透明です。

日銀が10年金利目標の修正などに動くことを後押しする材料はあります。日銀が2023年度のCPIコア見通しを4月の1.8%から2%以上に上方修正するとみられること、日銀が現状維持すれば再び円安が進行する可能性があること、などが挙げられます。また、7月会合で現状維持すれば、10年金利目標の副作用が顕在化した場合の政策対応が難しくなります。次回の9月日銀会合までは、約2か月の間隔が空くためです。国内のインフレ期待上昇や海外金利上昇があれば、円の10年金利が、日銀の許容する0.5%まで上がる危険性は残ります。

一方で、日銀が現状維持を決定する理由もあります。物価の基調を左右する需給ギャップは、日銀の試算によれば、1-3月期時点でマイナスのままです。また、10年金利目標の副作用の一つである、債券市場の機能度低下は、昨年12月の政策修正時と比べれば改善しているとの見方が多いでしょう。

日銀の10年金利目標の修正は、事前に市場に織り込ませることが難しいため、市場にはサプライズにならざるをえないと考えます。そのため、日銀が10年金利目標の修正に踏み切れば、円高要因となるでしょう。一方で、日銀の政策修正への警戒感から、円10年金利が上昇してきました。日銀が現状維持を決めれば、円金利は低下して、再び円安方向に動くと予想されます。

8月以降のドル円相場は、日銀の政策修正の有無に左右されるでしょう。ドル安円高方向のリスクを警戒しています。

執筆日:2023年7月13日

TOPIC米国雇用統計

  1. 6月雇用統計は賃金上昇圧力の強さを示す、市場は7月の利上げ再開を想定へ
  2. 今の日米10年金利差からみて、ドル円は適正水準にみえる
  3. 日銀が、7月会合で、10年金利目標を修正するかが最大の注目点
  4. ユーロは、貿易収支改善、証券投資での資金流入への変化にサポートされそう
  5. リスク~日銀緩和の長期化期待、円売りやユーロ買いポジションの圧縮

7月以降の米ドル円は、日銀の政策修正の有無が焦点に。円高リスクを警戒

2023年6月以降のドル円は、138円台から一時145円台まで円安に動きました。世界的にインフレ率が高止まりするなか、主要中央銀行が利上げを継続し、アメリカの中央銀行は利上げを見送りましたが、0.5%の追加利上げの可能性を示唆しました。一方、日銀は、6月の金融政策決定会合で現状維持を決定しました。

また、欧州中央銀行が6月下旬に開いた国際金融会議の討論会でも、米欧英の中央銀行総裁が金融引き締めの必要性を述べた一方で、植田日銀総裁は金融緩和を継続している理由を説明しました。

6月は円安ドル高だったわけですが、ユーロやポンドは対米ドルで上昇しています。つまり、内外金融政策の方向性の違いを反映して、日本円だけが安くなっています。 ただし、1ドル145円水準は、財務省が昨年に円買い介入した水準であり、ドル高円安進行にも一旦歯止めがかかっています。

今の円安ペースならば、円買い介入はないと考えます。 円買い介入が正当化される理由は、一方向的で、急激な円安でしょう。今の円安は一方向的ですが、昨年ほど急ピッチではありません。ドル円の想定変動率も、昨年の円買い介入時に比べて低いです。

6月の米雇用統計などから、ドル円の見通しを考えてみましょう。結論からいえば、当面のドル円は、円安方向の上限を試した後、7月26日から28日に集中する米欧日の金融政策次第となるでしょう。市場は、アメリカの中央銀行と欧州中央銀行が0.25%の追加利上げを実施することをほぼ織り込んでいます。一方で、円10年国債金利は0.4%台であり、日銀が10年金利目標を修正することは、市場コンセンサスではないでしょう。日銀が10年金利目標を修正するか否かが、8月以降のドル円を左右すると考えており、日銀の政策修正があった場合の円高リスクを警戒します。

1.6月雇用統計は賃金上昇圧力の強さを示す、市場は7月の利上げ再開を想定へ

6月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+20.9万人と市場予想を下回りました。また、過去分も、下方改定されており、雇用の増加ペースは鈍くなっています。

一方で、失業率は、3.6%と前月から小幅低下しました。平均時給は、前月比+0.4%、前年比も5月と同じ+4.4%といずれも強めの結果でした。平均時給の前年比の増加ペースは、高止まりが続いています。全体として、アメリカの労働市場は底堅く、賃金上昇圧力はまだ強い状況でしょう。賃金と連動しやすいサービス価格の上昇率の高止まりが懸念されます。

平均時給の上昇率が高止まりしていることを踏まると、市場はアメリカの中央銀行が7月に0.25%の利上げを再開すると予想するでしょう。利上げ再開の場合、市場では、利上げがどこまで続くのかという不安が高まるリスクがあります。金融市場の安定には、パウエル議長が市場と上手く対話する必要があるでしょう。

2.今の日米10年金利差からみて、ドル円は適正水準にみえる

米10年金利は、6月初めには3.6%程度でしたが、今年3月以来となる4%台まで上昇しています。アメリカの中央銀行が市場予想を上回る0.5%の追加利上げの可能性を示唆したこと、6月米経済指標が米景気の底堅さを示したこと、などから米金利に上昇圧力がかかったとみられます。

仮に、アメリカの政策金利(中央値)が現行の5.125%から5.625%まで上昇した場合、アメリカの10年金利は、政策金利を約1.6%も下回る計算となります。過去30年程度で、米10年金利が米政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、1.5%程度の逆イールドが限界であり、米利下げ直前にみられる大きさです。

市場では、年内の米利下げ開始をほとんど織り込んでいません。アメリカの10年金利が低下する余地は小さいでしょう。今のアメリカ10年金利は4%程度であり、円10年金利は0.4%台なので、日米金利差は3.6%程度です。昨年3月からの日米10年金利差とドル円の相関からみて、ドル円は142円台が適正な水準と試算します。今のドル円は、日米10年金利差からみて適正水準に近いと考えます。

3.日銀が、7月会合で、10年金利目標を修正するかが最大の注目点

日銀は、7月27・28日に金融政策決定会合を開きます。同時に、日銀は、展望レポートで、経済・物価見通しを更新します。

日銀の金融政策次第で、円の10年金利と日米10年金利差が大きく動く可能性はあります。日銀が政策修正に動くならば、10年金利目標の修正が最初であり、短期金利目標の変更はかなり先だとみられているためです。内田日銀副総裁は、7月のインタビューでマイナス金利の解除について「その判断には大きな距離がある」と述べた一方で、10年金利目標の見直しについては「バランスをとって判断していきたい」と修正の可能性に含みをもたせました。

7月の日銀金融政策決定会合は、日銀が10年金利目標を修正するには良いタイミングにみえます。第一に、日銀は、2023年度のCPIコア見通しを4月の1.8%から2%以上に上方修正するでしょう。また、5月の毎月勤労統計速報によれば、所定内給与の伸び率が加速していること(賃金上昇)が確認できました。第二に、円安進行は、日銀の金融緩和継続が理由との見方が多いです。第三に、7月会合を逃すと、10年金利目標の副作用が顕在化した場合の政策対応が難しくなります。次回の9月日銀会合までは、約2か月の間隔が空きます。国内のインフレ期待上昇や海外金利上昇が加速すれば、円の10年金利は、日銀が許容する0.5%まで上がる危険性があります。

一方で、物価の基調を左右する需給ギャップは、日銀の試算によれば、1-3月期時点でマイナスのままです。また、現時点では、10年金利目標の副作用の一つである、債券市場の機能度低下は、昨年12月の政策修正時と比べて改善しているとの見方が多いでしょう。

日銀の10年金利目標の修正は、事前に市場に織り込ませることが難しいため、市場にはサプライズにならざるをえません。仮に、日銀が10年金利目標を修正した場合、円の10年国債金利は、一時的に大幅に上昇した後、今より0.3%程度高い0.7%台で落ち着くと考えます。日米10年金利差が0.3%程度縮小すれば、約4円程度の円高要因と予想します。 10年国債金利と連動性が高い円10年OIS金利は、昨年12月の日銀政策修正後に1%台まで上昇しました。しかし、その後、国内投資家は金利上昇に備えてきたため、10年国債金利の上昇幅は小さく収まると想定しています。

今年1月の日銀金融政策決定会合以降、長めの円金利は、政策修正がなければ低下するパターンを繰り返してきました。7月日銀会合で現状維持の場合には、円10年国債金利は、最大で0.1%程度低下すると考えます。日米10年金利差の観点からみれば、円安要因としてのインパクトは小さくみえます。ただし、緩和的な日銀の印象が強まることは、金利差では説明できない円安圧力になる可能性があります。

4.ユーロは、貿易収支改善、証券投資での資金流入への変化にサポートされそう

7月27日には、欧州中央銀行(ECB)の政策金利が発表されます。市場は、政策金利が3.50%から3.75%に0.25%引き上げられると想定しています。市場は、ECBが9月以降も0.25%の追加利上げを実施する可能性を想定しています。

ユーロは、ドルに対して上昇する要因が多いと考えています。第一に、ECBは、アメリカの中央銀行よりも物価の安定を重視する傾向があるため、インフレ抑制のために、高い政策金利を長く続けそうです。第二に、貿易収支が改善基調にあります。第三に、ECBが2014年にマイナス金利を導入してから昨年マイナス金利を解除するまで、約2兆ユーロの証券投資での資金流出がありました。しかし、ECBがマイナス金利を解除した後は、証券投資は資金流出から資金流入へとトレンドが変わってきています。長期的なユーロ高要因だと考えます。

5.リスク~日銀緩和の長期化期待、円売りやユーロ買いポジションの圧縮

当面のドル円は、140円台で推移し、日銀が10年金利目標を修正すれば、円高に動くと予想します。 なお、ドル円が大きく高下する要因もあります。

第一に、日銀緩和の長期化期待と円買い介入です。

日銀が7月金融政策決定会合でも現状維持を決定すれば、日銀の政策修正は当面なしとの見方が強まる可能性があります。その場合、金利の低い円を売って、高金利の通貨を買う取引が増えて、円安が加速する可能性があります。

円安ペースが急激になった場合、政府が昨年と同じように円買い介入に踏み切るリスクが高まります。ドル円は、大きく高下するでしょう。

第二に、投機筋が円売りやユーロ買いのポジションを圧縮することです。

投機筋は、米ドルに対して、ユーロを買い越し、円を売り越しています。

7月下旬には、日米欧の中央銀行の金融政策決定会合が集中しています。欧米の中央銀行の利上げ見通しを変えるような経済指標が出るなどイベントリスクが発生した場合、今のポジションを中立に戻す取引が出る可能性があります。ユーロ売り、円買いが発生した場合、円高に動くリスクがあります。

執筆日:2023年7月10日

2023年6月

TOPIC日銀

  1. 日銀金融政策決定会合は、現状維持を決定。債券市場の機能度が改善
  2. 日銀が10年金利目標を修正したいならば、7月会合はよいタイミング
  3. 日米欧の金融政策決定会合を通過して、ドル円の予想変動率が低下すれば、円安要因に

日銀は6月会合で現状維持を決定、ドル円は予想変動率が低下して、円安方向と予想

2023年6月のドル円は、1ドル138円台から140円台の狭いレンジで推移してきました。しかし、6月14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)が示した政策金利見通しが0.5%の追加利上げの可能性を示唆したことなどから、1ドル141円台まで円安が進みました。

6月15・16日の日銀金融政策決定会合は、現状維持を決定しました。市場は、日銀が10年金利目標を修正するなどのリスクを多少警戒していたため、ドル円相場は、142円近くまで円安に動いています。

6月の日銀金融政策決定会合の結果などから、ドル円の見通しを考えてみましょう。結論からいえば、当面のドル円は、ドル円の予想変動率が低下することで、円安方向の戻りを試すと考えます 。

1.日銀金融政策決定会合は、現状維持を決定。債券市場の機能度が改善

6月の日銀金融政策決定会合の結果は、現状維持でした。日銀は、長短金利操作(YCC)の枠組みを維持し、長短政策金利も変えませんでした。

債券市場サーベイ5月調査によれば、債券市場の機能度判断 DI(機能度が「高い」-「低い」)は、マイナス46と2月のマイナス64から大幅に改善しました。水準的には、日銀が10年金利目標の許容変動幅を拡大した昨年12月会合前に発表された、昨年11月のマイナス51より良かったわけです。10年金利目標の副作用の一つである、債券市場の機能度低下という観点では、6月会合で、10年金利目標を修正する必要性は小さかったでしょう。

2.日銀が10年金利目標を修正したいならば、7月会合はよいタイミング

7月の日銀金融政策決定会合までは、10年金利目標が修正されるとの警戒感が残ると考えます。

例えば、日銀の債券市場サーベイ5月調査によれば、2023年9月末の10年金利予想は0.60%と、日銀の10年金利許容上限である0.50%を上回っていました。市場参加者の過半数は、10年金利目標の修正が7-9月期に実施されると想定していたことが分かります。

日銀が10年金利目標を修正したいならば、7月28日の次回会合は良いタイミングだと考えます。 第一に、日銀は、7月展望レポートで2023年度の物価見通しを上方修正する可能性が高いでしょう。例えば、日銀のCPI(除く生鮮食品・エネルギー)の上昇率見通しは+2.5%ですが、2023年4月実績が前年比+4.1%であり、今後も食料品の値上げ報道が多くみられるなか、食料品によるCPIの押し上げが続くと予想されます。現状の日銀の物価見通しは低すぎると考えます。第二に、市場は、欧米の中央銀行が7月以降も利上げすると想定しています。海外中銀が利上げできるような経済環境ならば、日銀も政策を修正しやすいでしょう。第三に、市場は、衆院の解散総選挙がなければ、日銀の政策の自由度が高まると考えるでしょう。市場の政策修正期待が強い間に、日銀が10年金利目標を修正した方がサプライズは小さいとみられます。

植田日銀総裁は、16日の記者会見で、「(物価の)見通しが大きく変われば政策変更につながってくる」と述べて、政策修正の可能性を残しました。ただし、10年金利目標の修正については、その時点での効果と副作用を比較しつつ決めるとして、明確な政策変更の示唆を避けています。

7月の金融政策決定会合で、日銀が政策を維持すれば、市場の政策修正への警戒感は後退するでしょう。市場は、欧米景気が2024年にかけて減速すると想定しているとみられるためです。その場合、日銀の政策修正による円高リスクは小さくなるでしょう。

3.日米欧の金融政策決定会合を通過して、ドル円の予想変動率が低下すれば、円安要因に

6月13日の米CPI、6月14日から16日の米欧日の金融政策発表といった大きなイベントを通過しました。ドル円の予想変動率(1か月)は、年初来の最低水準に近いです。

外貨に投資する場合に、リターンが金利だとすれば、リスクは予想変動率でしょう。日米政策金利差が約5%もあるなか、リスクが小さくなれば、金利の高い米ドルなどの通貨が上昇しやすくなると予想します。当面は、ドル円が円安方向の戻りを試す局面だと予想します。

執筆日:2023年6月19日

TOPICFOMC

  1. アメリカの中央銀行は、6月に政策金利を据え置いたが、追加利上げの可能性を残す
  2. 年内の米利下げなしならば、米10年金利の低下余地は小さいだろう
  3. 日米欧の金融政策決定会合後に、ドル円の予想変動率が下がれば、円安要因だろう

ドル円は、140円前後で高下した後、予想変動率が下がれば、円安方向と予想

2023年6月のドル円は、1ドル138円台から140円台の狭いレンジで推移してきました。14日から16日に発表される、日米欧の金融政策決定会合の結果待ちだったとみられます。

市場の米利上げ期待は、3月の欧米金融不安の発生を受けて後退した後、米インフレ率の高止まりなどを受けて復活してきました。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を迎える時点では、市場は、アメリカの中央銀行が年内0.25%の追加利上げ後に、いずれ利下げに転換することを想定していました。

では、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定内容と先行き見通しなどから、今後のアメリカの金融政策とドル円の行方を考えてみます。

1.アメリカの中央銀行は、6月に政策金利を据え置いたが、追加利上げの可能性を残す

アメリカの中央銀行は、14日のFOMCで、市場予想通り、政策金利を5.00-5.25%で維持することを決定しました。政策金利の据え置きは、昨年3月の利上げ開始以降で、初めてです。

FOMC声明文は、政策金利据え置きの理由について、「委員会は追加情報とその金融政策への含意の見極めが可能になる」と説明しました。また、今後の利上げについて「金融政策の累積的な引き締めや、金融政策が経済活動とインフレに与える影響の遅効性、経済や金融の情勢を考慮する」という中立的な文言を維持しました。

タカ派的なサプライズだったのは、3ヶ月に1度のペースで更新する経済・物価・政策金利見通しです。2023年末の政策金利見通し(中央値)は5.625%と、前回3月の5.125%から0.5%上方シフトしました。現行の政策金利よりも0.5%高く、2回の追加利上げがある可能性を示唆しています。2023年末の政策金利見通しの分布は、FOMC参加者18人のうち、5.625%が9人と最多で、5.875%以上の3人を加えると、5.625%以上が12人に達します。

政策金利見通しの上方シフトは、前回3月見通しと比べて、2023年の失業率見通し(中央値)が4.1%に0.4%下方シフトして、コアPCEデフレータ上昇率(中央値)が3.9%と0.3%上方シフトしたことと整合的です。

ただし、パウエル議長は、記者会見で、「次回の会合や今後のことについては何も決定していない」「7月の会合はライブであり、データを見て判断する」と、今後の金融政策は、会合毎に経済指標を確認しながら決定する点を強調しました。また、年内の利下げの可能性について、インフレ率に言及しつつ、「FOMC参加者のだれ一人として23年以内の利下げを予想しなかった」と発言しました。アメリカの中央銀行が失業率見通しを引き下げ、インフレ率見通しを引き上げたため、雇用やインフレ関連の経済指標がより注目されるでしょう。

2.年内の米利下げなしならば、米10年金利の低下余地は小さいだろう

6月FOMC後も、米金利市場は、7月以降の0.25%の追加利上げをある程度織り込んでいるだけあり、来年初にかけて利下げに転換すると想定しています。市場の米政策金利見通しは、アメリカの中央銀行の政策金利見通し中央値よりも、ハト派的です。利上げの天井が近づいてきているとみられるため、市場の政策金利見通しが米中央銀行に比べて低くなることは、仕方ないと考えます。

しかし、米10年金利は3.8%程度であり、現行の政策金利レンジの中央値である5.125%を1.3%程度も下回っています。過去30年を振り返ると、10年金利が政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、利下げ直前に1.5%程度下回るのが限界でした。アメリカの中央銀行の見通し通り、年内の利下げがない場合、米10年金利の低下余地は小さいでしょう。 逆に、米追加利上げがあれば、米10年金利が上昇する可能性もあります。よって、大幅なドル安円高は、当面想定していません。

3.日米欧の金融政策決定会合後に、ドル円の予想変動率が下がれば、円安要因だろう

米債務上限問題は一旦解決しており、今週の日米欧の金融政策決定会合で波乱がなければ、7月7日の米6月雇用統計まで市場を動かす大きなイベントはなさそうです。次の日米欧の金融政策決定会合は、7月後半であり、時間があきます。

6月21日が日本の国会会期末であるため、岸田首相が解散総選挙に踏み切る可能性は意識されますが、為替市場への影響は不透明でしょう。

当面は、イベント通過で、ドル円の予想変動率が下がると予想します。その場合、金利が低い円が売られて、金利が高い米ドルが買われやすいでしょう。ドル円は円安方向に動きやすいと考えます。米ドル円は140円前後で高下した後、円安方向の戻りを試すと予想します。

