[米国雇用統計] なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

8月3日発表「米国雇用統計」

変動結果

発表直後からの10分間は↓円高ドル安に変動!
  • じぶん銀行FX米ドル/円10分足のチャートより抜粋
発表直前 10分後 変動幅
米ドル/円
為替レート
111.529円 111.450円 -0.079円
  • じぶん銀行FXレート
失業率 非農業部門
雇用者数
予想 3.9% +19.3万人
結果 3.9% +15.7万人
乖離 0.0% -3.6万人
  • 結果は速報値です。

詳しい解説

米国7月雇用統計発表(8月3日21:30)前後の為替動向について

1. 発表前

7月の米ドル/円相場は、方向感のつかみづらい動きとなった。おおむね事前予想通りとなった6月雇用統計(6日)は新たな材料とはならず、また米国と中国双方が、追加関税発動*1や新たな関税リスト*2の公表を準備するなど、米中間での貿易戦争への懸念は一段と強まるもののドルの下値は固く、7月上旬は110円台での保合相場が続いた。主要通貨に対してドルが底堅く推移する中、米ドル/円がにわかに動き始めたのは、5月高値の111円40銭を上抜け、112円台へ上昇(11日)してからである。「当面はFF金利*3の漸進的な引き上げ継続が最善策と考えている」とのパウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長の議会証言(17日、上院銀行委員会)を受けドルが全面高となり、19日には月間高値となる113円17銭をつけた。しかしながら、113円台の滞空時間は長くは続かず、トランプ米大統領の、ドル上昇が『米国を不利な立場に』、金利上昇を『うれしくない』とのインタビュー記事を受けてドルは反落。20日には「中国やEUは通貨安、金利安を人為的に操作してきた」とツイートすると、ドルは111円台へ下落した。さらに「日銀が金融緩和の持続性向上策を議論へ」との報道(20日)が伝わると、本邦長期金利の上昇とともに円高が進み、110円台半ばまで下落(26日)するなど、わずか1週間で2円幅の往来相場となった。注目が集まった日銀金融政策決定会合(30-31日開催)では、10年物国債金利の誘導目標(0%)からのかい離許容幅拡大*4が決定され、本邦長期金利は一段高となったが、米ドル/円はフォワードガイダンス*5の導入の方に反応し、逆に112円近辺まで円安が進むこととなった。
8月に入ってからは、相場はやや落ち着き111円台後半での揉み合いとなり、結局111円60銭近辺で、指標の発表を迎えることとなった。
事前予想は、「失業率」が3.9%(前月4.0%)、「非農業部門雇用者数」が+193千人(前月+213千人)、「平均時給」が+0.3%(前月+0.2%)であった。

  1. *1 米国が中国に対して25%の追加関税を課して発動。(5兆5,000億円相当。そのうち3兆7,500億円相当を実施)中国も米国から輸入される659品目、5兆5,000億円相当のうち、3兆7,500億円相当の報復関税を課す(7月6日)。
  2. *2 米当局が追加で2,000億ドル規模の対中関税リストを公表の準備(7月10日)。
  3. *3 米国の短期金利の代表的な指標。連邦準備銀行に預ける準備預金がFF(フェデラル・ファンド)、その資金を市場で調達する際の金利がFF金利。FRBが行う金融政策の誘導目標金利となっている。
  4. *4 会合後の黒田総裁会見で、「上下0.1%程度の変動を認めているが、今回の修正によってその倍程度、変動しうることを念頭に置いている」と説明。
  5. *5 中央銀行が、金融政策を将来どのように変化させるかについて、明示する指針。日銀は今回の決定で、「2019年10月に予定されている、消費税引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」とする、金利に関するフォワードガイダンスを新規に導入した。

2. 発表直後

5月「失業率」は、前月より0.1%低下し3.9%。「非農業部門雇用者数」は、事前予想を下回る前月比+157千人(ただし5・6月分は合わせて59千人上方修正)。「平均時給」は、事前予想通りの前月比+0.3%(前年比は+2.7%と変わらず)と、おおむね良好な内容であった。

「非農業部門雇用者数」が事前予想を下回ったことに反応し、米ドル/円は111円40銭台へ下落。その後111円30銭台へ下落したが、過去2ヶ月分が上方修正されていたことから下げ幅は小幅なものに留まり、その後は111円40銭を挟んでの揉み合いとなった。

3. NYK Closeまで

雇用統計はおおむね事前予想通りであったが、その後発表された、米8月ISM(全米供給管理協会)非製造業指数が事前予想を大きく下回り、米長期金利が低下。米ドル/円はじわりと値を下げる展開となった。さらに、クドローNEC(米国家経済会議)委員長の中国をけん制する発言*6を受けてドルは一段安となり、日付が変わると一時110円10銭の安値をつけた。しかし同水準で下げ止まると、その後は米株価が堅調な動きとなったこともあり、ドルはやや値を戻し、結局111円25銭前後でクローズとなった。米長期金利(10年国債利回り)は2.95%台へ下落。ニューヨークダウは25,462ドル(前日比+136ドル)と続伸となった。

