[米国雇用統計] なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

5月4日発表「米国雇用統計」

変動結果

発表直後からの10分間は↓円高ドル安に変動!
  • じぶん銀行FX米ドル/円10分足のチャートより抜粋
発表直前 10分後 変動幅
米ドル/円
為替レート
108.846円 108.795円 -0.051円
  • じぶん銀行FXレート
失業率 非農業部門
雇用者数
予想 4.0% +19.2万人
結果 3.9% +16.4万人
乖離 -0.1% -2.8万人
  • 結果は速報値です。

詳しい解説

1. 発表前

4月の米ドル/円相場は、ほぼ一貫してドル上昇となった。3月26日に年初来安値となる104円56銭をつけた後、北朝鮮情勢の好転が契機となり、じわりと反発。先月雇用統計発表(4月6日)後は107円台前半で揉み合いとなった。その後は米長期金利がじり高となるもドルの上値は重く、107円を挟んだ取引が続いていたが、19日に行われた日米首脳会談で、懸念された「円安是正要求」や「対日強硬姿勢」が見られなかったことから、ドル買いが強まり、107円台半ばを上抜けると一気に109円台半ばまで上昇となった。また、原油価格の上昇に伴い、米長期金利(10年国債利回り)が2月の高値を抜けて一時3%乗せとなったことも、米ドル/円の上昇要因となった。3月日銀短観で示された、大企業製造業の2018年度想定為替レートである、109円台後半に到達したことで、月末にかけては再びドルの上値が重くなる場面も見られたが、市場のリスクオンムードは続き、5月に入ると2月5日以来となる、110円台を一時回復。結局108円90銭前後で、指標の発表を迎えることとなった。
事前予想は、「失業率」が4.0%(前月4.1%)、「非農業部門雇用者数」が+192千人(前月+103千人)、「平均時給」が+0.2%(前月+0.3%)であった。

2. 発表直後

4月「失業率」は前月より0.2%低下して3.9%。「非農業部門雇用者数」は、事前予想を下回る前月比+164千人(2・3月分は合わせて3千人上方修正)。「平均時給」は、前月比+0.1%(前年比は+2.6%)と事前予想を下回り、過去分も下方修正される弱い内容であった。

予想を下回る「非農業部門雇用者数」を受け、米長期金利(10年国債利回り)が低下し、米ドル/円は108円台後半に下落。しばらく108円50銭をトライする動きとなったが、ドル売りが続かずに反転上昇に転ずると、米長期金利の反発もあいまって、ドル買い戻しが優勢となり、109円20銭台まで上昇して同水準で揉み合いとなった。

3. NYK Closeまで

東京市場が連休中ということもあり、日付が変わってから全体に様子見気分が強まった。米長期金利の動きが横ばいとなったことを好感して、米株価が堅調な動きとなったものの、米ドル/円は109円台前半で動意に乏しく、結局109円10銭前後でクローズとなった。米長期金利(10年国債利回り)は2.95%に小幅上昇。ニューヨークダウは24,262ドル(前日比+332ドル)と大幅に上昇した。

4. 「米ドル/円がいったん下落後に、反転上昇となったのはなぜ」 

  • 発表直後の下落は、事前予想比弱い「非農業部門雇用者数」と、期待外れとなった「平均時給」に反応したものであろう。チャートポイント*1である108円50銭を崩しに行くドル売りもあったものと思われる。
  • 108円50銭に大口のドル買い注文があったかは不明だが、売り崩すことができずに、ドルがじわじわと反発する中で、米長期金利が上昇に転じたことで、発表後にドルを売っていた向きが買戻しを迫られて、上昇に弾みがついたものと考える。
  1. *1チャート上の注目ポイント(節目)となる価格のこと。その水準を下回ると相場が大きく下落、あるいはその水準を上回ると相場が大きく上昇すると目される価格のこと。また、チャートポイント近辺では取引量が膨らむことが多い。

5. 当面の見通し

  • (Ⅰ)5月雇用統計

    4月の「失業率」は、2000年12月以来の低水準である3.9%へ低下したが、労働力人口と失業者数がともに大幅に低下したことが「失業率」の押し下げ要因となった。一方、「失業率」の低下が賃金上昇につながっていないことが注目される。「平均時給」の上昇は加速することはなく、今後も緩やかな上昇に留まると考える。「非農業部門雇用者数」は、事前予想には届かなかったが、完全雇用状態が近づく中、雇用者数の増加ペースが鈍るのは自然であり、毎月150千人程度の増加であれば、さほど懸念する状況ではない。

  • (Ⅱ)米ドル/円動向

    先月の本稿では、「年初から3ヶ月続いたドル下げが上昇に転じやすいタイミングであり、107円台半ばを明確に上抜ければ、米ドル/円も上昇に弾みがつくであろう。こうした局面では、モメンタムが先で材料は後から付いてくることが多いのだが、例えば低下していた内閣支持率が回復するといった程度でも良いのであろう」との考えを示した。実際、ドルは上昇したのだが、その理由として『米ドル/円上昇と日米長期金利差の相関性』との解説記事も見られたが、どうもしっくりこない。結局のところ、年初から続いたドル安の反転によるドル高*2であろうと筆者は考えている。事実、4月後半からユーロに対してのドル上昇が際立っており、決して円安によるものではなく、北朝鮮情勢の好転が「リスクオフのドル売り」から「リスクオンのドル買い」に転じさせる要因となったのであろう。