執筆日:2023年6月15日

TOPIC米国CPI

  1. 5月米CPIコア上昇率はまだ高い、サービス価格の前年比上昇率は緩やかに縮小
  2. 米金利市場は、6月の利上げスキップと7月以降の追加利上げを想定
  3. 日米欧の金融政策決定会合後、ドル円の予想変動率が下がれば、ドル高円安要因に
  4. 短期的なリスクは、投機筋の円売りの買い戻しであり、日銀の政策修正に注意

ドル円は140円前後で高下した後、円安方向と予想

2023年5月のドル円は、133円台から一時141円手前まで円安に動きました。その後、6月に入ると、1ドル138円台から140円台の狭いレンジで推移してきました。

5月にドル高円安が進んだ理由は、米インフレ率の高止まりを受けて米追加利上げが織り込まれて米金利が上昇したこと、植田日銀が予想外に政策修正に慎重であると市場が受け止めたこと、などが挙げられます。

また、ドル円は、チャート上の節目となる200日移動平均水準の137円台を上回ったため、円安の流れに拍車がかかったとみられます。200日移動平均線は、ドル円の当面の下値サポートラインになるでしょう。

6月以降のドル円が狭い値幅で動いたのは、今週の日米欧の金融政策決定会合を控えているためでしょう。アメリカの金融政策を左右する5月の米消費者物価指数(CPI)から、米インフレの現状を確認します。

結論からいえば、当面のドル円は、140円前後で高下した後、ドル円の予想変動率の低下を受けて、円安方向に動くと予想します。

1.5月米CPIコア上昇率はまだ高い、サービス価格の前年比上昇率は緩やかに縮小

5月の米CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.4%、前年比+5.3%とほぼ市場予想通りでした。前年比の上昇率は、4月の+5.5%から縮小したものの、2%インフレ目標を大幅に上回っていて高いです。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+2.0%と4月と同じ上昇幅でしたが、サービスコアは前年比+6.6%と上昇幅が3か月連続で縮小しました。粘着性の高いサービス価格の上昇率が連続して縮小したことは、米中銀が利上げを一旦休止して様子をみる可能性を高めたと考えます。

企業へのアンケート調査などからみれば、今後のインフレ率は緩やかに縮小すると予想しています。

2.米金利市場は、6月の利上げスキップと7月以降の追加利上げを想定

米金利市場は、アメリカの中央銀行が6月14日の会合で利上げを見送った後、7月以降の会合で利上げを再開すると織り込んでいます。5月CPIの発表後も、市場が想定する利上げペースの想定は大きく変わっていません。

市場の利上げ織り込みは、FRB高官の発言に沿ったものです。ジェファーソンFRB理事は5月31日に、「次回会合で利上げを見送ることにより、FOMCはより多くのデータを見てから追加引き締めの程度について決定できるだろう」と発言しました。

6月の利上げを見送れば、アメリカの中央銀行は、米銀の貸出状況やインフレのトレンドを、次回7月会合までに慎重に確認したうえで、追加利上げするかを判断できます。6月の利上げを見送った場合、パウエル議長は、追加利上げの有無は今後のデータ次第であり、利上げ完了と言い切れないことを強調すると予想します。

6月14日のアメリカの中央銀行会合の焦点は、利上げの有無だけではありません。アメリカの中央銀行は、6月の会合で、経済、物価、政策金利の見通しを改定します。市場は、米中央銀行メンバーの政策金利予想の分布が、どう変わるかに注目しているでしょう。

市場は、2023年末の米政策金利見通しの中央値が前回3月の5.125%から5.375%に上方修正されることを想定済みでしょう。焦点は、メンバーの政策金利予想の分布であり、全般的に大幅に上方シフトすれば、ドル高円安要因になると予想します。逆に、現行から0.25%利上げした水準である5.25%~5.50%以下に2023年末の政策金利見通しが集中すれば、大幅な追加利上げはないとの見方からドル安円高になると考えます。

3.日米欧の金融政策決定会合後、ドル円の予想変動率が下がれば、ドル高円安要因に

日欧の金融政策に関する市場予想は、15日の欧州中央銀行が0.25%利上げ実施、日銀は現状維持でしょう。日米欧の金融政策決定会合を波乱なく通過した場合、次の日米欧の金融政策決定会合は7月後半と1か月以上も時間があきます。

ドル円の予想変動率(1か月)は、年初来で最低に近い水準です。米ドルへの投資を考えた場合、リターンが米金利ならば、リスクは為替の変動率でしょう。ドル円の予想変動率がさらに下がれば、日米政策金利差が約5%もあるなか、金利の高いドルが強くなると考えます。今後1年でみればドル安円高でも、今後数か月はドル高円安との予想を維持します。

4.短期的なリスクは、投機筋の円売りの買い戻しであり、日銀の政策修正に注意

円高になるリスクは、投機筋が米ドルに対する日本円の売り越しを買い戻すことです。投機筋の円売りポジションは、約94億ドルと昨年5月以来の高水準なので、注意が必要でしょう。

投機筋が円売りポジションを圧縮するきっかけとして、2つの点に注目しています。第一に、日銀が10年金利目標の枠組みを修正する可能性です。植田日銀は金融引き締めに慎重な姿勢を示していますが、それは短い年限の金利を低く維持することを意味すると解釈しています。10年金利目標は、副作用を伴う政策であるうえ、修正する際にはサプライズにならざるを得ません。 6月16日の日銀会合で、10年金利目標が修正される可能性を否定できません。

第二に、岸田内閣が、解散総選挙に踏み切った場合です。6月21日が国会の会期末ということもあり、市場では解散総選挙が近いとの見方もあります。為替市場への影響は不透明ですが、投機筋はイベントリスクを回避するために、円売りポジションを一旦圧縮するかもしれません。

執筆日:2023年6月14日

TOPIC米国雇用統計

  1. 5月米雇用統計は雇用市場の堅調さを示す、市場は、追加利上げを想定
  2. 市場では、年内の米利下げ観測が後退、米10年金利は上昇しやすい
  3. 日銀が、6月会合で、10年金利目標を修正するリスクが、市場で意識されるだろう
  4. ユーロは、貿易黒字転換、証券投資での資金流入への変化にサポートされそう
  5. リスク~米国景気の急激な悪化、円売りポジションの圧縮

米ドル円は、6月中旬まで140円前後で、もみ合い

2023年5月以降のドル円は、133円台から一時141円手前まで円安に動きました。米インフレ率が高止まりするなか、アメリカの中央銀行が追加利上げすることを織り込んで米金利が上昇したこと、植田日銀が予想外に政策修正に慎重であると市場が受け止めたこと、などが円安の理由でしょう。

ドル円は、チャート上の節目となる200日移動平均水準の137円台を上回ったため、円安の流れに拍車がかかったとみられます。 また、米債務上限問題が解決したことで、ドル円の予想変動率が低下すれば、金利の高いドル買い要因になるでしょう。

5月の米雇用統計などから、ドル円の見通しを考えてみましょう。結論からいえば、当面のドル円は、140円台前後で高下すると予想します。6月中旬には、日米欧の金融政策決定会合が控えています。アメリカの中央銀行が7月までには追加利上げするとの見方がドルの上昇要因になる一方で、日銀が10年金利目標を修正することへの警戒感が円高要因となり、綱引きになると考えるためです。

1.5月米雇用統計は雇用市場の堅調さを示す、市場は、追加利上げを想定

5月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+33.9万人と市場予想を上回る増加となりました。また、過去分も、上方改定されており、雇用は堅調に増加しています。

一方で、失業率は、3.7%と前月から0.3%上昇しました。非農業部門雇用者数が事業者調査である一方で、失業率は家計調査から算出されており、統計が異なります。家計調査では、就業者数が31万人減少したため、失業率が上昇しました。雇用関連の指標は、強弱入り混じる内容でした。

また、平均時給は、前月比+0.3%、前年比+4.3%と伸び率が高いですが、増加ペースは緩やかになっています。全体として、アメリカの労働市場は堅調といえるでしょう。

アメリカの中央銀行は、平均時給の上昇率が緩やかになったことを踏まえて、追加利上げを6月ではなく、7月まで待つとみられます。ただし、米5月CPIなどデータ次第でしょう。

2.市場では、年内の米利下げ観測が後退、米10年金利は上昇しやすいだろう

5月の米利上げ後、市場は、アメリカの中央銀行が利上げを停止して、年内に利下げするとの見方を強めました。しかし、その後のインフレ指標の高止まりを受けて、年内の利下げ観測は、後退しています。

その結果、アメリカの10年金利は、5月上旬に3.3%まで低下した後、5月後半に一時3.8%台まで上昇しました。現在は3.7%近辺です。

アメリカの10年金利は、政策金利である5.125%を約1.4%も下回っています。追加利上げがあれば、逆イールドは1.5%を突破しそうです。過去30年程度で、米10年金利が米政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、1.5%程度の逆イールドは利下げ直前だけです。

市場では、年内の米利下げ織り込みが後退していますから、今の10年金利が低下する余地は小さくみえます。アメリカ10年金利の、低下余地は小さく、上昇余地があるとみられることは、ドル高円安要因でしょう。

3.日銀が、6月会合で、10年金利目標を修正するリスクが、市場で意識されるだろう

日銀は、6月15・16日に金融政策決定会合を開きます。植田日銀総裁に交代した後、2回目の会合となります。

植田日銀総裁は、5月19日の講演で、リスクマネジメント・アプローチと呼ばれる考え方では、「拙速な政策転換を行うことで、ようやくみえてきた2%達成の「芽」を摘んでしまうことになった場合のコストはきわめて大きい」と述べました。早期の政策修正には慎重な姿勢を明確にしています。

ただし、植田日銀総裁が言及した「拙速な政策転換」とは、主に短い年限の金利を低く維持する政策だと解釈しています。4月会合の声明文では、今後の金融政策について、「機動的に対応」との文言が加わっており、10年金利目標の修正は、機動的な対応に含まれると考えています。

日銀が公表した5月の債券市場サーベイによれば、機能度判断 DI(機能度が「高い」-「低い」)は、マイナス46と、2月のマイナス64から大幅に改善し、水準も昨年11月のマイナス51よりも上でした。昨年12月、日銀は、債券市場の機能度低下などを理由に、10年金利目標の許容変動幅を拡大しました。日銀が、昨年12月と同じように副作用対応で、10年金利目標を修正する必要性は、現状低いでしょう。

しかし、債券市場サーベイで示された、市場参加者の10年金利見通しの中央値は、2023年9月で0.60%と、日銀が許容する10年金利の上限である0.5%を上回っています。多くの市場参加者は、日銀が10年金利目標を7-9月期に修正する可能性を意識していることが分かります。日銀の10年金利目標の修正は、事前に市場に織り込ませることが難しく、サプライズにならざるをえません。6月16日の日銀会合が近づくにつれて、10年金利目標の修正への警戒感が高まり、円高要因になると予想します。

4.ユーロは、貿易黒字転換、証券投資での資金流入への変化にサポートされそう

6月15日には、欧州中央銀行(ECB)の政策金利が発表されます。市場は、政策金利が3.25%から3.50%に0.25%引き上げられると想定しています。

ユーロは上昇する要因が多いと考えています。第一に、ECBは、アメリカの中央銀行よりも物価の安定を重視する傾向があります。過去には、金融危機発生直前の2008年7月にも、インフレ抑制のために、利上げしました。第二に、貿易収支が黒字転換しており、実需のユーロ買いが復活すると見込まれます。

第三に、ECBが2014年にマイナス金利を導入してから昨年マイナス金利を解除するまで、約2兆ユーロの証券投資での資金流出がありました。しかし、ECBがマイナス金利を解除した後は、証券投資は資金流出から資金流入へとトレンドが変わりつつあります 。長期的なユーロ高要因でしょう。

5.リスク~米国景気の急激な悪化、円売りポジションの圧縮

当面のドル円は、140円前後で高下すると予想します。 しかし、ドル円が円高方向に大きく振れる要因もあります。

第一に、欧米の景気が急激に悪化することです。

アメリカの雇用環境は良好であり、個人消費も増加トレンドです。しかし、サービス業の景況感が強い一方で、製造業の景況感は弱いなど、企業の景況感は強弱が入り混じっています。また、欧米の銀行は、貸出基準は厳しくしています。過去は、銀行の貸出基準が厳しくなれば、景気が悪化することが多かったです。アメリカの政策金利が約1年で5%も上昇したこともあり、企業の借入金利上昇や個人の利子負担の増加などが、景気悪化要因となるリスクがあります。

第二に、投機筋の円売りのポジションの圧縮です。

投機筋は、米ドルに対して、ユーロを買い越し、円を売り越しています。

6月中旬には、日米欧の中央銀行の金融政策決定会合が集中しています。欧米の中央銀行は、経済物価見通しなどを改定します。また、日銀が10年金利目標の枠組みを修正する際には、サプライズにならざるを得ないため、6月に修正される可能性は否定できません。日銀が動いた場合、投機筋が円売りポジションを圧縮して、円高に動くリスクはあります。

執筆日:2023年6月5日

2023年5月

TOPIC米国CPI

  1. 4月米CPIコア上昇率はまだ高いが、サービス価格の前年比上昇率が2か月連続で縮小
  2. 米金利市場は、年内の利下げ予想を強めるが、パウエル議長は利下げ観測をけん制
  3. イベント通過で、米利上げ停止ならば、ドル円の予想変動率は低下するだろう

ドル円の予想変動率が低下して、ドル円は円安方向の戻りを試すと想定

2023年5月のドル円は、137円台まで円安になった後、一時133円台まで円高に動きました。4月の日銀金融政策決定会合が現状維持を決定したことを受けて円安が進行しましたが、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)が利上げ停止の可能性を示唆したことから、ドル安円高に押し戻されました。

ドル円は、チャート上の節目となる200日移動平均水準の137円近辺から円高方向に押し戻されている局面であり、レンジ推移になっています。

しかし、4月最終週から続いた日銀会合、FOMC、米雇用統計という大きなイベントを通過して、ドル円の予想変動率は下がると予想します。日米政策金利差が約5%もあるなか、予想変動率の低下は、金利の高いドルが強くなる要因だと考えます。 当面のドル円は、円安方向の戻りを試すと予想します。

5月FOMCは利上げ停止の可能性を示唆しましたが、米インフレ率が高いままでは、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを停止しづらいでしょう。4月の米消費者物価指数(CPI)から、インフレ率の現状を確認してみましょう。

1.4月米CPIコア上昇率はまだ高いが、サービス価格の前年比上昇率が2か月連続で縮小

4月の米CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.4%、前年比+5.5%と市場予想通りでした。前年比の上昇率は、3月の+5.6%から小幅縮小したものの、2%インフレ目標を大幅に上回っており高いです。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+2.0%と3月から上昇幅が拡大しましたが、サービスコアは前年比+6.8%と上昇幅が2か月連続で縮小しました。粘着性の高いサービス価格の上昇率が連続して縮小したことは、米中銀が利上げを停止する可能性を高める要因でしょう。

しかし、企業へのアンケート調査からみれば、今後のインフレ率の低下ペースは緩やかであり、高止まりするリスクもあると予想しています。

2.米金利市場は、年内の利下げ予想を強めるが、パウエル議長は利下げ観測をけん制

米金利市場は、FRBが6月FOMCで政策金利を維持した後、今年末にかけて利下げすると織り込んでいます。4月CPIの数字を受けて、市場が想定する今年末までの利下げ幅は拡大しました。ドル円も135円台から133円台まで円高に動きました。

FRBの4月融資担当者調査によれば、米銀の企業向けの貸出態度は、1月調査よりも厳しくなっていました。今後、企業の設備投資姿勢などが慎重化して、米国景気が今年後半に減速するリスクが意識されます。米国景気の下振れリスクや米金融システムの安定を重視すれば、市場が利下げを織り込むのは妥当にみえます。

しかし、4月の米CPIコアの上昇率は、前年比+5.5%と高いです。FRBが物価の安定を重視すれば、利下げしづらいでしょう。パウエルFRB議長は、5月FOMC後に、インフレ率が下がるには時間がかかると想定していると述べたうえ、市場の年内の利下げ観測をけん制しました。 実際、インフレ率が高止まりすれば、FRBが利下げに転換するのに時間がかかるリスクも残ります。

3.イベント通過で、米利上げ停止ならば、ドル円の予想変動率は低下するだろう

過去2週間で、日米欧の金融政策決定会合、米雇用統計、米CPIなどの大きなイベントを通過して、ドル円の予想変動率は、低下傾向です。また、過去、FRBが利上げを停止した後は、ドル円の予想変動率は下がりやすい傾向があります。

米ドルへの投資を考えた場合、リターンが米金利ならば、リスクは為替の変動率でしょう。ドル円の予想変動率が下がれば、金利の高いドルが上昇する要因になると考えます。

執筆日:2023年5月11日

TOPIC米国雇用統計 FOMC

  1. アメリカの中央銀行は0.25%利上げ、利上げ停止の可能性を示唆
  2. 4月米雇用統計が底堅く、賃金上昇率も高いため、すぐに利下げする環境にはみえず
  3. 市場は年内の利下げ想定を維持するが、米10年金利上昇がドル高要因になると予想
  4. ユーロ圏の政策金利も0.25%上昇、ユーロ高要因に
  5. リスク~米国景気の急激な悪化、欧米金融市場の不安定化

米ドル円は円安方向の戻りを試すと予想

2023年4月以降のドル円は、130円台まで円高になった後、一時137円台まで円安に動きました。米国景気悪化への警戒感がやや後退したことに加えて、4月の日銀金融政策決定会合が現状維持を決定したため、円安が進行しました。

しかし、ドル円は、チャート上の節目となる200日移動平均水準の137円近辺から円高方向に押し戻されました。米ドル円の方向感は分かりづらいです。

5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定内容や4月の米雇用統計などから、ドル円の見通しを考えてみましょう。結論からいえば、当面のドル円は、円安方向の戻りを試すと予想します。4月最終週から続いた日銀会合、FOMC、米雇用統計という大きなイベントを通過して、ドル円の予想変動率が低下すると想定するためです。日米政策金利差が約5%もあるなか、ドル円の予想変動率が下がれば、金利の高いドルが強くなる要因になるでしょう。

1.アメリカの中央銀行は0.25%利上げ、利上げ停止の可能性を示唆

アメリカの中央銀行(FRB)は、5月3日に開いたFOMCで、政策金利を5.00-5.25%に0.25%利上げすることを決定しました。

FOMC声明文では、今後の利上げについて、前回の「いくらかの追加引き締めが適切となる可能性を見込む」との追加利上げを見込む文言を削除しました。代わりに、「どの程度の追加的な政策引き締めが適切となり得るかを決定する」時には、「金融政策の累積的な引き締めや、金融政策が経済活動とインフレに与える影響の遅効性、経済や金融の情勢を考慮する」との文言が入りました。

パウエルFRB議長は、記者会見で、利上げ停止について「利上げ停止についての議論も多少はあった。これまでの複数の利上げの効果が様々なチャネルに表れていることを踏まえると、利上げは終わりに近づいているか、もう到着した可能性もある」と述べたが、今後評価すると、利上げ停止を明言することは避けました。ただし、市場は、FOMC声明文の文言が変わったこともあり、利上げ停止を示唆したと受け止めたでしょう。

また、年内の利下げの可能性について、「我々はインフレ率がそれほど早く下がることはないだろうとの見解を持っている。(インフレが下がるには)しばらく時間がかかる。そのような状況下ならば利下げに転じることはない」と市場の利下げ観測をけん制しました。

2.4月米雇用統計が底堅く、賃金上昇率も高いため、すぐに利下げする環境にはみえず

5月5日に発表された4月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+25.3万人と市場予想を上回る増加となりました。ただし、過去分は下方修正されています。また、失業率は、3.4%と前月から低下して、低水準です。平均時給も、前月比+0.5%、前年比+4.4%といずれも前月から伸びは加速して、市場予想を上回りました。

3月の求人数は、959万人に減少したものの、4月の失業者数565万人を大幅に上回っています。失業者からみれば、求人が多い状況が維持されており、失業率は上がりにくく、雇用者数が増えやすい労働市場環境が続いています。

