[米国雇用統計] なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

3月9日発表「米国雇用統計」

変動結果

発表直後からの10分間は↑円安ドル高に変動!
  • じぶん銀行FX米ドル/円10分足のチャートより抜粋
発表直前 10分後 変動幅
米ドル/円
為替レート
106.76円 106.922円 +0.162円
  • じぶん銀行FXレート
失業率 非農業部門
雇用者数
予想 4.0% +20.5万人
結果 4.1% +31.3万人
乖離 +0.1% +10.8万人
  • 結果は速報値です。

詳しい解説

1. 発表前

2月の米ドル/円相場は、2日に発表された1月米雇用統計の賃金上昇に反応し、110円40銭台まで上昇したが、結局そこが月間高値となり、その後は月末までドル下落が続くこととなった。

雇用統計発表後、米国市場から世界に広がった株価の暴落により、米ドル/円は108円台半ばへと下落。同水準でしばらく揉み合いとなるも、14日に海外勢のドル売りにより、昨年9月安値(107円32銭)が破られると円高が加速。16日には月間安値となる105円55銭まで下落した。その後いったんは、107円台半ばを回復する局面も見られたが、27日に行われたパウエル新FRB議長の米議会証言が、市場予想に反してややタカ派的であったことから、米株価が再び急落。3月1日には、「トランプ大統領が、鉄鋼とアルミニウムに高い輸入関税を課す」との報道を受け、貿易戦争への懸念が膨らみドルと株価が一段安となり、米ドル/円は105円25銭まで下落した。105円台では数日間激しく揉み合ったが、この水準ではドル買いが勝り、結局106円台後半まで戻して、指標の発表を迎えることとなった。

事前予想は、「失業率」が4.0%(前月4.1%)、「非農業部門雇用者数」が+205千人(前月+200千人)、「平均時給」が+0.2%(前月+0.3%)であった。

2. 発表直後

2月「失業率」は前月と変わらず4.1%。「非農業部門雇用者数」は、事前予想を大きく上回る前月比+313千人(12・1月分は合わせて54千人上方修正)と、2016年8月以来となる強い内容。一方、前月予想外の上昇となった「平均時給」は、前月比+0.1%(前年比は+2.61%)と事前予想を下回った。

予想を上回る「非農業部門雇用者数」を受け、米長期金利(10年国債利回り)が上昇し、米ドル/円は107円台に乗せたが、「平均時給」の伸びが前月を下回ったこともあり、ドル買いは続かず、すぐに106円台後半へ反落。その後は106円台後半での揉み合いとなった。

3. NYK Closeまで

総じて強い内容の雇用統計を受け、米国市場が寄り付きから堅調な動きとなり、米ドル/円も再び107円台に乗せたが、107円台前半ではドル売り意欲が強く、また米長期金利が高値から小反落したこともあり、指標発表直後のドル安値を下回る場面も見られた。ニューヨーク時間午後には106円台後半で小動きとなり、結局米ドル/円は106円台80銭前後でクローズとなった。米長期金利(10年国債利回り)は2.89%に上昇。ニューヨークダウは25,335ドル(前日比+440ドル)と大幅な上昇となった。

4. 「米ドル/円が上昇したのはなぜ」

  • 「非農業部門雇用者数」は、非常に強い結果となったが、前回予想外に上昇し、ドル上昇の要因となった「平均時給」の伸びが、想定内の数値に留まったことから、様子見とする市場参加者が多かったと思われる。
  • 2月下旬以降、107円を挟んだレンジ取引が継続しており、107円台前半でのドル売り注文がドルの上値を抑えることとなったと考える。

5. 当面の見通し

  • (Ⅰ)3月雇用統計

    2月の「非農業部門雇用者数」は、2016年8月以来となる増加数となった。天候要因によるものとの見方もあるが、今後も好調な状況が継続すると思われる。一方、2月はやや鈍化した「平均時給」であるが、時給に就業者数と労働時間を掛け合わせた、「民間総賃金」は上昇を続けており、今後も賃金データの緩やかな上昇が続くであろう。

  • (Ⅱ)米ドル/円動向

    先月の本稿では、「2018年の米ドル/円相場を予想する上では、日銀の金融政策動向に十分留意する必要がある」とし、注目点の一つとして、黒田日銀総裁の後任人事を挙げた。日銀首脳人事では、黒田総裁の続投が決定され、副総裁には、黒田総裁の懐刀である日銀雨宮理事が昇格したことで、現行の金融政策が継続することとなった。また、もう一人の副総裁には、リフレ派*1の若田部早大教授が指名された。