  1. *6 「中国は貿易に関して、トランプ米大統領を過小評価しない方がいい」

4.「米ドル/円が弱含みとなったのはなぜ」

  • 雇用統計はおおむね事前予想通りであり、米ドル/円は発表後わずかに下げたものの、相場を動かす大きな材料にはならなかったと考える。
  • 東京時間の主たる取引レンジであった111円70銭前後から、欧州時間にじわりとドル安・円高方向への動きが始まっていたが、ニューヨーク時間に米中貿易への懸念が再燃し、ドル買いポジションの調整が進んだものと思われる。

5. 当面の見通し

  • (Ⅰ)8月雇用統計

    「失業率」は前月の反動高から再び低下し、そのトレンドが確認された。また、「非農業部門雇用者数」が堅調を維持する一方、賃金データは非常に緩やかな上昇で加速しない、という構図が継続している。これらは、四半期に一度利上げを行うFRBの金融政策に影響を与えるというものではなく、米国経済の好調がしばらく続くことを示唆している。賃金データが加速するかが、今後も注目されよう。

  • (Ⅱ)米ドル/円動向

    久しぶりに日銀金融政策決定会合が、市場の耳目を集めることとなった。日銀の金融政策に関する観測報道(金融緩和の持続性向上策、長期金利目標の柔軟化、副作用に配慮した政策を検討)が相次いだのは7月23日であるが、前回6月会合で、すでに以下の点が議論されていたことが、議事要旨(8月3日公表)で明らかとなった。
    それは、

    • 次回会合(7月)にて物価の見通しと、背後にあるメカニズムやリスク評価などを詳しく議論し、その内容を丁寧に説明する。
    • (物価上昇率)2%の実現までには相応の時間を要すると見込まれることから、その効果と副作用の双方を丁寧に点検しながら、持続可能な形で強力な金融緩和を息長く続けていくことが必要。
    • 強力な金融緩和を継続する場合の効果と副作用について、金融仲介機能や金融システムに及ぼす影響も含めて、多面的な点検・評価を継続していく。
    • 本来の市場機能をできるだけ維持する観点から、長期金利の操作にあたっては、市場調節をより弾力的に運営していく。

    などであり、その結果が、今回会合での決定事項『強力な金融緩和継続のための枠組み強化』である。

    黒田総裁自ら、長期金利の変動幅について「現在の倍程度(±0.20%)、変動しうることを念頭に置いている」と説明していることから、国債10年利回りは、そう遠くない将来、0.20%近くまでの上昇を試しに行くであろう。しかしながら、「それ以上の上昇は容認しない」と明言したとも解釈できること、また既述のとおり、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定する」とした政策金利のフォワードガイダンスを新たに導入したことからも、長期金利は一定の範囲内で推移することが想定され、本邦長期金利動向が米ドル/円相場に与える影響は、さほど大きくはないものと考える。

    今回は、日銀金融政策決定会合の影に隠れる形となったが、7月31日-8月1日に開催された、米FOMC(連邦公開市場委員会)は、声明文で、経済成長と雇用情勢に関する記述が上方修正され、さらなる利上げを継続する文言も維持された。米長期金利(10年国債利回り)は、本邦長期金利の上昇の余波を受け、3%を超える場面も見られたが、足下では若干低下しており、こちらも米ドル/円相場に与える影響は限定的となっている。気になる点といえば、8月初めに発表された、ISM景気指数が、製造業・非製造業ともに比較的大きな幅で下落となったことである。いまだ景気動向の良し悪しを測る分岐点である50%を大きく上回っており、心配ないと見られるが、同指数は景気転換の先行指標として知られており、雇用統計とともに来月は注目されよう。

    好調な米国経済を背景に、米国株の堅調さが際立っている。前月の本稿では、「11月に中間選挙を控えるトランプ政権の支持率が全く下がっておらず、逆に上昇していることから、市場は秋に向けて一段のリスクオン相場(株高、ドル高、金利高)となることを意識し始めているのかもしれない」との考えを示したが、今のところ、リスクオン相場が継続している模様である。対照的なのが中国市場で、為替市場での中国元安と、株式市場(上海総合株価指数)の下落が続いている。中央銀行である中国人民銀行は、先月の口先介入に続いて「為替先物取引の一部を対象に、20%の準備金預入を義務付け」を発表(8月3日)し、市場の動きをけん制したが、中国元安トレンドは崩れていない。米中間での通商問題への反応がやや鈍くなってきている状況下、リスクオン相場の転機となる事象としては、やはり中国発の悪材料や、イラン核合意から離脱した米国のイラン制裁再開などから派生する、地政学的リスクが考えられよう。

    米ドル/円のチャートは、104円台半ばをつけた3月の年初来安値から、現在週足で2段上げの状態にあり、次の上昇波で昨年11月の高値である、114円台半ばを試す可能性も秘めている。四半期に一度の米利上げ継続による米長期金利の安定と、日銀出口政策の後退、米国を中心とした株式市場の堅調さなどを考えると、お盆の本邦実需筋売り注文をこなした後は、11月の米中間選挙に向けてドルの底堅い展開が見込まれる。足下での米ドル/円の上昇がゆっくりとしたものであることから、売り場探しはもう少し先となるかもしれない。

    予想レンジ:
    109円50銭~113円50銭(向こう1ヶ月程度)
    107円00銭~114円50銭(向こう半年程度)
  • 当内容は2018年8月7日現在の見解です。
執筆者:
株式会社じぶん銀行 ALM部長 島本薫

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