アメリカの中央銀行は、物価上昇と賃金上昇が同時に進行することで、物価上昇率が高止まりすることを警戒せざるを得ないでしょう。 すぐに利下げする労働市場環境ではないと考えます。

3.市場は年内の利下げ想定を維持するが、米10年金利上昇がドル高要因になると予想

米FOMCと米雇用統計を受けて、市場は、利上げ停止と年内の利下げ転換の想定を維持しています。アメリカ10年金利は、米FOMC前の3.4%台から一時3.3%まで低下しました。

しかし、アメリカの10年金利は政策金利である5.125%を1.5%以上も下回っています。過去30年程度で、米10年金利が米政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、1.5%程度の逆イールドは利下げ直前だけです。

パウエルFRB議長は、年内の利下げ見通しをけん制しました。アメリカの10年金利の低下余地は小さく、当面は上昇する可能性が高いと予想します。

また、4月最終週から続いた日銀会合、FOMC、米雇用統計などの大きなイベントを通過して、ドル円の予想変動率は、今後、低下すると予想します。その場合、日本円よりも金利が高い米ドルを買う要因になるでしょう。

4.ユーロ圏の政策金利も0.25%上昇、ユーロ高要因に

5月4日、欧州中央銀行(ECB)は政策金利を3.00%から3.25%に0.25%引き上げることを発表しました。

ラガルドECB総裁は、「利上げは止めない」と述べ、追加利上げを検討していることを示唆しました。市場は、ECBが0.5%程度の追加利上げを実施することを想定しています。

市場予想通りならば、アメリカの中央銀行との政策金利差は今後縮小し、ユーロ高ドル安要因になると予想します。

投機筋のポジションは、ユーロ買い、米ドル売りに傾いています。今後、利益確定の反対売買があると想定すれば、ユーロ売り要因となるため、注意が必要です。

しかし、ECBが2014年にマイナス金利を導入してから昨年マイナス金利を解除するまで約2兆ユーロの証券投資での資金流出がありました。 欧州の金利がプラス圏になり、今後は資金がユーロ圏に回帰すると考えます。長期的なユーロ高要因でしょう。

5.リスク~米国景気の急激な悪化、欧米金融市場の不安定化

当面のドル円は、円安方向に戻ると予想します。 しかし、ドル安円高が進むリスクもあります。

第一に、米国景気が急激に悪化する場合です。 アメリカの貯蓄率は上昇しており、コロナ禍で蓄積された過剰な貯蓄の取り崩しが限界に近づきつつあることを示唆しています。アメリカの消費の下振れ要因でしょう。また、米利上げが停止したと考えても、アメリカの政策金利は約1年で5%も上昇しました。企業の借入金利上昇や個人の利子負担の増加など、米国景気への悪影響は、今後顕在化するリスクがあります。

第二に、欧米の金融市場の不安定化です。

欧米の金融不安は、一旦落ち着いたようにみえます。しかし、アメリカの銀行株指数をみると、底打ちとは確認できません。

また、米銀の貸出基準がさらに厳しくなる可能性もあります。米銀の貸出基準は、生産や雇用と一定の相関があり注意が必要です。

執筆日:2023年5月8日

TOPIC日銀

  1. 日銀金融政策決定会合は現状維持、2025年度のCPIコア見通しは1.6%と2%に届かず
  2. 日銀は声明文に「機動的に対応」との文言を追加、金融政策の柔軟性を確保
  3. 日銀会合通過で、ドル円の予想変動率低下、米金融政策と米長期金利の行方に注目

日銀は4月会合で現状維持を決定、ドル円はFOMC次第だが円安方向か

2023年4月のドル円は、130円台まで円高になった後、136円台まで円安に動きました。4月初めに発表されたアメリカの2月求人数が大幅に減少したことなどから、アメリカの景気悪化リスクが意識されました。

しかし、その後に発表された3月米雇用統計で労働市場の底堅さが示されたこと、植田日銀総裁が就任会見で大規模緩和を継続する姿勢を示したこと、などから、ドル円は一時135円台まで円安に動きました。

4月27・28日の日銀金融政策決定会合は、植田総裁の就任後、初めての決定会合でした。4月の日銀金融政策決定会合の結果は、現状維持。日銀が大規模緩和の修正に向けて動くとの警戒感があったこともあり、日銀会合後のドル円は、134円近辺から136円台まで円安が進行しました。

4月の日銀金融政策決定会合の結果などから、ドル円の見通しを考えてみましょう。結論からいえば、当面のドル円は、アメリカの10年金利の上下に左右されると考えます。 5月FOMCが年内の政策金利の据え置きを示唆して、アメリカの金融不安が後退すれば、ドル高円安方向の戻りを試すと予想します。

1.日銀金融政策決定会合は現状維持、2025年度のCPIコア見通しは1.6%と2%に届かず

4月の日銀金融政策決定会合の結果は、現状維持でした。日銀は、長短金利操作(YCC)の枠組みを維持し、長短政策金利も変えませんでした。

4月日銀金融政策決定会合の主な注目点は3つだと考えます。2025年度のCPIコア見通しが1.6%と2%インフレ目標に届いていないこと、先行きの指針(フォワードガイダンス)の修正、金融政策運営についての多角的なレビューの実施です。

日銀は、展望レポート(3ヶ月毎に発表)で、2023年度から2025年度のCPIコア見通しの中央値をそれぞれ+1.8%、+2.0%、+1.6%と示しました。日銀は、安定的な2%インフレ目標の達成を想定していないうえ、2025年度の物価見通し+1.6%には下振れリスクの方が大きいとの見解を示しました。

日銀のCPIコア見通しは、金融緩和が長期化するとの市場の期待を高め、円安要因になったとみられます。 また、植田日銀総裁が、記者会見で「引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクよりも、拙速な引き締めで2%を実現できなくなるリスクの方が大きい」と述べたこともハト派的と受け止められたでしょう。

2.日銀は声明文に「機動的に対応」との文言を追加、金融政策の柔軟性を確保

日銀は、フォワードガイダンスを修正しました。日銀の金融政策の柔軟性を高めると考えます。声明文から「新型コロナウイルス感染症の影響を注視」や「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」という金融緩和含みの文言を削除しました。

一方で、日銀は、「日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の『物価安定の目標』を持続的・安定的に実現することを目指していく」との文言を、新たにフォワードガイダンスの前段に加えました。

賃金の上昇を伴う形での物価安定の目標の実現を目指すことを明記しました。現在のように、賃金上昇率が低いなかで、インフレ率が2%を超えている場合に、金融緩和を維持する明確な根拠となります。逆に、賃金の上昇が持続的になれば、金融正常化を進める明確な指針になるでしょう。

また、日銀は、「機動的に対応」との文言を入れたことで、金融政策の微調整を実施しやすくなったでしょう。 YCCにおける長期金利目標の変動許容幅の調整なども含まれると解釈できます。日銀は、賃金上昇を重視する姿勢を示しつつ、金融政策の柔軟性を高めたと考えます。

さらに、植田日銀総裁は、過去の金融政策運営についての多角的なレビューについて「効果・副作用をなるべく幅広く点検していく」「安定的な2%の可能性も出てきているなかで、うまくいったとき、うまくいかなかったとき、をにらんで用意しておこうと思った」と述べました。例えば、2%インフレ目標が達成できなかった時に、今のYCCの効果と副作用を明確にしておいて、「機動的に対応」するための準備と予想します。

3.日銀会合通過で、ドル円の予想変動率低下、米金融政策と米長期金利の行方に注目

植田新総裁のもとで初めての金融政策決定会合を通過して、ドル円は円安に動きました。また、日銀会合というイベント通過で、ドル円の予想変動率も低下しています。日米政策金利差が約5%もあるなかで、ドル円の予想変動率の低下は、当面のドル高円安要因でしょう。

とはいえ、今後のドル円は、5月FOMC後の、米金利の上下に左右されると考えます。米金利市場は、アメリカの中央銀行が5月にも利上げを停止した後、今年後半には利下げに転換するとの見方を変えていません。

過去の米利上げ停止後、米10年金利は、長い目でみて、低下する傾向があります。過去の経験則通りならば、5月FOMC後、市場が利上げ停止との見方を維持すれば、米10年金利は低下して、ドル安円高要因となりそうです。

しかし、米10年金利は、米政策金利の水準を1.4%程度も下回っており、低すぎると考えます。過去30年程度を振り返ると、米10年金利が米政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、1.5%程度の逆イールドは利下げ直前だけです。

つまり、FOMC後、米利下げ時期が後ずれするとの見方が増えれば、アメリカの10年金利は上昇し、ドル高円安要因となるでしょう。5月2日・3日のFOMC後に、市場の想定する利下げ時期がどう変わるのかに注目しています。また、市場の米政策金利見通しは、アメリカの金融不安の行方にも左右されるでしょう。

執筆日:2023年5月1日

2023年4月

TOPIC米国CPI

  1. 3月米CPIコア上昇率はまだ高いが、サービス価格の上昇率に鈍化の兆し
  2. 米金利市場が今年後半の利下げ転換を想定していることは変わらず
  3. 米国景気や米金融不安の行方は、日銀の金融政策にも影響するだろう

ドル円は、130円台前半のレンジが続くと予想、日米金融政策決定会合まで動きづらい

2023年4月のドル円は、130円台まで円高になった後、134円台まで円安に動いています。4月4日に発表されたアメリカの2月求人件数が大幅に減少したことなどから、アメリカの景気悪化リスクが意識されました。その後に発表された3月米雇用統計で労働市場の底堅さが示されたこと、植田日銀総裁が就任会見で大規模緩和を継続する姿勢を示したこと、などから円安に動きました。

3月の欧米金融不安を受けて、市場は、アメリカの中央銀行は早期に利上げを停止し、今年後半には利下げに転換することを織り込んできました。仮に、米景気減速リスクへの対応や米金融システムの安定を目指すだけならば、アメリカの中央銀行は早期に利下げすると考えます。

しかし、アメリカの中央銀行は、景気や金融システム以外に、物価を安定させる責任があります。米インフレ率が高いままでは、中央銀行は利下げしづらいでしょう。3月の米消費者物価指数(CPI)から、インフレ率の現状を確認してみます。

1.3月米CPIコア上昇率はまだ高いが、サービス価格の上昇率に鈍化の兆し

3月の米CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.4%、前年比+5.6%でした。前年比の上昇率は、2月の+5.5%から小幅拡大して2%インフレ目標を大幅に上回っています。

ただし、米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+1.5%と2月から上昇幅が拡大しましたが、サービスコアは前年比+7.1%と上昇幅が縮小しました。 サービス価格の上昇率が鈍化したことは、米中銀が利上げを停止できる状況になりつつあることを示唆しているでしょう。

米企業への価格関連のアンケート調査をみると、今後の米CPIの上昇率は緩やかに縮小すると予想します。

2.米金利市場が今年後半の利下げ転換を想定していることは変わらず

3月の米CPIは、アメリカのインフレ圧力が緩和する兆しを示したと考えます。ただし、インフレ率の水準自体は高いです。5月2日・3日のFOMCでは、景気や金融システムの安定よりもインフレ抑制を優先するのか、アメリカの中央銀行は難しい判断を迫られます。

米金利市場は、アメリカの中央銀行が5月にも利上げを停止した後、今年後半には利下げに転換するとの見方を変えていません。米国景気の悪化リスクが高まったり、米銀の貸出減少が大幅になれば、アメリカの中央銀行は利下げするとの予測があるのでしょう。たしかに、3月FOMCの議事録では、米金融不安を受けて、多くのFOMCメンバーが十分に引き締め的とみる政策金利の水準を、経済データだけで想定される水準よりも引き下げたことが確認されました。

アメリカの中央銀行が、雇用の最大化(景気)、物価の安定、金融システムの安定という3つの責務を同時に達成するのは簡単ではありません。5月のFOMCで、パウエル議長は、インフレを抑制する姿勢を示しつつ、急激な景気悪化や金融不安の拡大があれば柔軟に行動することを市場に示すとみられます。 今後の米金利は、欧米の金融不安の影響を反映した今後の経済指標、米銀の預金貸出など金融市場の安定度で上下に動くと考えます。

3.米国景気や米金融不安の行方は、日銀の金融政策にも影響するだろう

日銀は、植田新総裁のもとで初めての金融政策決定会合を4月27・28日に開きます。市場では、日銀が早ければ4月にも現行の大規模な金融緩和を修正するとの見方があります。大規模緩和が修正されて、円長期金利が上昇すれば、円高要因との見方もあります。

国内の経済環境は、日銀が大規模緩和を縮小することを後押ししていると考えます。日本のCPIコアが前年比+3.1%と高いなか、春闘の賃上げ率が高い水準で決着しそうなことは、2%の物価安定目標の達成に近づいている可能性を示唆しています。

しかし、海外景気の下振れリスクは、日銀が大規模緩和を維持する理由になるでしょう。植田日銀総裁は、10日の記者会見で、世界経済に下振れのリスクがあることを認識しているとしたうえ、「日本経済の今後の情勢の判断において、その点は十分考慮して毎回の政策決定に当たってまいりたい」と述べました。

日銀が大規模緩和を修正する前提は、米国景気の堅調さや世界の金融市場の安定だと考えます。よって、円金利が上昇する際には、米国金利も上昇しやすいと予想します。日銀が大規模緩和の修正に動くことは、日米金利差からみて、ドル安円高要因になるとは限りません。

執筆日:2023年4月13日

TOPIC米国雇用統計

  1. 3月米雇用統計は底堅く、5月利上げの可能性残るが、市場は利上げ停止の近さを意識
  2. アメリカの金利は、景気後退リスクを織り込んでおり、低下余地は限られるだろう
  3. 植田日銀総裁下でも、円高トレンドをもたらす政策変更は想定しない
  4. 原油高が長引けば、円安要因だろう
  5. リスク~米国景気の急激な悪化、欧米金融市場の不安定化

米ドル円は130円台前半のレンジを予想

2023年3月から4月初めまでのドル円相場は、137円台まで円安に進んだ後、129円台まで円高に動く局面がありました。

パウエルFRB議長は、3月7日の議会証言で、経済データが全体として強ければ、利上げがより早く、より高い政策金利まで続く可能性を示唆しました。ドル円は、3月8日に200日移動平均水準である137円台まで円安に動きました。

しかし、3月中旬からは、複数の米銀行が破綻したうえに、スイスの大手金融機関の信用不安が高まり、安全資産である米国債が買われて(米金利は低下)、ドル円は130円割れまで円高方向に押し戻されました。

ドル円が200日移動平均水準から円高方向に押し戻されたため、市場は円高転換を再確認したとみられます。では、アメリカの金利はさらに低下して、ドル円はさらに円高に動くのでしょうか。3月の米雇用統計から、アメリカの景気の現状を確認してみましょう。

1.3月米雇用統計は底堅く、5月利上げの可能性残るが、市場は利上げ停止の近さを意識

3月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+23.6万人増加し、ほぼ市場予想並みとなりました。失業率も、3.5%と前月から0.1%低下。また、平均時給の上昇率は、前月比+0.3%、前年比+4.2%と伸びが緩やかになっています。

雇用が底堅くても、賃金上昇率が緩やかだったことは、アメリカの中央銀行にとっては理想的なシナリオです。アメリカの中央銀行にとって望ましいのは、12日に発表される3月CPI上昇率が減速している姿でしょう。

3月の米雇用統計を受けて、市場での5月利上げの確率は上昇しました。ただし、市場は、アメリカ景気が今年後半から来年にかけて減速することを想定しています。5月に利上げがあっても、利上げ停止は近いとの見方から、米金利は大幅には上がりにくそうです。

2.アメリカの金利は、景気後退リスクを織り込んでおり、低下余地は限られるだろう

今回の欧米の金融不安の高まりは、過去の金融危機の発生時に匹敵するといえるでしょう。米銀行株は過去3ヶ月のピークから3割下落し、米2年金利は3月8日からの1週間で1%以上も低下しました。米銀行株と米2年金利の急落は、米大手ヘッジファンドが実質的に破綻した1998年、米大手証券会社が破綻した2008年と似ています。

しかし、欧米の金融不安に対する、政府や中央銀行の対応は早いです。例えば、アメリカの中央銀行は、米金融機関が保有する国債や住宅ローン担保証券などを担保に最長1年の融資をする枠組みを導入しました。FRBは、既存の連銀窓口貸出と合わせて、金融機関の資金繰りを支援しています。また、アメリカ政府も、破綻した銀行の預金を全額保護するという異例の措置を取りました。

政府や中央銀行の政策対応が早かったこともあり、米銀行株の下落には歯止めがかかりました。また、米銀がアメリカの中央銀行から受けている資金繰り支援の残高も減少傾向です。今回の金融不安が世界の金融システムに打撃を与えるような金融危機に発展しないと想定しています。

もちろん、欧米の金融不安を受けて、アメリカの商業銀行が貸出基準を厳しくする可能性は高まりました。アメリカの景気にとってネガティブでしょう。

ただし、アメリカの1年先の想定政策金利は、3.5%程度まで下がっています。 アメリカの中央銀行メンバー全員が3月に示した2024年末の政策金利見通しのレンジの下限は、3.4%です。市場は、米景気悪化の可能性を織り込んでおり、米金利が下がる余地は小さくなっていると考えます。

3.植田日銀総裁下でも、円高トレンドをもたらす政策変更は想定しない

日銀総裁が黒田氏から植田氏に交代しました。日銀が金融政策を変更する場合の順番を考えると、最初に10年国債金利目標の修正で、次に短期政策金利の引き上げと予想します。経済への影響は、短い年限の金利の方が大きいとみられるためです。

日銀が10年国債金利目標を修正するタイミングについて、市場は、早ければ4月27日・28日の日銀金融政策決定会合、欧米の金融不安などに配慮すれば6月会合と想定しているでしょう。

日銀が10年金利目標を撤廃しても、10年金利は1%を上限として0.6%から0.8%程度で推移すると予想します。日銀による国債金利への介入の影響を受けにくい10年OISスワップ金利は、今年1月に1%程度まで上昇しましたが、3月後半からは0.6%台を中心に動いているためです。10年国債金利は0.4%台ですから、政策変更による10年金利の上昇幅は大きくないと予想します。

ドル円にとっては、日銀が短期政策金利を上げるかの方が重要でしょう。 アメリカの政策金利は5%近く、ユーロ圏の政策金利も3%台と高いためです。日本の短期政策金利は-0.1%であり、欧米との金利差は大きいです。

日銀が短期政策金利を引き上げる条件は、2%インフレに見合うような賃金の上昇と景気の強さだと考えます。その点、春闘の賃上げ率が昨年対比で大幅に上昇しそうなことは、日銀の短期政策金利の引き上げには追い風でしょう。

しかし、欧米の金融不安を受けて、アメリカの景気後退リスクは高まったでしょう。先行きの内外景気を考えた場合、日銀が短期政策金利を上げる可能性は低下したと考えます。 欧米の短期政策金利差が大きい状態が続けば、日本円を積極的に買う投資家は少なく、日銀の金融政策変更に伴う円高トレンドは期待できないでしょう。

4.原油高が長引けば、円安要因だろう

4月に入って、原油価格が急上昇しました。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成するOPECプラスが追加減産を発表したためです。

原油の需要を考えると、欧米の景気が減速すれば原油需要は減るでしょうが、中国景気の持ち直しが世界の原油需要を支える可能性はあります。

原油価格の上昇が長引けば、物価を押し上げる、原油輸入国の景気を悪化させる、原油輸入国のドル買い需要が増えるなどの影響が想定されます。インフレ率が高い欧米にとっては、景気悪化と物価上昇が同時に起こるスタグフレーションのリスクを高めます。欧米の中央銀行は、景気が悪化しても、利下げしづらくなるでしょう。