    1. *1『リフレーション(reflation)』の略。デフレ状態から抜け出たが、本格的なインフレにはなっていない状態のこと。リフレーション政策に賛同する立場を一般的にリフレ派と呼んでいる。

    3月2日に行われた所信聴取で、黒田総裁候補が、『2019年度には「出口」を検討し議論しているのは「間違いないと思う」』と発言したことで、円長期金利上昇と為替市場での円高を招いたが、実際は質疑応答の中で、『2019年度ごろには2%程度に達すると物価動向を見ており、そうであれば当然のことながら、出口を検討している』と当たり前のことを述べたに過ぎない。8~9日に開催された、日銀金融政策決定会合後の記者会見でも、「2%の物価上昇率達成の見通しが実現しても、ただちに金融緩和の出口に向かうわけではない」と早期の出口論をあらためて否定した。しかしながら、市場参加者の疑念が晴れないのは、副総裁の所信聴取を含めて、何をもって「出口」とするのか、との認識が統一されていないためである。10年国債利回りの水準が、おおむねゼロ%で推移するよう国債の買入れを行う、現在の「イールドカーブ・コントロール」政策*2において、目標金利を引き上げることは、イールドカーブの「形状の調整」であって、「出口政策」にはあたらない、とするのであれば、今後も円高懸念はくすぶり続けるであろう。

    1. *22016年9月、日銀は、物価の持続的な下落という意味でのデフレではなくなったことから、それまでの「量的・質的金融緩和」から、実質金利低下の効果を、長短金利操作により追求する、「イールドカーブ・コントロール」を新たな枠組みの中心に据えた。

    米国では、3月20~21日にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。市場では追加利上げがほぼ織り込まれているが、焦点は委員会メンバーによる政策金利見通しである。2018年の利上げ回数は4回となるか、またドット・チャート*3における「Longer –run」で利上げの最終地点(ゴール)が、どの程度となるかが注目されよう。「漸進的な利上げが適切」と述べた先月末のパウエル議長の議会証言からは、市場の想定以上にタカ派的なものとなる可能性もあろう。

    1. *32FOMCメンバーによる政策金利(フェデラルファンド:FF金利誘導目標)の水準を点(ドット:DOTS)の分布で示したもの。毎年3、6、9、12月のFOMC後に発表される。

    本来、米長期金利の上昇は、為替市場においてドル高となり、景気・インフレを落ち着かせるのだが、トランプ政権はドル安政策を強行し続けており、これがドルの上昇を打ち消している。現在はまだ、揉み合いの段階だが、利上げ局面で通貨安政策を行い、さらなる景気刺激策を続ければ、いずれ長期金利が急騰し、その結果、金融市場にショックを起こす(株、債券、為替の下落)ことは、過去の例(1987年:ブラックマンデー*4、1995年:テキーラショック*5)から明らかである。2月初めの世界的な株価急落はその序章であり、今後も米長期金利の上昇スピードには注意が必要であろう。

    1. *41987年10月にニューヨーク証券取引所を発端に起こった、史上最大規模の世界的株価大暴落。1985年のプラザ合意以後のドル安打開のため、ドル金利引き上げ観測が広がったことが要因の一つ。
    2. *51994年12月のメキシコ・ペソ切り下げと変動相場制への移行をきっかけに、新興市場国に波及した一連の通貨危機。固定為替制度をとっていたメキシコ政府は、海外市場において短期のドル借入を過剰に拡大。ドル安・ペソ高で為替が割高となる中で、FRBが利上げに踏み切り、同国への資本流入が減少したことが要因の一つ。

    米ドル/円相場については、3月初めの105円台での激しい揉み合いを経て、短期的にはドルの下値攻めは終了し、本邦輸出企業の新年度のドル売りが始まる5月上旬辺りまでは、ドル反発地合いとなるものと考えている。上述の3月FOMCの結果もドル上昇を支える材料となるであろう。しかし中期的には、2018年のテーマである日銀金融政策に対する警戒感が拭えずドルの上値は重く、夏場にかけては需給面から再び円高・ドル安地合いに戻っていくものと予想する。

    予想レンジ:
    105円50銭~110円50銭(向こう1ヶ月程度)
    103円00銭~111円00銭(向こう半年程度)
  • 当内容は2018年3月13日現在の見解です。
執筆者:
株式会社じぶん銀行 ALM部長 島本薫

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