    1. *2トランプ大統領は、就任直後から米貿易赤字の解消に向け、ドル安政策を掲げており、ドルインデックス(ユーロ、日本円、英ポンドなど主要国通貨に対する米ドルの総合的な価値を指数化したもの)は、今年2月に3年振りの安値に下落し、その後も安値圏での推移が続いていたが、4月半ばから反転・上昇に転じた。

    大手生命保険会社の2018年度の資産運用計画が公表された。前年度同様、国内金利の上昇が見込めない中で、各社とも外債投資を積み増す計画としている。米ドル/円相場の需給にも影響を与える「オープン外債投資*3」の為替水準は、105円割れから100円程度と見られ、3月の円高局面でも105円以下の水準で相応の投資がなされた模様。生命保険会社のオープン外債投資の一般的な投資スタイルは、ドルの上値を追いかけて買うのではなく、押し目をじっくりと待つものであり、今後も105円以下ではドル買い需要が強まるものと予想され、ドル下落局面でも、一気に100円を目指す展開は考えにくい。

    1. *3外債投資を『為替ヘッジなし』で行うこと。米連続利上げにより、足下では日米短期金利差が拡大し、為替ヘッジコストが上昇したため、(為替変動リスクがない)ヘッジ付き外債での運用は、投資妙味もない。オープン外債投資では、円高は資産価値の下落要因、円安は資産価値の上昇要因となるため、投資するタイミング(為替水準)が重要となる。

    一方で、110円より円安・ドル高の水準では、本邦実需筋のドル売り注文が並ぶことは容易に想像できる。年初からの円高局面で一時的にせよ、105円を割り込んだこともあり、2018年度想定為替レート(上半期が109円63銭、下半期が109円68銭)が確保できる水準では、確実にドル売りで対処するであろう。米ドル/円が、ゴールデンウイーク前の5月2日に110円台に乗せる場面も見られたが、極めて短時間で反落となったのは、こうしたドル売りが出た証左と考える。こうして見ると、ドルの上値、下値ともに簡単には破られない需給となっており、上半期は105円~110円程度でのレンジ相場となる可能性が強い。

    日米の金融政策に目を向けると、日銀は新体制となった4月27日の金融政策決定会合で、現在の金融政策の維持を決定した。リフレ派として注目された、若田部副総裁も現状維持の賛成に回り、声明文で「2%の物価目標の達成時期」に関する文言が削除されたことだけが話題となった。黒田総裁の記者会見では、削除の理由を明確にしなかったが、市場は物価目標達成時期の後ずれを当然と考えており、本件が、今後の金融政策や長期金利動向に影響を与えることはないであろう。2016年9月の導入以来、イールドカーブ・コントロール政策によって長期金利は低位安定推移が続いている。筆者は年初に、今年は日銀の金融政策動向に注目する、と述べたが、どうやら今年度中は大きな変動は期待できない。材料を強いて挙げれば、①9月の自民党総裁選挙で安倍総裁の三選なるか、②秋ごろと予定される、2019年10月の消費税引上げ判断、であろう。

    米国では、5月2日にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催され、声明文では、2%の物価目標がおおむね達成したことを宣言した。また、さらなる利上げ継続を示唆する文言が継続しており、次回6月FOMCでの追加利上げが確実視されている。4日に発表された4月米国雇用統計は、事前予想よりは弱めであったが、金融政策の方向性に変更はないと考える。継続的な利上げや、足下での原油価格の上昇による消費者物価指数が上振れることで、米長期金利が3%を上回って大きく上昇することが予想されるが、筆者はむしろ、米短期金利や10年より短い米長期金利の上昇が、景気抑制効果となること、米長期金利の急上昇も、為替市場でのドル高と米株価の急落を招くこととなり、景気のスローダウンにつながり、結果として米長期金利は低下すると考えている。年初にテーマとなっていた、ゴルディロックス(Goldilocks:適温)経済*4が再来するとは思わないが、連続利上げの実体経済への影響が来年辺りから徐々に顕現化するであろう。

    1. *4過熱することもなく、低迷することもない、適度な経済状態のこと。語源はイギリス童話「ゴルディロックスと3匹のくま」から来ているといわれている。

    短期的には、70ドルに乗せた原油価格、米国によるイラン核合意離脱の是非判断、米朝首脳会談、と相場の材料は多い。しかしながら上述の通り、米ドル/円の需給は上下で綱引きとなっており、レンジ相場入りする可能性が高い。先月まで指摘していた、夏ごろから再び円高地合いに戻るとの考え方は、そのタイミングは後ずれすると修正することとしたい。すなわち、ドル下落局面での生命保険会社の外債投資用のドル買い(105円割れでの水準)が一巡し、それに同調して多くの市場参加者がドル買いを行った結果、米ドル/円が上昇すれば、次にドルが下落する局面では、買い手は少なく、その下げ幅は大きいものとなるというもの。2019年度には、米景気の鈍化もあり、米ドル/円が再び100円割れとなる可能性は高いと見る。

    予想レンジ:
    107円00銭~111円00銭(向こう1ヶ月程度)
    104円00銭~112円00銭(向こう半年程度)
  • 当内容は2018年5月8日現在の見解です。
執筆者:
株式会社じぶん銀行 ALM部長 島本薫

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