日本のインフレ率は欧米ほど高くはありません。 原油高は、日本にとっては、景気悪化要因になるうえ、輸入金額の増加、つまり実需のドル買いが増えそうです。原油高が長引くようならば、円安要因と考えます。

5.リスク~米国景気の急激な悪化、欧米金融市場の不安定化

当面のドル円は、130円台前半のレンジで推移すると予想します。 しかし、ドル安円高が進むリスクもあります。

第一に、米国景気が急激に悪化する場合です。

アメリカの貯蓄率は上昇しており、コロナ禍で蓄積された過剰な貯蓄の取り崩しが限界に近づきつつあることを示唆しています。欧米企業は、借入金利の上昇、人件費の増加などコストの増加に直面しています。今回の金融不安に伴って、銀行が貸出基準を厳しくすれば、米企業の設備投資時の資金調達や米消費者の借入に悪影響を与えるでしょう。アメリカの景気が急激に悪化すれば、リスク資産が売られて、円高要因となる可能性があります。

第二に、欧米の金融市場の不安定化です。

欧米の金融不安は、一旦落ち着いたようにみえます。政府や中央銀行の対応も早いです。

しかし、中央銀行による資金繰り支援などは、欧米の金融市場が自律的に安定化するまでの時間を稼ぐものです。欧米の金融不安がさらに高まった場合には、政府が銀行の預金を当面全額保護することを保証するなど、政府による信用補完が必要になるかもしれません。3月にアメリカの銀行が破綻した際、米政府がその預金を全額保護したのは緊急的な対応であり、今後も同じようになるとは限りません。

金融不安が、金融システムに大きなショックを与えるような金融危機に発展した場合、金融システムが相対的に安定している日本の円が買われて、円高が発生しやすいと予想します。

執筆日:2023年4月10日

2023年3月

TOPICFOMC

  1. アメリカの中央銀行は0.25%利上げ、今後の利上げ継続を見込むも柔軟に対応か
  2. 市場は年内の利下げを想定し、米中央銀行の見通しとはギャップあり
  3. 欧米の金融不安が後退し、米銀の貸出基準が厳しくならなければ、円高は限定的だろう

ドル円は、130円台前半の広めのレンジを予想、米金融不安への政府の対応に注目

2023年3月のドル円は、137円台まで円安になった後、20日には130円台まで円高に動きました。欧米での金融不安の拡大を受けて、欧米国債が買われました(欧米金利は低下)。日米の金利差の縮小で、ドル安円高に動いています。

3月上旬には、パウエルFRB議長のタカ派の議会証言を受けて、市場が織り込む米政策金利の天井は、5.6%近辺まで上昇し、年内の利下げ見通しは大きく後退しました。しかし、今の米金利市場は、今年後半の利下げ転換を想定しています。

アメリカのCPIコア上昇率は前年比+5.5%と高止まりしています。アメリカの中央銀行は、インフレを抑えることと金融不安の沈静化の両方に対応する必要があります。

では、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定内容と先行き見通しなどから、今後のアメリカの金融政策の行方を考えてみましょう。

1.アメリカの中央銀行は0.25%利上げ、今後の利上げ継続を見込むも柔軟に対応か

アメリカの中央銀行は、22日のFOMCで、政策金利を4.75-5.00%に0.25%利上げすることを決定しました。

また、3ヶ月に1度のペースで更新する経済・物価・政策金利見通しでは、今年末の政策金利の中央値は5.125%と前回と変わりませんでした。見通し通りならば、次回5月FOMC以降で、0.25%の追加利上げが実施されるでしょう。また、パウエルFRB議長は、今年の利下げを想定していないと記者会見で述べています。

しかし、FOMC声明文では、今後の利上げについて「いくらかの追加引き締めが適切となる可能性を見込む」と前回の「継続的な引き上げが適切になると見込む」から柔軟な表現に変わりました。また、パウエル議長は、米金融不安が家計や企業の信用状況の引きしめにつながるリスクにも言及しました。

アメリカの中央銀行は、米金融不安が実体経済に与える影響を見極めつつ、柔軟に対応することを示唆したと考えます。

2.市場は年内の利下げを想定し、米中央銀行の見通しとはギャップあり

市場は、0.25%の追加利上げを完全には織り込んでおらず、今年後半には利下げ転換すると想定しています。市場の見通しは、アメリカの中央銀行の政策金利見通しと大きくかい離しています。

しかし、米金融不安が燻っていること、利上げの天井が近づいてきたこと、などから、市場の政策金利見通しが中央銀行に比べて低くなることは仕方ないでしょう。アメリカの中央銀行が、今後の利上げについて、柔軟に対応する姿勢を示したことも、市場見通しとのギャップを許容する要因になります。

22日に、イエレン米財務長官が全面的な預金保険の提供を検討していないと発言したことは、米金利の低下要因になりました。市場の先行きの政策金利見通しは、欧米の金融不安が沈静化に向かうか次第で変わるでしょう。

3.欧米の金融不安が後退し、米銀の貸出基準が厳しくならなければ、円高は限定的だろう

先行きの金融政策見通しを反映する米2年金利は、3月8日の5%台から、3月20日には3.6%まで1.4%程度も低下しました。この金利低下ペースは、過去の金融危機並みです。米金利上昇への警戒感が3月はじめまでは強かったこと、欧米の金融不安の高まりを受けて安全資産への資金逃避が起きたこと、が分かります。

また、米10年金利は再び3.5%を割り込んでおり、米政策金利(4.75-5.00%)に比べて1.5%近くも低い水準にあります。過去30年を振り返ると、10年金利が政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、1.5%程度も下回るのは利下げ直前です。

よって、10年金利がさらに低下して、円高が進むには、アメリカの中央銀行が利下げに転換する必要があると考えます。しかし、利下げ転換するには、インフレ率が高すぎるため、米金融市場が大幅に不安定化しない限り、利下げは当面想定しづらいです。

当面のアメリカの金融政策の見通しは、欧米の金融不安の行方次第でしょう。アメリカの中央銀行は、米銀が貸出を厳格化するリスク、民間企業が社債などで市場から調達する金利が高くなる可能性なども見極めるとみられます。

そのため、ドル円は、130円前半での広めのレンジを予想します。米政府が米金融不安に対応策を講じるかに注目しています。米金融不安が後退して、米銀の貸出基準が厳しくならないならば、円高は限定的だと考えます。

執筆日:2023年3月23日

TOPIC米国CPI

  1. 2月米CPIコアの上昇率の縮小ペースは緩やか、サービス価格の上昇率が高い
  2. 3月22日のFOMCで、市場に柔軟な政策スタンスをアピールできるかに注目
  3. 米金融不安の抑制と金融市場が落ち着くには、時間が必要だろう

ドル円は、135円中心の広めのレンジを予想、米金融不安の行方次第

2023年3月のドル円は、137円台まで円安になった後、132円台まで円高に動きました。アメリカの金融不安の拡大を受けて、市場の米利上げ見通しは大きく変わりました。

市場が織り込む米政策金利の天井は、パウエルFRB議長のタカ派の議会証言を受けて、5.6%近辺まで上昇しましたが、直近は3月の利上げも完全には織り込んでいません。米2年金利は、3月8日には5%を上回っていましたが、今年後半の利下げ開始を織り込んで一時4%を下回りました。

アメリカの中央銀行は、高いインフレ率を抑制するために急ピッチで利上げしてきました。しかし、市場では、金融不安の高まりを受けて、今年後半には利下げに転換するとの見方も出てきています。アメリカの中央銀行は、インフレ抑制と金融不安沈静化のいずれにも対応する必要があり、たしかに難しい立場です。

今後の利上げの有無は、アメリカのインフレ率にも大きく左右されます。今年2月の米消費者物価指数(CPI)から、インフレ率の現状を確認してみましょう。

1.2月米CPIコアの上昇率の縮小ペースは緩やか、サービス価格の上昇率が高い

米2月CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.5%、前年比+5.5%でした。前年比の上昇率は、1月の+5.6%から縮小していますが、縮小ペースは非常に緩やかです。米CPIコアの上昇率は、2%のインフレ目標を大幅に上回っています。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+1.0%と上昇幅が小さいですが、サービスコアは前年比+7.3%と上昇幅が大きいです。サービス価格の上昇率の拡大が続き、上昇率が高いことは、米中銀が利上げを続ける必要性を示唆しているでしょう。

米企業へのアンケート調査などをみると、今後のCPIの上昇率は緩やかに縮小すると予想します。

2.3月22日のFOMCで、市場に柔軟な政策スタンスをアピールできるかに注目

2月の米CPIは、インフレ圧力が根強いことを示しました。アメリカの中央銀行には、米インフレを抑制すること、金融不安を沈静化させることの2つが求められるでしょう。

2月CPI発表後、米国株は上昇しましたが、市場は今年後半の利下げ転換を織り込んだままです。米金融不安が拡大すれば、アメリカの中央銀行が利下げに転換するとの期待感が米国株を支えているようにみえます。

3月FOMCでは、利上げの有無、政策金利見通しの更新、パウエルFRB議長の記者会見を通じて、市場と対話します。インフレを抑制する姿勢を示しつつ、金融不安の拡大があれば柔軟に行動することを、市場に上手く伝えられるかがカギになるでしょう。

例えば、前回12月の今年末の政策金利見通しの中央値は5.125%ですが、雇用統計やCPIの堅調さをみる限り、政策金利見通しが下がるのは難しそうです。その場合、パウエル議長が記者会見で、柔軟な金融政策スタンスをアピールできるかが重要になると考えます。

3.米金融不安の抑制と金融市場が落ち着くには、時間が必要だろう

米2年金利は、3月8日からの3営業日で5%から4%まで1%以上も低下しました。この金利低下ペースは、1987年のブラックマンデー以来です。金融不安が急速に高まり、安全資産への逃避が起きたことが分かります。

金融不安を抑えるため、米政策当局は、銀行タームファンディングプログラム(BTFP)の導入を発表しています。金融機関は、米国債や住宅ローン担保証券を担保として、最長1年の融資を受けられます。米政策当局の対応は、迅速だったと考えます。

しかし、米金融不安が抑制されて、金融市場が落ち着きを取り戻すには、時間が必要でしょう。米金融市場が不安定化したため、米金融機関が貸出に保守的になるリスク、企業が社債などで市場から調達する金利が高くなる可能性があります。

そのため、ドル円は、135円を中心とした広めのレンジを予想します。米金融不安が後退すれば、ドル円は135円から140円のレンジへとシフトすると考えます。

執筆日:2023年3月15日

TOPIC米国雇用統計

  1. 2月の米雇用統計は強弱入り混じる内容で、利上げ加速が必要と言い切れず
  2. アメリカの10年金利は米金融不安が沈静化するか次第で高下
  3. 日銀総裁交代でも、円高トレンドをもたらすとは想定せず
  4. 中国の景気回復が本物かを見極める時間帯、今後の資源国通貨を左右しよう
  5. リスク~日本の利上げ期待の高まり、米国景気の大幅な悪化や金融市場の不安定化

米ドル円は135円を中心に上下に振れると予想

2023年2月から3月初めまでのドル円相場は、128円台から137円台までドル高円安が進みました。2023年2月のドル円の月間値幅(高値と安値の差)は8円を超えています。昨年の1-2月の変動幅が2円台ですから、今のドル円の変動幅は大きいです。

ドル高円安が進んだのは、アメリカの経済、物価指標が強かったことやパウエル議長のタカ派的な発言を受けて、アメリカの10年金利が上昇したためでしょう。

1月の米非農業部門の雇用者数は大幅に増加し、1月米CPI統計はインフレ圧力の根強さを示しました。また、パウエルFRB議長は、3月7日の議会証言で、経済データが全体として強ければ、利上げがより早く、より高い政策金利まで続く可能性を示唆しました。アメリカの10年金利は、2月初の3.4%近辺から一時4%台まで上昇しました。

では、アメリカの10年金利がさらに上昇して、ドル高円安が続くのでしょうか。パウエル議長は、議会証言で、次回の金融政策決定までに分析すべき非常に重要なデータがいくつかあると述べていました。雇用統計とCPIが含まれているでしょう。2月の米雇用統計から、アメリカの景気の現状を確認してみます。

1.2月の米雇用統計は強弱入り混じる内容で、利上げ加速が必要と言い切れず

2月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+31.1万人増加し、市場予想を上回りました。一方で、失業率は、3.6%と前月から0.2%上昇しました。また、平均時給の上昇率は、前月比+0.2%と1月の+0.3%から減速しました。

2月の雇用統計は強弱入り混じる内容であり、労働需給がタイト化しているとはいえないと思います。FRBが利上げペースを加速させるほど強い雇用統計ではないとみられ、FRBが次に確認したいのは、2月のCPIでしょう。

アメリカの政策金利は4.50-4.75%です。市場が織り込む3月22日の次回会合での利上げ幅は0.25%と0.50%で割れていましたが、雇用統計の発表や米金融不安の高まりを受けて、0.25%との見方が優勢になっています。

2.アメリカの10年金利は米金融不安が沈静化するか次第で高下

先週末に、アメリカの銀行株は大幅に下落しました。アメリカで金融不安が高まっていることは、米金利の低下などを通じて、ドル安円高要因でしょう。ドル円は一時133円台まで円高に動きました。

しかし、米政策当局は、金融不安の高まりに対して、迅速に対応処置を打ち出しました。12日、米政策当局は、銀行タームファンディングプログラム(BTFP)の導入を発表しました。金融機関は、米国債や住宅ローン担保証券を担保として、最長1年の融資を受けられます。

政府の対応措置を受けて、米国の金融不安が収束するかは、しばらく様子をみる必要があるでしょう。 ただし、アメリカの金融不安が収まるならば、アメリカの10年金利は上昇すると考えます。

金融不安の高まりを受けても、市場が織り込む米政策金利の天井は5%台です。アメリカの政策金利が5%前後まで上昇すれば、今のアメリカの10年金利は3.7%台と、政策金利を1%程度も下回ります。過去30年を振り返ると、10年金利が政策金利を下回る逆イールドは何度も発生していますが、利下げ直前を除けば0.8%程度が限界です。

米金融不安の行方次第ですが、アメリカの10年金利が再び4%台に向けて上昇すると予想しています。

3.日銀総裁交代でも、円高トレンドをもたらすとは想定せず

日銀は3月の金融政策決定会合で現状維持を決定しました。4月に黒田日銀総裁が任期満了を迎え、経済学者の植田和男氏が次の日銀総裁となります。日銀総裁が交代するなか、市場では、日銀が金融緩和を縮小し、円高要因になるとの見方があります。

しかし、1995年以降に、日銀が利上げした局面は2回ありますが、いずれの利上げ後も、円高トレンドは発生していません。 この2回は、連続的な利上げではなかったことが特徴です。今後も、日銀が連続的に利上げして他国の政策金利に近づくかという点は、円高トレンドをもたらすかの判断基準になると考えます。

その点、ほとんどの主要国の政策金利が2%を上回る一方で、市場が想定する日銀の短期政策金利の水準は、2年後でも0.4%前後と低いです。

日銀の金融政策変更の順番を考えると、最初に10年国債金利目標の修正で、次に短期政策金利の引き上げと予想します。経済への影響は、短い年限の金利の方が大きいとみられるためです。そのため、日銀が短期金利を引き上げる条件は、2%インフレに見合うような賃金の上昇と景気の強さだと考えます。

春闘の賃上げ率が注目されており、高い賃上げ率が出てくる可能性はあります。とはいえ、労働者の約7割は中小企業で働いています。中小企業も含めて、所定内給与が大幅に上がることを確認する必要があるでしょう。

また、アメリカの景気が先行きも堅調に推移するかは不透明です。アメリカの中央銀行の利上げが始まったのは昨年3月であり、政策金利水準は中立金利である2.5%を大幅に上回っています。米利上げが経済に与える負の効果は、来年にかけて顕在化するリスクがあります。

市場は、日銀総裁の交代に注目していますが、日銀の政策変更が円高トレンドをもたらす可能性は低いと考えます。

4.中国の景気回復が本物かを見極める時間帯、今後の資源国通貨を左右しよう

昨年末から、ゼロコロナ政策を転換した中国の景気回復期待が高まってきました。中国国家統計局が発表した2月のPMI(企業の景況感)は、1月に続いて50を上回っています。

一方で、中国の1-2月のドル建ての輸入額は前年同期比-10.2%と弱かったです。また、中国の全国人民代表大会が示した今年の経済成長率目標も5%前後と控えめな数字でした。

資源輸入大国である中国の景気回復が本物ならば、資源輸出国の経済や通貨にはプラスに働くでしょう(例えば、豪ドル、NZドル、南アランド、ブラジルレアルなど)。しかし、現段階では、中国の景気回復ペースを見極める時間帯だと考えます。

5.リスク~日本の利上げ期待の高まり、米国景気の大幅な悪化や金融市場の不安定化

当面のドル円は、135円を中心とした広めのレンジで推移すると予想します。 しかし、ドル安円高が進むリスクもあります。

第一に、市場が想定する先行きの日銀政策金利の上昇です。 日銀が連続的に短期金利を引き上げるような環境を想定していません。しかし、春闘の賃上げ率や先行きの所定内給与が大幅に上昇した場合、市場は、日銀の2%インフレ目標の達成を先回り的に織り込む可能性があります。その場合、市場が想定する将来の日銀の政策金利が上昇し、円高要因となるリスクはあります。

第二に、アメリカ景気の大幅な悪化や金融市場の不安定化です。

高インフレ下の米個人消費を支えてきたのは、コロナ禍の給付金や外出自粛に伴って生じた過剰な貯蓄を使えたことや堅調な雇用市場だと考えています。

しかし、過剰な貯蓄の取り崩しは、着実に進んでいます。また、この1年間で米政策金利が4%以上も上昇しました。アメリカの中央銀行は、インフレが沈静化するまで、景気抑制的な高い政策金利を維持する姿勢を示しています。

米金利上昇は、米企業の設備投資時の資金調達や米消費者の借入負担を高めることを通じて、アメリカの景気にマイナスに働くでしょう。また、米金利上昇に伴って、米金融市場が不安定化する兆しがみられます。アメリカの急激な景気悪化や金融市場の不安定化が起きた場合、為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想します。

執筆日:2023年3月13日

2023年2月

TOPIC米国CPI

  1. 1月米CPIではインフレ圧力の根強さが確認される、サービス価格の上昇率が拡大
  2. 米利上げが長期化する可能性が意識される
  3. 米10年金利の上昇傾向が続けば、ドル高円安要因に

ドル円は、130円台前半でのレンジ相場を予想

2023年2月のドル円は、128円から133円程度のレンジで推移しています。政府は、2月14日に、3月から4月に任期を迎える日銀正副総裁の後任人事案を国会に提示しました。

大規模緩和を実施した黒田日銀総裁が退任し、次期日銀総裁のもとでの最初の日銀金融政策決定会合は、4月27日・28日に開かれる予定です。新しい日銀正副総裁のもとで、日銀は金融緩和を徐々に縮小すると、市場は想定しています。円金利が上昇することへの警戒感は、円高要因でしょう。

一方で、強い1月の米雇用統計やアメリカ中央銀行メンバーの利上げ継続発言を受けて、米10年金利は、1月末の3.5%近辺から3.7%台まで上昇しています。ドル高円安要因でしょう。市場が想定する米利上げのピークやその後の年内利下げの有無は、アメリカのインフレ率に左右されると考えます。今年1月の米消費者物価指数(CPI)から、インフレ率の現状を確認してみます。

1. 1月米CPIコアの上昇率の縮小ペースは緩やか、サービス価格の上昇率が高い

米1月CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.4%、前年比+5.6%でした。前年比の上昇率は、12月の+5.7%から縮小していますが、縮小ペースは緩やかです。米CPIコアの上昇率は、2%のインフレ目標を大幅に上回っています。(なお、CPIは年次改定されています)。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアは前年比+1.4%と上昇幅が縮小しましたが、サービスコアは前年比+7.2%と上昇幅が拡大しています。サービス価格の上昇率の拡大が続き、上昇率が高いことは、米中銀が利上げを続ける理由になるでしょう。

個別にみると、財では中古車価格が前月比-1.9%とCPIを押し下げる要因になりましたが、住居費(家賃)が前月比+0.7%、輸送サービスが前月比+0.9%と高い伸びを記録しました。米企業へのアンケート調査などをみると、今後のCPIの上昇率は縮小すると予想します。ただし、縮小ペースは、サービス価格の動向に左右されるでしょう。

2. 米利上げが長期化する可能性が意識される

1月の米CPIを受けて、ドル円は130円台前半でのレンジ相場を予想します。

昨年12月末の米中銀の政策金利見通しでは、2023年末の米政策金利見通しの中央値は5.125%です。その通りになれば、アメリカの中央銀行は、3月と5月に0.25%ずつ政策金利(現在は4.50-4.75%)を引き上げて、利上げを止めるでしょう。

しかし、1月の米CPIの発表後、米金利市場では、アメリカの中央銀行が3月と5月に0.25%ずつ政策金利を引き上げたうえ、6月も利上げを続けるリスクを織り込み始めました。これまでの米金利市場は、アメリカの中央銀行の見通しよりも利上げのピークを低く想定していましたが、中央銀行との溝はほぼ埋まりました。市場は、米利上げが長期化する可能性を意識しています。

アメリカの中央銀行がどこまで利上げを続けるかは、物価上昇率や賃金上昇率などのデータ次第でしょう。3月22日の連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利見通しなどが更新されますので、3月FOMC前に発表される2月の米雇用統計と2月の米CPIは重要でしょう。

3. 米10年金利がさらに上昇すれば、ドル高円安要因に

アメリカの中央銀行が、米政策金利を5%以上まで上げるならば、今の米10年金利は5月頃の政策金利を1%以上も下回ることになります。過去、利下げ直前でなければ、米10年金利が政策金利を下回る幅は0.8%程度が限界でしたから、アメリカの10年金利は4%台まで上昇してもおかしくありません。その場合、ドル高円安要因になるでしょう。

日銀が金融緩和を縮小するとの見方は円高要因ですが、アメリカの10年金利が上昇してドル高要因になれば、相殺されると考えます。ドル円は、当面、130円台前半でのレンジ相場を予想します。その後、日米の金融政策の不透明感が薄れれば、ドル円の予想変動幅は縮小するでしょう。ドル円の予想変動幅が縮小すれば、アメリカの高い金利を求めた米ドル買いが増えて、ドル高円安に動きやすくなると予想します。

執筆日:2023年2月15日

TOPIC米国雇用統計

  1. 1月の米雇用統計は、米労働市場のタイト感を示し、米利上げ停止が後ずれする可能性
  2. アメリカの10年金利は上昇する可能性あり
  3. 海外景気が減速するなか、日銀の金融緩和縮小が先送りとなる可能性も
  4. 中国の景気回復期待は、資源国通貨をサポート
  5. リスク~円金利の上昇や米国景気の大幅な悪化

米ドル円は130円台前半を中心としたレンジを予想

2023年1月のドル円相場は、130円を挟んだレンジでした。昨年末の米ドル円は、1ドル131円程度でしたが、1月中旬には127円台まで円高に動く局面がありました。2023年1月のドル円の月間の値幅(高値と安値の差)は、7円を超えています。過去3年の1月のドル円の値幅は2円台ですから、今のドル円の変動幅は大きいといえます。

1月のドル円が大きく変動したのは、日銀が政策調整するとの観測が強いためでしょう。昨年12月に、日本銀行が長期金利目標から許容する変動幅を0.5%に拡大すると、円金利が上昇して、円高が進みました。逆に、日銀が1月18日の金融政策決定会合で現状維持を決めると、ドル円は一時的に安値から3円以上もドル高円安に動きました。

また、アメリカの10年金利が低下したことなども、ドル安円高の原因として挙げられます。アメリカの10年金利は、昨年末には3.8%台でしたが、一時3.4%割れまで下がりました。

では、アメリカの10年金利が、更に低下して、ドル安円高が続くのでしょうか。1月の米雇用統計から、アメリカの景気の現状を確認してみます。

1.1月の米雇用統計では、雇用者数が大幅に増加、利上げ停止が後ずれする可能性も

1月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で51.7万人増加しました。労働参加率が62.4%に上昇して、労働者が市場に戻る方向です。それでも、失業率は、3.4%に低下しており、米労働需給はタイトでしょう(なお、今回の雇用統計は、年次改定の影響を受けています)。

1月の平均時給の上昇率は、前年比+4.4%、前月比+0.3%でした。前年比の鈍化ペースは緩やかです。パウエルFRB議長は、2月の記者会見で、住居費を除くサービス価格に注目していること、それが賃金上昇率など労働市場の影響を受けやすいことに言及しました。

市場は、アメリカの中央銀行が3月会合で利上げを止めて、今年後半に利下げに転じる可能性を織り込んできました。しかし、今回の米雇用統計をみる限り、FRBの利上げ停止が後ずれする可能性が出てきましたし、利下げが視野に入る状況ではありません。

2.アメリカの10年金利は上昇する可能性あり

アメリカの中央銀行は、2月1日に政策金利を4.50-4.75%に0.25%引き上げました。利上げ幅は昨年12月の0.5%から小さくなりました。

パウエルFRB議長は、記者会見で、あと数回の利上げを議論するとしつつ、「ディスインフレのプロセスが始まった」と発言しました。市場は、利上げの停止が近いと解釈し、米10年金利は3.4%割れまで低下しました。

しかし、アメリカの10年金利の低下余地は小さいと考えます。アメリカの10年金利は下限政策金利である4.5%を1%程度も下回っています。10年金利が政策金利を下回る逆イールドは、過去何度も発生していますが、利下げ直前を除けば、2006年に記録した0.8%程度が限界です。

パウエルFRB議長は、2月の記者会見で、予想通りの経済動向ならば、2023年中の利下げは想定してないことを示唆しました。その場合、アメリカの10年金利の水準に注目すると、金利低下余地は小さく、逆に上昇してもおかしくないと考えます。よって、ドル円は、130円台前半を中心としたレンジで推移すると予想します。

3.海外景気が減速するなか、日銀の金融緩和縮小が先送りとなる可能性も

日銀が金融緩和を縮小して、円金利が上昇するという懸念は、円高要因でしょう。

1月の展望レポートで示された2023年度から2024年度のCPIコア上昇率見通しは、1%台後半と2%に近いです。大規模な金融緩和を主導してきた黒田日銀総裁が4月に任期満了を迎えます。市場では、新しい日銀総裁のもとで、日銀が大規模な金緩和を縮小するとの見方が多いです。

しかし、誰が次期日銀総裁になったとしても、日銀が金融緩和を縮小するには、賃金上昇率が高まること、海外景気が底堅く推移することが必要だと考えます。

その点、賃金上昇率は、3月後半から判明する春闘の結果に注目です。しかし、米ISM製造業景気指数の50割れが続くなど、海外景気の減速は、明確になっています。輸出減少などを通じて、国内景気が悪化するリスクを考えると、日銀が金融緩和を続けざるを得ない可能性もあると考えます。

4.中国の景気回復期待は、資源国通貨をサポート

欧米景気の減速が懸念される一方で、ゼロコロナ政策を転換した中国の景気回復期待が高まっています。IMFは、1月に発表した経済見通しで、中国の今年の実質成長率を5.2%と前回から0.8%上方修正しました。

実際、中国国家統計局が発表した1月のPMI(企業の景況感)は、製造業、非製造業ともに50を回復しています。

銅や鉄鉱石などの資源価格は、中国の景気回復期待や米ドル下落を受けて、上昇しています。資源輸入大国である中国の景気回復が明確になれば、資源輸出国の経済や通貨にはプラスに働くでしょう。豪ドル、NZドル、南アランド、ブラジルレアルなどのサポート材料だと考えます。

5.リスク~円金利の上昇や米国景気の大幅な悪化

当面のドル円は、130円台前半を中心としたレンジで推移すると予想します。しかし、ドル安円高が進むリスクもあります。

第一に、円金利の上昇です。日銀が金融緩和を縮小するかは、これから出てくる春闘の地上げ率や今後の海外景気次第でしょう。賃金上昇率が大幅に高まり、海外景気が底堅く推移すれば、日銀が10年金利をゼロ%から一定の幅に収める長期金利目標という仕組みを止める可能性があります。その場合、円10年金利は、今の0.5%近辺から上昇するとみられ、一時的には、円高要因になるでしょう。

第二に、アメリカの景気が大幅に悪化することです。例えば、アメリカの実質消費支出は、11月から2か月連続で減少しています。

これまでの高インフレ下での個人消費を支えてきたのは、コロナ禍の給付金や外出自粛に伴って生じた過剰な貯蓄を使えたことや堅調な雇用市場だと考えます。

しかし、急激な利上げによる金利コストの上昇は、アメリカの景気全体にとってマイナス要因でしょう。また、FRBは、インフレが沈静化するまで、景気抑制的な高い政策金利を維持する姿勢を示しています。米国景気が急速に悪化した場合、為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想します。

執筆日:2023年2月6日

2023年1月

TOPIC日銀

  1. 日銀の金融政策決定会合は現状維持、来年度以降のインフレ率は1%台後半を想定
  2. 日銀の金融政策は、新総裁人事、春闘の賃上げ率、海外景気次第と想定
  3. ドル円の変動幅が小さくなれば、日米金利差が、円安に押し戻す力になるだろう

日銀は現状維持、当面のドル円は、130円を挟んだレンジに

2023年1月のドル円は、127円台から134円台の広いレンジで推移しています。ドル円が127円台まで円高に動いた一因は、1月の金融政策決定会合で政策修正が実施されて、円金利が上昇することへの警戒感だったでしょう。

1月の日銀金融政策決定会合の結果と今後の見通しなどから、ドル円の先行きを考えてみましょう。結論からいえば、日銀が年内に金融正常化に動くことへの警戒感は残りますが、ドル円は130円を挟んだレンジになると予想します。

1.日銀の金融政策決定会合は現状維持、来年度以降のインフレ率を1%台後半で想定

1月の日銀金融政策決定会合の結果は、現状維持でした。円の国債金利市場では、8年や9年の国債金利が10年国債金利を上回るなど、金利形成に歪みがありました。こうした債券市場の機能度低下を改善するため、日銀が10年金利目標からの許容変動幅を拡大するなどの観測がありましたが、日銀は長短金利操作目標を変更しませんでした。

その代わり、日銀は、共通担保資金供給オペを拡充しました。市場に、日銀の方針と整合的な金利水準形成を促すのが目的でしょう。今年1月から、2年間の資金供給オペを実施してきました。今回の拡充を受けて、日銀は、5年間の資金供給オペを実施することを通知しています。日銀は、市場に長期間の資金を供給することを通じて、円金利水準に影響を与えたいのだと考えられます。

日銀が示した展望レポート(3ヶ月毎に発表)では、2023年度から2024年度のCPIコア見通しの中央値がそれぞれ+1.6%、+1.8%と示されました。2%インフレ目標には届いていませんが、物価見通しは上振れリスクが大きいと示されており、次回4月の展望レポートでは2%に届く可能性はあります。

2.日銀の金融政策は、新総裁人事、春闘の賃上げ率、海外景気次第と想定

日銀が金融政策の現状維持を決めたことを受けて、1月18日の円金利は低下して、ドル円は128円台から一時131円台まで円安に動きました。日銀が政策修正を実施して円金利が上昇するとの警戒感があった反動でしょう。

しかし、円金利の低下と円安が続くかは、不透明です。円金利が上昇していた根本的な理由は、日銀が2%に近いインフレ率を予想するなか、将来的に金融引き締めに動けば、10年金利は0.5%を上回るとの警戒感でしょう。今年4月頃までを考えると、日銀の金融政策は、3つの要因に左右されると考えます。

第一に、次の日銀正副総裁の金融政策に対する考え方です。各種報道によれば、政府は、今年3月から4月に任期を迎える日銀の正副総裁3名の後任人事案を、2月前半に国会へ提示する方針のようです。長期金利を操作目標とする今の政策を続ける条件は、『2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで』です。

2023年度から2024年度のCPIコアの見通しは2%に近いです。4月以降、次の日銀総裁を中心とした新しい日銀金融政策決定会合メンバーが、物価安定目標を達成したと判断すれば、金融引き締めに動くリスクがあります。

ただし、2%の物価安定目標は、アベノミクスの核ともいえる政策です。また、2013年から10年間も続いた異次元の金融緩和を正常化する際には、金利上昇、株安などの悪影響が予想されます。よって、4月以降、日銀が急いで金融引き締めに動くとは想定しません。

第二に、春闘の賃上げ動向です。賃金の上昇率が高まれば、賃金コストを反映して、物価上昇率が安定的に上がると予測することができます。日銀は、「労働需給の引き締まりや物価上昇を反映して賃金上昇率も高まる」と想定しています。経団連も、基本給のベースアップを前向きに検討するよう、企業に促しています。

もっとも、日本の雇用者数の約7割は、中小企業で働いています。コロナ禍や資源価格の高騰など、厳しい経営環境が続いた後で、中小企業が賃上げに動けるかは疑問が残ります。春闘の結果だけでなく、雇用者全体の賃金上昇を確認することが、日銀が金融引き締めに動く条件になると考えます。

第三に、海外景気の動向です。日銀は、日本経済のリスク要因として、海外経済が下振れるリスクを挙げています。欧米景気の減速は明確になっており、輸出減少などを通じて、今後の国内景気を悪化させる可能性があります。その場合、日銀は、緩和的な金融政策を維持して、景気を下支えするのが妥当でしょう。

3.ドル円の変動幅が小さくなれば、日米金利差が、円安に押し戻す力になるだろう

今後の米ドル円の見通しを、日米10年金利差の観点から考えてみましょう。円10年金利が、将来的に上昇する可能性は残りますが、次の3月日銀金融政策決定会合までは0.5%が上限でしょう。

米政策金利は、今の4.25%-4.50%から5%近くまで引き上げられるとみられます。過去、利下げ直前でない場合、アメリカの10年金利が政策金利を下回る逆イールドの幅は、2006年に記録した0.8%程度が限界とみられます。よって、アメリカの10年金利が今の3.4%程度から低下して、ドル安円高要因になるとは考えていません。

日米金利差は大きいため、ドル円の変動幅が縮小すれば、アメリカの高い金利を求めた米ドル買いが増えて、円安方向に押し戻すと予想します。

リスクは、ドル円の予想変動幅が大きいままであることです。為替の変動幅が大きい状況が続く条件として、二点挙げられます。まずは、米国の景気やインフレの見通しが大きく上下に振れることです。そして、政府と日銀の共同声明の見直しです。今の共同声明は、2%の物価安定の目標を「できるだけ早期に実現することを目指す」としていますが、中長期的な目標に変えた場合、日銀が金融引き締めに動くハードルは下がるでしょう。新しい日銀総裁を任命する政府の動きに注意が必要と考えます。

執筆日:2023年1月19日

TOPIC米国CPI

  1. 12月米CPIではインフレのピークアウトを再確認も、サービス価格の上昇率がまだ高い
  2. 2月FOMCの利上げ幅は、0.25%の可能性が高まる
  3. 日銀金融政策決定会合の結果、円金利が上昇するかが焦点に

当面のドル円は、130円を挟んだ広めのレンジに

2023年1月のドル円は、128円台から135円の広めのレンジで推移しています。日銀がさらに政策調整をして円金利が上昇することへの警戒感や米金利の低下は、ドル安円高要因です。とくに、1月18日の日銀金融政策決定会合を控えて、円金利が上昇しやすいため、日銀会合までのドル円は130円を挟んだ広めのレンジになりそうです。

アメリカの中央銀行の今後の利上げペースは、アメリカのインフレ率に左右されるでしょう。昨年12月の米消費者物価指数(CPI)から、インフレ率の現状を確認してみます。

1.12月米CPIではインフレピークアウトを再確認も、サービス価格の上昇率は高い

米12月CPIコア(除く食料品・エネルギー)の前月比は+0.3%と、市場予想通りでした。CPIコアの前月比上昇率は、この数か月0.2%から0.3%であり、インフレのピークアウトが再確認されました。

米CPIコアを、財とサービスに分けてみると、財コアの前年比上昇率が大幅に縮小する一方で、サービスコアの前年比上昇率は拡大しています。サービス価格の上昇率が高いままであることは、米中銀が当面利上げを続ける理由となるでしょう。

個別にみると、住居費(家賃)が前月比+0.8%と強い一方で、財では中古車価格が前月比-2.5%とCPIを押し下げる要因になっています。今後は、サービスのインフレが焦点となります。PMIなど企業へのアンケート調査をみると、CPIが下がることを示唆しており、アメリカのインフレ率は緩やかに縮小すると予想します。

2.2月FOMCの利上げ幅は0.25%の可能性高まる。日銀の金融政策決定会合が重要。

12月CPIを受けて、ドル円は130円を挟んで広めのレンジで推移すると予想します。

米金利市場では、12月CPIの発表後に、2月FOMCでの0.25%の利上げ予測が増加しました。アメリカのインフレのピークアウトを再確認できたこと、ハーカーフィラデルフィア連銀総裁が「この先は0.25%の利上げが適切になる」と発言したためでしょう。米10年金利は3.4%台まで低下して、ドル円は一時128円台までドル安円高に動きました。

パウエルFRB議長は、12月の記者会見で、10、11月のインフレ率低下を歓迎しつつも、「CPIのコアインフレ率は6%で、これは我々の目標の3倍にあたる」と述べていました。12月CPIコアの前年比上昇率は、5.7%とまだ高いです。FRBは、利上げ幅を0.5%から0.25%に縮小しても、利上げを続けるでしょう。

米政策金利は、5%近くまで引き上げられるとみられます。その場合、今の米10年金利は将来の政策金利を1.5%程度下回ることになり、米10年金利が低下して、ドル安円高に動く余地は小さいと考えます。

しかし、目先のドル円は、1月18日の日銀金融政策決定会合の結果次第でしょう。市場は、今後の日銀の金融政策変更で、円金利が上昇すると想定しています。その場合は、円高要因になりやすいです。

ただし、日米金利差は大きいです。日銀の金融政策の不透明感が後退すれば、ドル円の変動幅は縮小するでしょう。ドル円の変動幅が小さくなれば、アメリカの高い金利を求めた米ドル買いが増えて、円高の下限を押し上げると予想します。

執筆日:2023年1月13日

TOPIC米国雇用統計

  1. 12月の米雇用統計では、賃金上昇ペースが減速して、利上げペースは緩やかになりそう
  2. アメリカの10年金利は低すぎる可能性あり、円高余地は小さいだろう
  3. 円金利の上昇は止まるだろう
  4. ユーロが上昇するとの予想を維持
  5. リスク~日本の金利上昇や米国景気が悪化すること

130円割れが円高の限界と予想

2022年12月から2023年初にかけて、ドル安円高が進みました。2022年11月末の米ドル円は、1ドル138円程度でしたが、2023年初には一時129円台まで円高に動きました。2022年10月の円安の天井だった151円台から、約2か月で20円以上も円高に動いたことになります。

12月の円高進行は、日銀の政策調整が一因でしょう。日本銀行が長期金利目標から許容する変動幅を0.5%に拡大して、円金利が上昇したため、円高が急激に進みました。

また、アメリカのインフレ率にピークアウト感がみられたこと、アメリカの景気減速懸念が強いこと、アメリカの金利が低下したことなども、ドル安円高の原因として挙げられます。アメリカの10年金利は、昨年10月に4.3%台まで上昇しましたが、昨年12月には一時3.5%を下回りました。

では、アメリカの10年金利は、更に低下して、ドル安円高が続くのでしょうか。昨年12月の米雇用統計から、アメリカの景気の現状を確認してみます。

1.12月の米雇用統計では、賃金上昇ペースが減速して、利上げペースは緩やかになりそう

12月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で22.3万人増加しました。失業率も3.5%に低下しており、米労働市場は底堅いです。

一方で、12月の平均時給の上昇率は、前年比+4.6%、前月比+0.3%に減速しました。労働需給のタイト感が緩和する兆しがみられます。パウエルFRB議長は、昨年12月の記者会見で、住居費を除くサービス価格に注目しており、その背景として、タイトな労働需給環境で賃金上昇率が高いことに言及しました。アメリカの政策金利は5%程度まで上がりそうですが、利上げペースは昨年12月の0.5%から0.25%ペースに減速する可能性が高まったといえるでしょう。

しかし、FRBはインフレを警戒する姿勢を続けるでしょう。そのため、インフレ率が大幅に下がらない限り、FRBの利下げは視野に入らず、日米10年金利差は大きく縮小しないと考えます。

2.アメリカの10年金利は低すぎる可能性あり、円高余地は小さいだろう

アメリカの10年金利に低下余地があるかを、考えてみましょう。市場は、アメリカの利上げが今年前半に止まると想定しています。その場合、今年のアメリカの10年金利は、下がりそうにみえます。何故ならば、過去のアメリカの10年金利は、アメリカの中央銀行が利上げを停止する前か利上げ停止から1か月程度で、ピークをつける傾向があるためです。

しかし、アメリカの10年金利の水準に注目すると、金利低下余地は小さいと考えます。想定される米政策金利の天井に対して、アメリカの10年金利が3.5%台と低いためです。米中銀は、昨年12月に2023年末の政策金利見通しを5.125%と想定しており、アメリカの10年金利を横ばいとした場合、1.5%程度の逆イールドになる計算です。

1985年以降、アメリカの10年金利が政策金利を1.5%程度下回る逆イールドは、2回ありました。それは、アメリカが利下げをする直前であり、景気悪化の可能性が非常に高くなったためでした。利下げ直前でない場合、アメリカの10年金利が政策金利を下回る逆イールドの幅は、2006年に記録した0.8%程度が限界とみられます。

パウエルFRB議長は、昨年12月の記者会見で、2023年の政策金利見通しでは、利下げを想定していないことを示唆しました。米政策金利が5%程度まで上がり、すぐに利下げがないならば、アメリカの10年金利は4%台まで上昇してもおかしくないでしょう。

よって、アメリカの10年金利が低下する余地は小さく、ドル円は130円前後を下限としてレンジで推移すると予想します。

3.円金利の上昇は止まるだろう

円金利がさらに上昇するという懸念も、円高要因になります。現行では、日銀が10年債を0.5%で無制限に購入するため、円10年金利の上限は0.5%です。

一方で、市場は、日銀が短期目標金利を-0.1%から引き上げることを想定しています。CPIコアの上昇率が3%台と高いこと、大規模な金融緩和を主導してきた黒田日銀総裁が4月に任期満了を迎えること、などが理由として挙げられます。

しかし、海外景気が悪化するリスクがあること、所定内給与の上昇率が1%程度と低いことなどから、日銀が利上げするとは予想していません。今後の海外景気や春闘の結果次第ですが、円金利の上昇は止まると考えています。

4.ユーロが上昇するとの予想を維持

ユーロは、2002年以来となる1ユーロ=1米ドル割れ(パリティ割れ)まで下落した後、ドル対比で上昇してきました。直近は高下していますが、ユーロは対ドルで上昇すると予想しています。

ユーロ圏の企業の景況感は弱く、景気悪化が見込まれることは、ユーロにとってマイナスでしょう。欧州中央銀行(ECB)は、2023年の成長率を0.5%と想定しています。

しかし、ユーロ圏の預金金利は、マイナスから2022年末には2%まで上昇しており、2023年には3%台まで上昇するとみられます。ユーロ圏の金利がプラスに戻るなか、ユーロ圏への資金回帰は強まるでしょう。ECBが2014年6月に預金金利に-0.1%を適用するマイナス金利政策を導入した後、証券投資で、約2兆ユーロの資金が、ユーロ圏から純流出しました。ところが、最近では、ユーロ圏の証券投資は、純流入に変わっており、ユーロ高要因となるでしょう。

5.リスク~日本の金利上昇や米国景気が悪化すること

当面のドル円は、130円割れを下限として、レンジで推移すると予想します。しかし、ドル安円高のリスクもあります。

第一に、日本の金利上昇です。日銀は、1月の金融政策決定会合で、2023年度から2024年度の物価見通しを2%近くまで上方修正する見込みとの報道もあります。日銀が2%インフレ目標を達成したと判断すれば、10年金利をゼロ%から一定の幅に収める長期金利目標という仕組みを止める可能性があります。その場合、円10年金利は、今の0.5%近辺から上昇しそうであり、円高要因になるでしょう。

第二に、アメリカの景気が大幅に悪化することです。アメリカの景気先行指標では、弱気サインも出ています。例えば、アメリカの代表的な景気先行指標であるISM製造業景気指数は、50を大きく下回っています。コロナ禍を除けば、アメリカが利下げに転じた後の2019年後半以来の水準です。

これまでの高インフレ下での個人消費を支えてきたのは、コロナ禍の給付金や外出自粛に伴って生じた過剰な貯蓄を使えたことや堅調な雇用市場だと考えています。

しかし、急激な利上げによって、アメリカの住宅市場の悪化は明確です。また、FRBは、インフレ率が明確に低下するまで、景気抑制的な高い政策金利を維持する姿勢を示しています。米国景気が大幅に悪化した場合、為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想します。

執筆日:2023年1月10日

2022

2022年12月

TOPIC

  1. 11月の米雇用統計では、賃金上昇ペースが加速して、利上げを続ける必要性を示す
  2. アメリカの長期金利の低下は続かず、12月は円安方向へ
  3. 米ドル高容認から転換ならば、資源国通貨にはプラス
  4. ユーロが反発する予想は変わらず
  5. リスク~世界の金融市場の不安定化、米国の景気後退リスク

ドル高円安方向に戻ると予想

2022年11月は、ドル安円高が進みました。米ドル円は、1ドル148円台でスタートしましたが、11月末には137円台まで下落して、1ヶ月で11円以上も円高に動きました。12月に入ってもドル安円高トレンドは続いており、12月2日には134円を割りこみました。

今年は、米10年金利が今年3月初めの1.7%近辺から10月に4.3%まで上昇するなか、ドル円は3月初めの115円近辺から10月に151円台までドル高円安に動きました。アメリカの金利が上昇したのは、インフレ懸念が強まって、アメリカの中央銀行(FRB)が急激なペースで利上げしてきたためです。

逆に、11月にドル安円高が進んだ理由は、11月10日に発表された米10月CPIが市場予想に比べて弱かったこと、それに伴ってアメリカの10年金利が約0.5%も低下したこと、などが挙げられます。

では、アメリカの10年金利は、更に低下して、ドル安円高が続くでしょうか。11月の米雇用統計から、アメリカの景気の現状を確認しましょう。

1.11月の米雇用統計では、賃金上昇ペースが加速して、利上げを続ける必要性を示す

11月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+26.3万人増加して、市場予想を上回りました。また、平均時給の上昇率が、市場予想を上回って、前年比+5.1%に加速したことはサプライズでした。失業率は3.7%と前月から横ばいです。

11月の雇用統計の数字は、タイトな労働需給が続いており、それが賃金のインフレ率を加速させている可能性を示唆します。パウエルFRB議長は、11月30日の講演で、賃金について「2%の物価目標と整合性が取れるレベルを大きく上回っている」と述べています。

よって、FRBは、利上げを緩やかなペースで続けるでしょう。アメリカの政策下限金利は景気抑制的とみられる3.75%まで上昇していますが、利上げは、来年前半に、5%程度まで続きそうです。その後は、インフレ率が大幅に下がらない限り、FRBの利下げは視野に入らず、日米金利差は大きく縮小しないでしょう。

2.アメリカの長期金利の低下は続かず、12月は円安方向へ

アメリカの10年金利低下が続くのかを、過去のアメリカの政策金利との関係やインフレ環境から考えてみましょう。

アメリカの10年金利が今の3.5%近辺から更に低下するのは難しいと考えます。パウエルFRB議長は、11月30日の講演で、利上げの天井について、「9月の見通しを幾分か上回る公算が大きい」と述べており、政策金利を5%近くまで上げることを示唆しています。今の10年金利は、来年前半に想定される政策金利よりも1.5%くらい低い位置にあります。

アメリカの政策金利が7%以下だった過去25年程度でみると、10年金利が政策金利を1.5%程度下回ることはありましたが、それはアメリカが利下げをする直前であり、景気悪化の可能性が非常に高くなったためでした。

しかし、今回は、インフレ率がまだ高いため、FRBは、来年も利上げを続ける見通しです。今の10年金利がさらに低下するならば、インフレ率が2%台まで低下して、アメリカの利下げが視野に入った時でしょう。

また、過去のドル安円高のピークからの動きを振り返ると、円安のピークをつけてから3ヶ月程度は10%以内の円高に収まっています。例外は1998年の世界的な金融危機ですが、今は金融危機などが発生しているわけではありません。

よって、当面は、米10年金利の低下が止まって、ドル円は140円前後までドル高円安に動くと予想します。

3.米ドル高容認から転換ならば、資源国通貨にはプラス

世界経済が減速していることは、資源需要の減少を通じて、資源国の通貨にはマイナス材料です。とくに、資源輸入大国である中国の製造業のPMIは48.0と、今年前半の上海のロックダウン以来の弱さです。

ブラジルレアルや南アランドなど、新興国でかつ資源国の通貨にとっては、世界景気が軟着陸するのが望ましいです。とはいえ、これまでの急ピッチの米利上げと米ドル高で、新興国はドル建ての債務負担が大きくなっており、世界景気にマイナスに働くでしょう。

しかし、米中間選挙が終わり、米国がドル高容認からドル安定に方針を変える兆しがあります。具体的には、イエレン財務長官が11月13日に、「ドルがこれほど強い環境において、多くの国が米国の政策が自国通貨に波及する影響を懸念している」「(低所得国の)債務を真剣に憂慮している」などと発言しています。新興国通貨には、多少プラスでしょう。

4.ユーロが反発する予想は変わらず

ユーロは、2002年以来となる1ユーロ=1米ドル割れ(パリティ割れ)から、ドル対比で上昇しています。ロシアのウクライナ侵攻で、エネルギー価格上昇の影響を強く受けてきましたが、ユーロ圏の11月のインフレ率は、前年比+10%と10月から小幅ですが縮小しています。ユーロ圏の企業や個人の景況感は弱いですが、その原因であるインフレの最悪期は抜けた可能性があります。

欧州中央銀行(ECB)は7月に利上げを開始し、マイナスだった預金金利は1.50%まで引き上げています。ユーロ圏の預金金利は、年末に2%程度まで上昇し、2023年にさらに上がると想定されています。

ユーロ圏の金利がプラスに戻るなか、ユーロ圏への資金回帰が強まると予想します。ECBが2014年6月に預金金利に-0.1%を適用するマイナス金利政策を導入した後、証券投資で、約2兆ユーロの資金が、ユーロ圏から純流出しました。しかし、2022年以降は、ユーロ圏の証券投資は、純流入に変わっており、ユーロ高要因でしょう。

5.リスク~世界の金融市場の不安定化、米国の景気後退リスク

当面は、1ドル140円程度までドル高円安方向に戻ると予想しますが、リスクもあります。

第一に、金融市場が不安定化することです。過去、ドル高円安がピークをつけた後、急激に円高が進んだ事例として1998年の金融危機があります。1998年にロシアが財政危機に陥り、大手ヘッジファンドが破綻するなか、金融システム不安が高まりました。FRBが利下げで対応するなか、急激に円高が進みました。

多くの国では、景気の減速と高いインフレ率に悩まされるなか、利上げをしています。各国の金融市場が不安定になれば、ドル安円高要因になる点には注意が必要です。

第二に、アメリカの景気が大幅に悪化することです。

アメリカの景気先行指標では、弱気なサインも出ています。例えば、アメリカの代表的な景気先行指標であるISM製造業景気指数は、2022年11月に50を割り込みました。コロナ禍を除けば、アメリカが利下げに転じた後の2019年12月以来です。

これまでの高インフレ下での個人消費を支えてきたのは、コロナ禍の給付金や外出自粛に伴う過剰な貯蓄の取り崩しだと考えます。過剰な貯蓄は、2022年に入ってから減少しており、個人所得対比で7%台まで減少したと試算されます。消費をサポートできるのは最大でも1年程度でしょう。

とはいえ、こうした過剰な貯蓄や強い労働市場がサポートとなり、アメリカの景気悪化ペースは緩やかであると考えます。しかし、急激な利上げによって、アメリカの住宅市場の悪化は顕著です。また、FRBは、インフレ率が明確に低下するまで、景気抑制的な高い政策金利を維持する姿勢を示しています。米国景気が急激に悪化した場合、為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想します。

2022年11月

TOPIC

  1. 10月の米雇用統計は、利上げを緩やかなペースで続ける必要性を示す
  2. 日本の単独介入は、ドル高円安のペースを緩やかにする効果あり
  3. 資源国通貨にはネガティブな要因が多い状況が続く
  4. ユーロが反発する予想は変わらず
  5. リスク~金融市場の不安定化、米国の景気後退リスク

ドル高円安のペースは緩やかになると予想

2022年10月は、ドル高円安が進み、内外株価は上昇しました。米ドル円は10月21日に1990年以来となる151.95円までドル高円安が進みました。急激なドル高円安の進行に対して、日本政府は9月に続いて10月もドル売り円買い介入を実施したとみられます。10月の為替介入額は約6.3兆円と、9月の約2.8兆円を上回り、ドル円は151円台から145円程度までドル安円高に動きました。

しかし、ドル高圧力は根強く、ドル高円安トレンドは変わっていないと考えます。ドル高円安が続き、米国株が11月に下落スタートとなったのは、アメリカの中央銀行(FRB)がインフレを抑制するために、高い水準まで政策金利を引き上げる姿勢を示したためでしょう。FRBは、11月に4会合連続の0.75%の利上げを決定し、政策金利を3.75-4.00%まで引き上げました。

加えて、パウエルFRB議長は、11月の記者会見で、「データは、金利の最終的な水準が従来の想定より高くなることを示唆している」「利上げの停止について考えるのはあまりに時期尚早だ」と発言しました。9月のFRBの中期見通しによれば、2023年末に政策金利を4.625%まで引き上げる方針を示していました。そのため、市場は、米政策金利が5%程度まで引き上げられ、米利上げが来年前半まで続くことを想定しています。日米の政策金利差は拡大が続き、ドル高円安になりやすい環境が続くでしょう。

しかし、FRBが高い政策金利を長く維持すれば、インフレ率は下がっても、アメリカの景気が悪化するとみられています。10月の米雇用統計から、アメリカの景気の現状を確認しましょう。

1.10月の米雇用統計は、利上げを緩やかなペースで続ける必要性を示す

10月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+26.1万人増加して、市場予想を上回りました。一方で、平均時給の上昇率は前年比+4.7%に縮小して、失業率も3.7%と前月から0.2%上昇しました。労働需給が緩和している可能性を示しています。

10月の雇用統計の数字は、強弱が混在しています。FRBは、労働市場の様子をみながら、利上げを緩やかなペースで続ける必要があると考えます。

アメリカの政策下限金利は景気抑制的とみられる3.75%まで上昇していますが、利上げは、来年前半に政策金利が5%程度に達するまで続きそうです。その後は、インフレ率が大幅に下がらない限り、FRBの利下げは視野に入らず、日米金利差は大きく縮小しないでしょう。

先月は1ドル150円に向けたドル高円安を予想しましたが、ドル円は150円台に到達しました。ドル高円安は、来年前半まで続くものの、ペースは緩やかになると予想します。

2.日本の単独介入は、ドル高円安のペースを緩やかにする効果あり

ドル高円安のペースが緩やかになると考える理由の一つは、日本政府が実施している円買い介入です。過去を振り返ると、日本単独の為替介入は、ドル円のトレンドを変えられていませんが、円安のスピードを緩やかにすることは可能だと考えます。

今年3月にアメリカが利上げを開始して以降、米政策金利を先読みする、米2年金利の上昇に沿って、ドル円はドル高円安に動いてきました。しかし、円買い介入が入ったとみられる9月22日以降は、米2年金利の上昇幅に対して、ドル高円安の変動幅が小さくなっています。ドル高円安ペースが速くなると、円買い介入への警戒感が高まるためと考えます。

一方で、円買い介入が、ドル高円安のトレンドを変えるのは難しいでしょう。最新のBIS調査(2022年)によれば、ドル円のスポット取引高は1日約3,500億ドルと、2019年調査の2,600億ドルから増加しています。1か月20営業日と考えれば、月7兆ドルのドル円取引が発生します。日本の外貨準備高は約1.2兆ドルであり、外貨売り円買いの介入は、この外貨準備高が上限となります。為替市場の取引規模が、日本の外貨準備高に比べて大きいため、日本が単独で円買い介入しても、円安のトレンドは変わらないでしょう。

3.資源国通貨にはネガティブな要因が多い状況が続く

世界経済が減速していることは、資源需要の減少を通じて、資源国の通貨にはマイナス材料です。とくに、資源輸入大国である中国の製造業のPMIは、49.2と弱いです。また、IMFは、10月の世界経済見通しで、2023年の世界の成長率が2.7%と今年の3.2%から低下すると予想しています。

ブラジルレアルや南アランドなど、新興国でかつ資源国の通貨にとっては、世界景気が軟着陸するのが望ましいです。しかし、アメリカの利上げの天井はみえていません。急ピッチの米利上げと米ドル高で、新興国はドル建ての債務負担が大きくなっており、景気にマイナスに働くでしょう。

実際、10月のG20の議長総括文には「金融政策の引き締めペースを適切に調整する」との文言が盛り込まれました。新興国が、急速な米利上げに伴うドル高を懸念していることを示唆しています。

4.ユーロが反発する予想は変わらず

ユーロは、対ドルで年初から15%も下落し、2002年以来となる1ユーロ=1米ドル割れ(パリティ割れ)が定着しています。ロシアのウクライナ侵攻で、天然ガスなどエネルギー価格上昇の影響を強く受けるなか、ユーロ圏の消費マインドは低水準であり、アメリカと比べて景気の弱さが目立ちます。

一方で、欧州中央銀行(ECB)は7月に利上げを開始し、10月の0.75%利上げで、マイナスだった預金金利を1.50%まで引き上げています。ユーロ圏の預金金利は、年末に2%程度まで上昇し、2023年にさらに上がると想定されています。ECBは、物価の安定を最も重視しており、ユーロ圏のCPIが前年比+10.7%と高いためです。

ユーロ圏の金利がプラスに戻るなか、ユーロ圏への資金回帰が強まると予想します。ECBが2014年6月に預金金利に-0.1%を適用するマイナス金利政策を導入した後、証券投資で、約2兆ユーロの資金が、ユーロ圏から純流出しました。しかし、2022年以降は、ユーロ圏の証券投資は、純流入に変わりつつあり、ユーロをサポートすると考えています。

5.リスク~金融市場の不安定化、米国の景気後退リスク

ドル高円安が緩やかに進むと予想しますが、リスクもあります。

第一に、金融市場が不安定化することです。9月下旬に発生した英国市場のトリプル安は、金利上昇と株安が一時的に世界に波及しました。

多くの国では、景気の減速と高いインフレ率に悩まされています。米ドル高自国通貨安が進むことで、景気を悪化させるほど高い金利まで引き上げざるを得ない状況も生じています。各国の金融市場が不安定になれば、米ドルの安定化を求める国際協調が起きるかもしれません。国際協調は、為替の方向を変える力を持つと考えます。

第二に、アメリカの景気が大幅に悪化することです。アメリカの景気は相対的に堅調であり、米ドル高の一因となっています。

ただ、米金利市場では、今年4月に発生した2年金利が10年金利を上回る逆イールドが定着しています。過去50年、逆イールドが発生した後、平均して14か月程度で、米景気後退が多く起きています。過去の経験則通りならば、2023年前半には、米景気が悪化してもおかしくありません。

FRBは、インフレ率が明確に低下するまで、景気抑制的な高い政策金利を維持する姿勢とみられます。インフレ率が高止まりした場合、米国景気が大幅に悪化して、株式や資源などリスク資産の価格は下落することで、為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想します。

2022年10月

TOPIC

  1. 9月の米雇用統計は、労働市場の強さと、利上げ継続の必要性を示す
  2. 日本の単独介入は、円高転換には力不足だろう
  3. 資源国通貨にはマイナス要因が多い状況は変わらず
  4. ユーロが上昇する予想は変わらず
  5. リスク~金融市場の不安定化、米国の景気後退、米インフレ率の高止まり

日本単独の円買い介入の効果は限定的で、ドル高円安が続く

2022年9月は、ドル高円安が進み、内外株価が下落しました。米ドル円は9月22日に1998年以来となる145.90円までドル高円安が進みました。日本政府が1998年以来となるドル売り円買い介入を2.8兆円規模で実施したため、一時的に140円台まで円高に動きました。しかし、ドル高圧力は根強く、ドル高円安トレンドは変わっていません。

また、米国株(S&P500種株価指数)は、年初の高値から6月安値までに下落した幅の半分を回復する、半値戻しを達成しましたが、9月には6月の安値を更新しました。米国株は、6月に弱気相場入り(直近1年の高値からの下落幅が2割を超えること)後に、半値戻しを達成したにもかかわらず、再び安値を更新し、過去にない値動きです。

米国株が再び下落したのは、米インフレ率が高止まりするなか、米中央銀行(FRB)が9月に3会合連続の0.75%の利上げを決めたためでしょう。FRBの中期見通しによれば、政策金利を2022年末に4.375%、2023年末に4.625%まで引上げる方針です。米10年金利が10年以上ぶりに4%台まで上昇するなか、日米金利差の観点から、ドル高円安になりやすい環境が続いています。

アメリカの積極的な利上げは、景気後退につながるとの見方が市場では多いです。しかし、9月の米雇用統計からみると、アメリカの景気はしっかりしています。

1.9月の米雇用統計は、労働市場の強さと、利上げ継続の必要性を示す

9月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+26.3万人増加して、市場予想を上回りました。失業率も3.5%(8月:3.7%)に低下し、労働需給がタイトであることを示しました。平均時給も前年比+5.0%と高めの伸びを維持しています。9月の労働参加率が下がったことも、労働の供給が減ったことを意味しており、労働需給がタイトになる要因です。

9月の雇用統計結果は、インフレ抑制を目指すFRBには悩ましい結果です。FRBが重要視する8月の米PCEデフレータの上昇率は、前年比+6.2%であり、インフレ目標の2%やFOMCの中期見通しで示された今年10-12月の5.4%を大きく上回ります。

FRBの利上げは、来年前半まで続きそうです。また、FRBは景気抑制的な高めの政策金利を2023年中は据え置くとみられます。インフレ率が大幅に下がらない限り、FRBの利下げは視野に入らず、日米金利差は拡大しても縮小しないでしょう。ドル円は150円に向けてドル高円安が続くとの見方を維持します。

2. 日本の単独介入は、円高転換には力不足だろう

日本政府が実施した円買い介入後も、ドル高円安は続いています。過去も、日本単独の為替介入は、ドル円のトレンドを変えられていません。

理由は、為替市場の取引規模が大きいためでしょう。ドル円のスポット取引高は1日約2600億ドル、1か月20営業日と考えれば月5.2兆ドルの取引が発生します(2019年の調査)。日本の外貨準備高は約1.2兆ドルであり、外貨売り円買いの介入は、この外貨準備高が上限となります。為替市場の規模が大きいため、日本が単独で円買い介入しても、円高に動くのは一時的であり、円安のトレンドは変わらないでしょう。円高転換には、米ドルの安定を求める国際協調が必要でしょう。

3.資源国通貨にはマイナス要因が多い状況は変わらず

ユーロ圏での景気減速が明確になっていることに加えて、中国の製造業のPMIは50.1と低空飛行が続いています。世界景気の減速懸念が強まるなか、原油や銅などの商品価格が上がりにくいことは、資源国の通貨にはマイナス材料です。

ブラジルレアルや南アランドなど、新興国でかつ資源国の通貨にとっては、米インフレ率が早期に低下して、世界景気が軟着陸するのが望ましいです。新興国の多くにとって、急ピッチの米利上げと米ドル高で、ドル建ての債務負担が大きくなっており、景気にマイナスに働くでしょう。

実際、国連貿易開発会議は、10月3日に発表した年次報告書で、先進国の金融引き締めで世界的な景気後退の可能性が高まること、新興国の成長率への悪影響が避けられないことを指摘しました。FRBが高い米政策金利を長く続けるならば、資源国通貨には弱気な見方が増えるでしょう。

4.ユーロが上昇する予想は変わらず

ユーロは、対ドルで年初から15%以上も下落し、2002年以来となる1ユーロ=1米ドル割れ(パリティ割れ)が定着しています。ロシアのウクライナ侵攻で、天然ガスなどエネルギー価格上昇の影響を強く受けるなか、ユーロ圏の消費マインドは低水準であり、8月の小売売上高は前年比-2%と個人消費は弱いです。

一方で、欧州中央銀行(ECB)は7月に利上げを開始し、9月も0.75%の追加利上げを実施しました。ユーロ圏の政策金利は、年末に2%程度まで上昇し、2023年にさらに上がると想定されています。ECBは、物価の安定を最も重視しており、ユーロ圏のCPIが前年比+9.1%と高いためです。

今後、ECBの政策金利が上がることで、ユーロ圏への資金回帰が強まると予想します。ECBが2014年6月に預金金利に-0.1%を適用するマイナス金利政策を導入した後、証券投資で、約2兆ユーロの資金が、ユーロ圏から純流出しました。ユーロ圏の短期金利が明確なプラスに戻れば、ユーロ圏から流出した資金がユーロ圏の債券市場などに戻り、ユーロの買い要因になるとの見方は変わりません。

5.リスク~金融市場の不安定化、米国の景気後退、米インフレ率の高止まり

ドル高円安が続くと予想しますが、リスクもあります。

第一に、金融市場が不安定化することです。9月下旬、インフレが警戒されているにもかかわらず、英政府が減税など財政拡大策を打ち出したため(後日に一部を撤回)、英国市場はトリプル安となり、金利上昇、株安が世界に波及しました。

各国の中央銀行は、物価の安定を通じて景気をサポートする以外に、金融市場の安定化にも注意を払っています。金融市場が不安定になり、更に米ドル高が進めば、米ドルの安定化を求める国際協調が起きるかもしれません。国際協調は、為替の方向を変える力を持つと考えます。また、FRBがハト派する可能性が意識されることも、ドル安円高要因でしょう。

第二に、アメリカの物価上昇率が高止まりして、景気が大幅に悪化することです。米金利市場では、2年金利が10年金利を上回る逆イールドが定着しています。過去50年、逆イールドが発生した後、景気後退が多く起きています。

9月の雇用統計からみて、米国はまだ景気後退の状態にはありません。また、市場は、インフレ率がいずれ低下することを前提に、2023年後半の米利下げを想定しているでしょう。

しかし、今後、米インフレ率が高止まりした場合、FRBは景気抑制的な高い政策金利を維持する必要があり、米金利は、さらに上昇する可能性があります。その場合、世界景気が大幅に悪化して、株式や資源などリスク資産の価格は下落することで、為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想します。

2022年9月

TOPIC

  1. 8月の米雇用統計は、米景気の底堅さ、さらなる利上げの必要性を示す
  2. 資源国通貨にはマイナス要因が多い状況は変わらず
  3. ユーロの上昇予想は変わらず
  4. リスク~米国の景気後退、米インフレ率の高止まり

高い米政策金利が続くとの期待が、ドル高円安要因に

2022年8月中旬までは、年初からのドル高円安、株安とは逆方向に動きました。米ドル円は7月14日に1998年以来となる139円台をつけた後、8月初めには130円台まで押し戻されました。また、米国株式市場では、米国株(S&P500種株価指数)が年初の高値から6月安値までに下落した幅の半分を回復する、半値戻しを達成しました。

しかし、8月中旬からは、アメリカ金利の上昇トレンドが明確になり、年初からのドル高円安、株安の流れに戻りました。ドル円は、1ドル140円台までドル高円安が進んでいます。理由は、8月10日に発表されたアメリカの7月CPIの上昇幅が縮小したにもかかわらず、アメリカの中央銀行メンバーがインフレ抑制のために、大幅な利上げを続ける姿勢を示したためでしょう。

パウエルFRB議長が、8月26日のジャクソンホールでの講演でタカ派的な姿勢を示したことで、アメリカの金利上昇が更に加速しました。具体的には、パウエル議長は、「物価の安定を回復させるには、景気抑制的な政策スタンスを一定期間維持することが必要となる可能性が高い」、「歴史は、早急過ぎる政策緩和を強く戒めている」と発言し、2023年の利下げ観測をけん制しました。

アメリカの高いインフレ率や積極的な利上げが、アメリカの景気後退を招くとの見方が市場では多いです。では、8月の米雇用統計からアメリカの景気の現状を考えてみましょう。

1.8月の米雇用統計は、米景気の底堅さ、さらなる利上げの必要性を示す

8月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+31.5万人と市場予想を上回る増加となりました。しかし、労働者が労働市場に戻ってきたため(労働参加率が上昇)、雇用と失業者の増加が同時に起きて、失業率は3.7%と前月から0.2%上昇しました。労働市場への流入増加は、労働需給を緩和させる要因であり、平均時給は前年比+5.2%と前月と同じ上昇率に止まりました。

物価上昇率と賃金上昇率が同時に上昇する、賃金インフレが回避できそうなことは、インフレ抑制を目指すFRBにとっては好ましいです。実際、利上げ期待の影響を受けやすい米2年金利は、米雇用統計発表後に、大きく低下しました。

しかし、FRBが重要視する7月の米PCEデフレータの上昇率は、前年比+6.3%であり、インフレ目標の2%やFOMCの中期見通しで示された今年10-12月の5.2%を大きく上回ります。

FRBが9月21日のFOMCで決定する利上げ幅次第で、米金利やドル円は上下に振れるでしょう。しかし、FRBが出すメッセージは2%インフレがみえるまで、景気抑制的な高い政策金利を維持することだと予測します。日米金利差は拡大しても縮小しないと考え、ドル円は1998年8月につけた147円に向けてドル高円安が続くとの見方を維持します。

2. 資源国通貨にはマイナス要因が多い状況は変わらず

欧米の景気減速に加えて、中国の製造業のPMIは49.4と2ヶ月連続の50割れとなっており、世界景気は減速しています。原油価格など商品価格が下がっている点は、資源国の通貨の下落要因でしょう。また、新興国の多くにとって、急ピッチの米利上げと米ドル高で、ドル建ての債務負担が大きくなるため、景気にマイナスに働くでしょう。

ブラジルレアルや南アランドなど、新興国でかつ資源国の通貨にとっては、米インフレ率が早期に低下して、米国景気が軟着陸するのが望ましいです。来年にアメリカの利下げが期待できるようになり、商品価格が支えられるためです。しかし、パウエルFRB議長は、「消費者と企業に経済的な痛みをもたらしても」、インフレ抑制に集中する姿勢を明確にしています。米国景気は景気後退には陥らないと予想しますが、市場では資源国通貨に弱気な見方が多い点には注意したいです。

3.ユーロの上昇予想は変わらず

ユーロは、対ドルで年初から1割以上も下落し、2002年以来となる1ユーロ=1米ドル割れです(パリティ割れ)。ロシアのウクライナ侵攻で、天然ガスなどエネルギー価格上昇の影響を強く受けるなか、ユーロ圏の消費マインドは低水準であり、個人消費は厳しい状況です。ユーロ圏の景気は、アメリカの景気より厳しいとみられます。

しかし、欧州中央銀行(ECB)は7月に利上げを始めました。9月には大幅な追加利上げが見込まれ、ユーロ圏の政策金利は、年末に1.6%程度まで上昇すると想定されています。ECBは、物価の安定を最も重視しており、ユーロ圏のCPIが前年比+9.1%と高いためです。

今後、ECBの政策金利が上がることで、ユーロ圏への資金回帰が強まると予想します。ECBが2014年6月に預金金利に-0.1%を適用するマイナス金利政策を導入した後、証券投資で、約2.2兆ユーロの資金が、ユーロ圏から純流出しました。ユーロ圏の短期金利が明確なプラスに戻れば、ユーロ圏から流出した資金がユーロ圏の債券市場などに戻り、ユーロの買い要因になると考えています。

4.リスク~米国の景気後退、米インフレ率の高止まり

ドル高円安が続くと予想しますが、リスクもあります。

第一に、米国景気が大幅に悪化して、急激な株安が発生することです。米金利市場では、2年金利が10年金利を上回る逆イールドが定着しています。過去50年、逆イールドが発生した後、景気後退が起きることが多かったです。

8月の雇用統計からみて、米国はまだ景気後退の状態にはないでしょう。ただ、今後、米国を中心に世界景気が大幅に悪化すれば、株式や資源などリスク資産の価格は下落し、為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想します。

第二に、アメリカの物価上昇率が高止まりすることです。FRBは、物価の安定と雇用の最大化を目標としています。パウエル議長は、「消費者と企業に経済的な痛みをもたらしても」インフレの抑制を優先する姿勢です。

米金利市場は、インフレがいずれ落ち着くことを前提に、2023年後半の米利下げを織り込んでいます。また、米長期金利も、長期的には2%インフレに戻ることを想定した金利になっています。しかし、物価上昇率が高止まりすれば、アメリカの中央銀行は「景気抑制的な政策スタンス」を長く続ける必要があります。また、2%インフレに戻るという金利市場の期待が変わることで、米長期金利が大幅に上昇するリスクがあります。その場合、新興国からの資金流出が加速し、米国株などリスク資産価格の下落を引き起こすでしょう。これも円高要因となります。

2022年8月

TOPIC

  1. 7月の米雇用統計は、米景気の強さを示し、さらなる利上げの必要性を示す
  2. 資源国通貨にはマイナス要因が多い状況
  3. ユーロの上昇を予想
  4. リスク~米国の景気後退、米インフレ率の高止まり

ドル安円高は一過性だろう

2022年7月の市場は、年初からのドル高円安、株安、原油高とは逆方向に大きく動きました。米ドル円は7月14日に1998年以来となる139円台をつけましたが、8月初めには130円台まで押し戻されました。また、米国株式市場では、米国株(S&P500種株価指数)が年初の高値から20%以上も下落した後、6月中旬からは10%以上も反発しました。WTI原油先物価格は、6月の120ドル台から80ドル台まで下落しています。

この1ヶ月程度のドル安円高、株高、原油安の理由の一つは、投資家が利益確定のために反対売買(ポジション整理)をしたためと考えます。ただし、米実質GDPが2期連続でマイナスとなるなど景気減速懸念が強まったこと、そのために米10年金利が3.5%近辺から2.5%程度まで1%も低下したこと、など経済環境の変化も理由として挙げられます。

FRBが7月に政策金利を2.25-2.50%に引き上げましたが、パウエルFRB議長が「いずれ利上げペースを落とすのが適切になる可能性が高い」と述べたため、利上げ局面が終盤に入ったとの見方も増えました。米景気後退、インフレの鎮静化、FRBの利下げ転換が今後起こると市場が予想すれば、ドル安円高、株高、原油安は自然です。

では、米金利の低下やドル安円高が、新しいトレンドなのか一過性かを、7月の米雇用統計などから考えてみましょう。

1.7月の米雇用統計は、米景気の強さを示し、さらなる利上げの必要性を示す

7月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+52.8万人と市場予想を上回る増加となりました。失業率も前月から0.1%下がって3.5%であり、アメリカの中央銀行が2022年10-12月期に想定する3.7%を下回ります。労働市場が強いなか、平均時給は前年比+5.2%と高止まりしています。

物価上昇と賃金上昇が同時に進行するなか、9月FOMCでの0.75%の利上げ確率が上昇しました。ボウマンFRB理事は、「インフレ率が明白に低下するまでは、同様の規模で利上げを検討する必要」と述べています。

FRBは、9月FOMCまでに、8月の雇用統計や7-8月のCPIを確認できるので、今後の経済指標次第で、利上げ見通しや米金利は上下に変わるでしょう。CPI上昇率は、徐々に低下するでしょうが、日米金利差は縮小しないと予想します。トレンドは、ドル高円安だと考えています。

2. 資源国通貨にはマイナス要因が多い状況

米国を中心に世界景気が減速して、商品価格が下落していることは、資源国の通貨の下落要因です。また、新興国の多くには、急ピッチの米利上げと米ドル高で、ドル建ての債務負担が大きくなるため、景気にマイナスに働くでしょう。

ブラジルレアルや南アランドなど、新興国でかつ資源国の通貨にとっては、米インフレ率が早期に低下して、米国景気が軟着陸するのが望ましいです。米利上げペースが緩やかになり、景気面から商品価格が支えられるためです。しかし、パウエルFRB議長は、7月27日のFOMC後の記者会見で、経済の軟着陸について、「我々の置かれている状況は普通ではなく、軟着陸は困難な目標だとわかっていたが、努力し続ける」と述べています。米国景気は景気後退には陥らず、資源国の通貨をいずれサポートする予想しますが、市場では慎重な見方も多いことに注意したいです。

3.ユーロの上昇を予想

ユーロドルは、一時1ユーロ=1米ドルを割り込みました。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格上昇の影響を強く受けるなか、ユーロ圏の6月小売売上高は前年比マイナスとなり、ユーロ圏の景気の弱さが目立ちます。

しかし、欧州中央銀行(ECB)は7月に利上げを始めました。ユーロ圏の政策金利は、年末に1%まで上昇すると想定されています。ECBは、物価の安定を最も重視しており、ユーロ圏のCPIが前年比+8.9%と高いためです。

今後、ECBの政策金利が上がれば、ユーロ圏への資金回帰が強まると予想します。ECBが2014年6月に預金金利に-0.1%を適用するマイナス金利政策を導入した後、約2.2兆ユーロの資金が証券投資でユーロ圏から純流出しました。ユーロ圏の短期金利がプラスに戻れば、ユーロ圏から流出した資金がユーロ圏の債券市場などに戻り、ユーロの買い要因になると考えます。

4.リスク~米国の景気後退、米インフレ率の高止まり

ドル高円安が続くと予想しますが、リスクもあります。

第一に、米国景気が大幅に悪化することです。米金利市場では、2年金利が10年金利を上回る逆イールドが定着しています。過去50年、逆イールドは、景気後退の前兆となることが多かったです。

7月の雇用統計からみて、米国は景気後退の状態にはないでしょうが、市場の米国景気の見通しは割れています。米国を中心に世界景気が大幅に悪化すれば、株式や資源などリスク資産の価格は下落し、為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想します。

第二に、アメリカの物価上昇率が高止まりすることです。FRBは、物価の安定と雇用の最大化を目標としています。パウエル議長は、「物価は経済の根幹であり、物価安定なしに経済は成り立たない」と述べており、インフレの抑制を優先する姿勢です。たしかに、アメリカの消費者マインドは景気後退期並みの悪化をみせており、高いインフレ率が、消費意欲を圧迫し、経済を不安定化させています。

米金利市場は、インフレがいずれ落ち着くことを前提に、来年の利下げを織り込んでいます。しかし、物価上昇率が高止まりして、アメリカの中央銀行が急激な利上げを続ければ、新興国からの資金流出や米国株などのリスク資産下落を引き起こすリスクがあります。その場合、為替市場では、ほとんどの通貨に対して、円高が進むでしょう。

2022年7月

TOPIC

  1. 6月の米雇用統計は、景気後退懸念を和らげる内容
  2. 資源国通貨は、米景気の軟着陸が可能かに左右される
  3. ユーロ安は続かないだろう
  4. リスク~米インフレ率の高止まり、世界景気の失速

ドル円は140円を視野、20年ぶり安値のユーロにも注目

2022年は6月上旬までを振り返ると、米ドルが主要通貨に対して大幅に上昇しています。とくに、対円では、6月29日に1ドル137円までドル高円安が進んで、140円が視野に入っています。また、米ドルは対ユーロでも上昇し、ユーロドルは20年ぶりのユーロ安水準となる1.02ドル割れとなりました。

また、内外株式市場は、米国株(S&P500種株価指数)が年初の高値から20%以上も下落して弱気相場に入りました。日経平均株価も年初の29,000円台から25,000円割れまで下落する局面がありましたが、その後は多少戻しています。また、商品価格指数は、6月初まで上昇トレンドでしたが、世界的な景気減速懸念から下落しています。

年初からのドル円は、日米の金利差が拡大するに伴って、ドル高円安に動きました。ロシアのウクライナへの軍事侵攻や中国の一部都市のロックダウンを受けて、5月のアメリカのCPIが前年比+8.6%と上昇ペースが加速したことで、アメリカの中央銀行(FRB)は6月に利上げペースを0.75%に加速させており、下限政策金利は1.5%です。その後も、FRB高官からは、7月の0.75%の利上げを示唆する声が出ています。

市場は、アメリカの中央銀行が、多少の景気悪化でも、物価上昇を抑制するための利上げを優先すると想定しています。そのため、米国の景気後退懸念は強まっています。6月の米雇用統計などから、アメリカの景気の現状を考えてみましょう。

1.6月の米雇用統計は、景気後退懸念を和らげる内容

6月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+37.2万人と市場予想を上回る増加となりました。失業率は前月と変わらずの3.6%であり、アメリカの中央銀行が2022年10-12月期に予想した3.7%に近いです。労働市場が良好さを維持するなか、平均時給は前年比+5.1%と5月の+5.3%から鈍化しましたが、高めの伸びが続きます。

物価上昇と賃金上昇が同時に進行するなか、FRBは、政策金利(現行1.50-1.75%)を長期的な中立金利(6月予測では2.5%)に早く近づけるため、7月に0.75%利上げを実施するでしょう。市場は、米政策金利が年末には3.4%程度まで上がることを既に織り込んでおり、さらに利上げを織り込む余地は小さくみえます。ただし、日米金利差が大きいことは、ドル高円安トレンドが続きやすい要因と考えます。

また、6月雇用統計で雇用者数の回復トレンドが確認されたことは、現状の米国景気が上向きであることを示唆します。一方で、景気先行指標であるISM製造業景気指数やNAHB住宅市場指数が低下しており、景気後退懸念は残ります。高過ぎる物価上昇率が景気後退懸念につながっているとみられ、米国景気や米国株は、今後のインフレ動向次第でしょう。

2.資源国通貨は、米景気の軟着陸が可能かに左右される

米景気後退懸念が強まって商品価格が下落していることは、資源国の通貨の下落要因でしょう。また、新興国の多くは、急ピッチの米利上げと米ドル高によって、ドル建ての債務負担が大きくなるため、景気にマイナスに働くとみられます。

ブラジルレアルや南アランドなど、新興国でかつ資源国の通貨にとっては、米インフレ率が低下して、米国景気が軟着陸するのが望ましいです。米利上げペースが緩やかになり、景気面から商品価格が支えられるためです。しかし、パウエルFRB議長は、6月29日のECBの年次フォーラムで、経済の軟着陸は可能だがかなり厳しいとの見方を示しています。米国景気は成長軌道を保ち、資源国の通貨は上昇すると予想していますが、市場では慎重な見方も多いことに注意したいです。

3.ユーロ安は続かないだろう

ユーロドルは、パリティ(等価)といわれる1ユーロ=1米ドル割れが目前です。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格上昇の影響を強く受けるなか、欧州の景気が悪化するとの懸念が強まっています。また、欧州中央銀行(ECB)は7月の利上げ開始を予告していますが、政策金利の大幅な引き上げは難しいとの見方もあるでしょう。周辺国の金利が大きく上昇してしまい、景気悪化懸念を強めるためです。

しかし、ユーロドルは上昇すると想定します。ECBは、基本的に、物価の安定を最も重視します。金融システムが不安定化しない限り、ユーロ圏のCPIが前年比+8.6%(コアで+3.7%)と高いため、ECBは利上げせざるを得ないでしょう。ユーロ圏の政策金利は-0.5%ですが、年末には+0.8%程度まで引き上げると想定されています。

実際に、ECBが利上げを始めれば、ユーロ圏への資金回帰が始まると考えます。ECBが2014年6月に預金金利に-0.1%を適用するマイナス金利政策を導入した後、約2.2兆ユーロの資金が証券投資でユーロ圏から純流出しました。ユーロ圏の短期金利がプラスに戻れば、ユーロ圏から流出した資金がユーロ圏の債券市場などに戻り、ユーロの買い要因になると考えます。

4.リスク~米インフレ率の高止まり、世界景気の失速

主要国通貨対比で円安が続くと予想しますが、リスクもあります。

第一に、アメリカの物価上昇率が高止まりすることです。FRBは、物価の安定と雇用の最大化を目標としています。パウエル議長は、本当の危険は高インフレが長期化してインフレ期待が制御不能になることだと述べており、インフレの抑制を優先するでしょう。たしかに、アメリカの消費者マインドは景気後退期並みの悪化をみせており、高いインフレ率が、消費を減少させ、景気後退につながるリスクがあります。

今回のインフレ率の上昇は、供給面に多くの原因があるため、インフレ率が下がるかは不透明です。アメリカの中央銀行が急激に利上げすれば、米金利が上昇して、新興国からの資金流出やリスク資産の大幅な下落を引き起こすリスクがあります。その場合、為替市場では、ほとんどの通貨に対して、円高が進むと想定されます。

第二に、世界景気が大幅に悪化することです。市場が想定する米利上げペースをみると、2022年中には大幅な利上げを織り込む一方で、2023年からは利下げを織り込んでいます。米国の景気後退が2023年にも起きるとの見方は増えているようです。欧米企業の景況感(PMI)は低下しており、景気悪化リスクは高まっています。世界景気が大幅に悪化すれば、株式や資源などリスク資産の価格は下落するでしょう。その場合、為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想されます。

2022年6月

TOPIC

  1. 5月の米雇用統計は、アメリカの中央銀行が大幅な利上げを続ける可能性を示唆
  2. 中国のロックダウン解除や資源高もあり、資源国通貨が上昇へ
  3. ユーロ円にも魅力
  4. リスク~米インフレ率の高止まり、米中を中心とした世界景気の失速

ドル高円安が継続へ、ユーロ円にも注目

2022年の為替市場を振り返ると、ドル円は3月上旬まで115円前後でしたが、5月9日には131円35銭まで急激に円安方向に動きました。その後、126円台まで円高に戻しましたが、6月に入ると130円前後まで再び円安が進行しています。

内外株式市場は、米国株(S&P500種株価指数)が年初の高値から18%近く下落した後に、反発しています。日経平均株価は1-3月期には5000円近い高下がありましたが、多少安定。また、商品価格指数は上昇トレンドを維持しており、例えば、WTI原油先物価格は120ドル前後と2021年末の75ドル台から6割程度高い水準です。

年初からのドル円と動きが似ているのは、アメリカの10年金利であり、米国景気やアメリカの中央銀行の利上げペースの見通しを反映しています。ロシアのウクライナへの軍事侵攻や中国の一部都市のロックダウンを受けて、物価上昇圧力が高まるなか、アメリカの中央銀行(FRB)は5月に利上げペースを0.25%から0.5%に加速させました。また、パウエルFRB議長は、6、7月にも0.5%の利上げを実施する可能性が高いことを予告しました。

市場は、アメリカの中央銀行が、多少の景気悪化や株価下落でも、物価上昇を抑制するための利上げを続けると想定し、米国の景気がいずれ悪化することを警戒したとみられます。その結果、米10年金利が低下して、ドル円が5月上旬から円高方向に動いたのでしょう。しかし、米10年金利は再上昇し、ドル円は、再び円安方向です。5月の米雇用統計から、アメリカの景気の現状を考えてみます。

1.5月の米雇用統計は、アメリカの中央銀行が大幅な利上げを続ける可能性を示唆

5月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+39万人と市場予想通りの堅調な増加となりました。失業率は前月と変わらずの3.6%であり、アメリカの中央銀行が2022年10-12月期に予想した水準に接近した状況が続きます。労働市場が良好であるなか、平均時給は前年比+5.2%と4月の+5.5%よりは鈍化しましたが、高めの伸びが続きました。

物価上昇と賃金上昇が同時に進行しているため、アメリカの中央銀行は、物価上昇率が高止まることを警戒して0.5%ペースでの利上げを続けるでしょう。

5月雇用統計からみると、アメリカの中央銀行は、政策金利(現行0.75-1.00%)を長期的な中立金利(3月予測では2.375%)に早く近づけるため、当面は0.5%ペースでの利上げを実施する可能性が高そうです。市場は、米政策金利が年末には2.8%程度まで上がることを既に織り込んでいますが、日米金利差が大きいことは、ドル高円安トレンドが続きやすい要因と考えます。

年内の円安方向の上限としては、ドル円の200日移動平均線からのかい離率や過去のドル円の年間値幅からみて、133円から135円が一つの目安と考えています。

2.中国のロックダウン解除や資源高もあり、資源国通貨が上昇へ

3月から始まった上海のロックダウン解除、ロシアへの経済制裁の長期化などから資源価格は高止まりです。資源国の通貨にはポジティブである一方で、資源輸入国である日本の貿易収支は赤字が続き、輸入金額の増加で米ドルの買いが増えやすいことを意味します。

また、各国の中央銀行も利上げを急いでいます。例えば、オーストラリアでは、1-3月のCPIが前年比+5.1%と上昇ペースが加速し、4月の失業率も過去最低となる3.9%まで低下するなか、物価と賃金の上昇が同時に進行する可能性が意識されます。オーストラリアの中央銀行(RBA)は、政策金利を5月に0.25%引き上げて0.35%としましたが、市場は年末までに2.6%までの引き上げを織り込んでいます。豪10年金利は3.5%近辺で推移しており、米10年金利を上回ることは、豪ドルのサポート要因でしょう。当面は、資源国通貨が対ドルや対円で上昇すると予想します。

3.ユーロ円にも魅力

ユーロ高円安も続くと考えます。欧州中央銀行(ECB)が7月には利上げを開始し、政策金利を-0.5%から年末には+0.6%まで引き上げると想定されているためです。ユーロ圏の景気回復が続くかには不透明感もありますが、ECBは、物価の安定を最も重視しています。ユーロ圏のCPIが前年比+8.1%(コアで+3.8%)と高いため、ECBは利上げせざるを得ないでしょう。

ECBは2014年6月に預金金利に-0.1%を適用するマイナス金利政策を導入した後、マイナス金利幅を-0.5%まで拡大させました。ユーロドルはマイナス金利導入前には1.36近辺でしたが、今のユーロドルは1.07台です。ECBがマイナス金利を導入した2014年6月から2022年までに、約2.2兆ユーロの資金がユーロ圏から純流出し、ユーロ安圧力となったためでしょう。しかし、ECBが利上げ局面に入れば、ユーロ圏から流出した資金がユーロ圏の債券市場なども戻り、ユーロの買い要因になると考えます。

4.リスク~米インフレ率の高止まり、米中を中心とした世界景気の失速

主要国通貨対比で円安が続くと予想していますが、リスクもあります。

第一に、アメリカの物価上昇率が高止まりすることです。FRBは、物価の安定と雇用の最大化を目標としています。失業率が長期目標の4%以下まで低下しているため、高い物価上昇率を抑えることが当面の課題です。バイデン大統領は、5月30日の米紙への寄稿で、「FRBはインフレを制御する一義的な責任を負っている」とインフレ抑制のための利上げを支持する姿勢を示しました。市場は、年末には、インフレ率が低下して、FRBの1回の利上げペースが0.25%に減速すると想定しています。しかし、今回のインフレ率の上昇は、供給面に多くの原因があるため、インフレ率が下がるかは不透明です。アメリカの中央銀行が急激に金融を引き締めるとの懸念が高まれば、米金利が上昇して、新興国からの資金流出やリスク資産の大幅な下落を引き起こすリスクがあります。その場合、為替市場では、ほとんどの通貨に対して、円高が進むと想定します。

第二に、世界景気が大幅に悪化することです。市場が想定する米利上げペースをみると、2022年中には大幅な利上げを織り込む一方で、2023年後半からは利下げを織り込んでいます。FRBの利上げが急速なペースで進めば、米国景気が2023年には減速すると、市場は想定しています。また、中国景気にも注意が必要です。5月の中国のPMIは4月から上昇しましたが、経済拡大の節目である50を下回っています。世界景気が大幅に悪化すれば、株式や資源などリスク資産の価格は下落するでしょう。為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想されます。

2022年5月

TOPIC

  1. 4月の米雇用統計は、アメリカの中央銀行が大幅な利上げを続ける可能性を示唆する
  2. 日本の実需や日銀の金融政策からみても、円安が続きやすい
  3. ドル高円安はどこまで進むのか?
  4. リスク~米インフレ率がさらに高まること、米中を中心とした世界景気の失速

米利上げペースは0.5%に加速、円安はどこまでいく?

2022年の為替市場を振り返ると、ドル円は3月上旬まで115円前後でしたが、3月のアメリカの中央銀行(FRB)の利上げ開始前後から急激な円安が進行して、4月28日には131円台まで円安が進みました。

内外株式市場は、米国株(S&P500種株価指数)が15%近く下落し、日経平均株価も年初の29,388円から24,681円まで下落する局面があり、不安定です。また、資源価格が上昇トレンドであり、WTI原油先物価格は3月7日に1バレル130ドル台と2021年末の75ドル台から7割以上も上昇し、その後も高値圏を維持しています。

為替、株式、商品市場を動かしたのは、世界的な物価上昇圧力の高まり、アメリカの中央銀行の利上げペースの加速という2つの要因でしょう。まず、2021年から物価上昇圧力が高まっていたところに、世界有数の資源国であるロシアが2月下旬にウクライナに軍事侵攻を始めたことで、原油や天然ガスなどの資源供給が減少するとの懸念が物価上昇に拍車をかけました。そして、物価上昇を受けて、アメリカの中央銀行(FRB)が3月から利上げを始めましたが、5月会合では利上げペースを0.25%から0.5%に加速させ、中央銀行の資産を急ピッチで減らすことを決めました。

物価上昇のペースが速すぎると、個人が消費を手控えて、景気が悪化するリスクがあります。また、アメリカの中央銀行が急激に政策金利を上げていけば、米国を中心に株価にはマイナスとみられ、年初から米国株が下落している一因です。

為替市場では、日米金利差が急速に拡大したことが、ドル高円安をもたらしました。ただ、急激な米金利の上昇で、内外株価の下落がトレンドとなり、世界の景気が悪化すれば、円高要因にもなりえます。まずは、4月の米雇用統計から、アメリカの景気の現状を考えます。

1.4月の米雇用統計は、アメリカの中央銀行が大幅な利上げを続ける可能性を示唆する

4月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比で+42.8万人と市場予想を上回って増加しました。また、失業率は前月と変わらずの3.6%であり、3月FOMCの2022年10-12月期の予想水準まで低下しています。労働市場が良好であるなか、平均時給は前年比+5.5%と3月の+5.6%よりは鈍化しましたが、高めの伸びが続いています。

アメリカの中央銀行は、物価上昇と賃金上昇が同時に進行することで、物価上昇率が高止まりすることを警戒せざるを得ないでしょう。

4月雇用統計からみると、アメリカの中央銀行は、長期的な中立金利(3月予測では2.375%)に早く近づくため、6月と7月も0.5%の利上げを実施する可能性が高そうです。市場は、米政策金利(現行0.75-1.00%)が年末には2.8%程度まで上がることを既に織り込んでいますが、日米金利差が大きいことは、ドル高円安トレンドが続きやすい要因でしょう。

2.日本の実需や日銀の金融政策からみても、円安が続きやすい

日本円が下落している背景を、日本独自の要因から考えると、当面は円安圧力になりそうです。まず、貿易面では、昨年8月から貿易赤字が続いており、輸入に伴うドル買い圧力が輸出に伴うドル売りを上回っています。資源輸入国である日本にとって、原油など資源高が続くことは、輸入金額の増加を通じて、米ドルの買いが増えやすいことを意味します。

また、アメリカの金利が上昇しても、円の金利が同じ幅だけ上がれば、金利差は拡大しません。しかし、日本銀行は、4月に、10年金利を0.25%以下に抑える姿勢を明確にしました。主要な中央銀行が利上げ方向に動くなか、日銀の金利を低く抑える姿勢は際立っています。金利の低い通貨で資金を調達して、金利の高い通貨を買う取引を行う場合、日本円の売りやすさにつながります。

3.ドル高円安はどこまで進むのか?

円安方向におけるドル円の目途は2002年に記録した135円でしょう。他に2つの視点から、円安進行の目途を考えてみます。

第一に、ドル円の200日移動平均線からのかい離率です。2000年以降、ドル円の200日移動平均からの乖離率は、2013年5月に最大で18%まで拡大しました。今の200日移動平均が115円台であるため、円安方向に18%程度かい離すると、135円から136円程度です。

第二に、過去におけるドル円の1年間の値幅です。ドル円の値幅は、最近だと10円程度と狭いですが、2000年以降で確認すると、20円を超えることもあります。仮に、今年のドル円の値幅が20円になれば、安値が113.47円なので、機械的に計算した高値は133.47円となります。年内の円安方向の上限として、133円から135円が一つの目安と考えています。

4.リスク~米インフレ率がさらに高まること、米中を中心とした世界景気の失速

ロシアのウクライナ侵攻の余波が残るため、資源価格は下がりにくいと考えます。その場合、対円では、資源国通貨(豪ドル、NZドル、南アフリカランド、ブラジルレアル)も上昇すると予想します。リスクは何でしょうか。

第一に、アメリカの物価上昇率がさらに高まることです。FRBは、物価の安定と雇用の最大化を目標としています。失業率が長期目標の4%以下まで低下しているため、高い物価上昇率を抑えることが当面の課題となるでしょう。また、アメリカでは、2022年11月に中間選挙があり、物価上昇率を抑えることが政治的にも求められています。そのため、物価上昇率がさらに高まれば、FRBは、1回の利上げペースを0.75%に加速させるなど、金融引締めを急ぐとの見方が出てくるでしょう。アメリカの中央銀行が急激に金融を引き締めることは、新興国からの資金流出やリスク資産の大幅な下落を引き起こすリスクがあります。その場合、為替市場では、ほとんどの通貨に対して、円高が進むと想定します。

第二に、世界景気が大幅に悪化することです。市場が想定する米利上げペースをみると、2022年中には大幅な利上げを織り込む一方で、2023年後半からは利下げを織り込んでいます。FRBの利上げが急速なペースで進めば、米国景気が2023年には減速すると、市場は想定しているようです。また、コロナ感染拡大で一部の都市でロックダウンを実施している、中国景気にも注意が必要でしょう。4月の中国の非製造業PMIは41.9とコロナショックが起きた2020年2月以来の大幅な落ち込みを記録しました。世界景気が大幅に悪化すれば、株式や資源などリスク資産の価格は下落するでしょう。為替市場では、リスク回避の円高が発生しやすいと予想されるため、注意しておきたいです。

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