[米国雇用統計] なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

2月2日発表「米国雇用統計」

変動結果

発表直後からの10分間は↑円安ドル高に変動!
  • じぶん銀行FX米ドル/円10分足のチャートより抜粋
発表直前 10分後 変動幅
米ドル/円
為替レート
109.812円 110.234円 +0.422円
  • じぶん銀行FXレート
失業率 非農業部門
雇用者数
予想 4.1% +18.4万人
結果 4.1% +20.0万人
乖離 0.0% +1.6万人
  • 結果は速報値です。

詳しい解説

1. 発表前

1月9日に日銀が行った超長期国債を対象とした買い入れオペレーション*1の減額が、「出口政策*2」の思惑を呼び、米ドル/円相場は月を通じて円高が進むこととなった。
23日の政策金利決定会合後の記者会見で、黒田総裁は、金融緩和政策について『出口対応の局面に至っていない』と市場にくすぶる早期正常化観測を明確に否定したが、24日にムニューシン米財務長官が、世界経済フォーラム(通称ダボス会議)で、『貿易や機会に関連するので、より弱いドルは我々にとって明らかに良いことだ』と発言*3。欧米の長期金利が上昇を続ける中で、米ドル/円は26日に108円20銭台まで下落した。30-31日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)声明文では、強めの経済・物価見通しが示され、さらなる利上げの継続が強調されたことを受け、米ドル/円は下げ止まり109円台を回復。その後は109円90銭前後まで戻して、指標の発表を迎えることとなった。

  1. *1日本銀行が行うオペレーション(公開市場操作)の一つ。国債(利付国債)を買い入れることによって金融市場に資金を供給すること。
  2. *2現行の量的・質的金融緩和政策を、いつどのような手法で終了させるのかについての対策。
  3. *3中央銀行総裁・財務大臣は、為替水準について触れないのが国際合意とされており、こうした発言は極めて異例なもの。翌日トランプ米大統領が『ドルがさらに強くなり、最終的に強いドルが望ましい』と火消しに回った。

事前予想は、「失業率」が4.1%(前月4.1%)、「非農業部門雇用者数」が+184千人(前月+148千人)、「平均時給」が+0.3%(前月+0.3%)であった。

2. 発表直後

1月「失業率」は前月と変わらず4.1%。「非農業部門雇用者数」は、事前予想を上回る前月比+200千人(11・12月分は合わせて24千人下方修正)と堅調な内容。「平均時給」は前月比+0.3%と事前予想通りであったが、前月分が+0.4%に上方修正された。

予想を上回る堅調な内容に、米ドル/円は110円10銭台へ上昇。一方、米債券市場では「平均時給」の前年比(+2.9%、事前予想は+2.6%、12月分も前年比+2.5%から+2.7%へ上方修正)に注目が集まり、インフレ懸念と追加利上げ懸念から米長期金利(10年国債利回り)が2.84%へと急上昇。これを受け、米ドル/円も110円40銭台まで上値を伸ばすこととなった。

3. NYK Closeまで

雇用統計の発表を受け、米長期金利が高止まる中、米ドル/円は110円台半ばをうかがう展開が続いた。しかし、ニューヨーク時間午後に入り、金利上昇を嫌気した米株価が下落傾向を強めると、連れ安となり110円ちょうど近辺まで下落。米株価が引けにかけて大幅下落となる一方で、米ドル/円は110円台前半で揉み合いとなり、110円10銭前後でクローズとなった。米長期金利(10年国債利回り)は2.84%に大きく上昇。ニューヨークダウは25,520ドル(前日比▲665ドル)とトランプ政権誕生後、最大の下げ幅となった。

4. 「米ドル/円が上昇したのはなぜ」

  • 「非農業部門雇用者数」が堅調な結果となったことに加え、「平均時給」の伸び(前年比では2009年以来の高水準)が驚きをもってとらえられ、年4回の利上げの可能性が浮上したことが、米ドル/円が底堅い推移となった理由であろう。
  • 1月下旬に108円台後半へ下落、数日揉み合った後に109円台後半へと反発し、指標発表を迎えたことから、ドル上昇材料に反応しやすい地合いであったと考える。

5. 当面の見通し

  • (Ⅰ)2月雇用統計

    1月の「平均時給」(前年比)の急上昇は、寒波による労働時間減少という、特殊要因も指摘されており、来月以降の数字を見極める必要があろう。「非農業部門雇用者数」、「失業率」ともに順調に推移しており、今後の数値次第では、2018年の利上げ回数が4回となる可能性が高まるかもしれない。

  • (Ⅱ)米ドル/円動向

    世界的な株高、商品市況高で始まった2018年の金融市場に早くも異変が訪れている。年初から加速したドル安は、米経済の下支えとなり、株高に貢献する一方で、インフレ懸念を想起させることで米長期金利高となり、ついには米株価が大きく崩落することとなった。ゴルディロックス(Goldilocks:適温)経済*4における世界的な株高は、量的金融緩和政策解除後も、長期金利が大きく上昇しない前提のもとで、世界経済の緩やかな拡大を背景に続いてきた訳であり、その前提が変わる兆し(米長期金利の急上昇)が、足下での世界的な株価調整につながったのである。

    1. *4過熱することもなく、低迷することもない、適度な経済状態のこと。語源はイギリス童話「ゴルディロックスと3匹のくま」から来ているといわれている。

    年初からの異変は株式市場だけでなく、米ドル/円相場にも表れている。米長期金利が上昇し、日米長期金利差の拡大が続く中で、ドル安・円高が進行しているのである。筆者は、中長期的な為替相場の方向性は貿易・経常収支に依存するとの考え方を持ち、米ドル/円相場予想を立てている。2011年に発生した東日本大震災後のエネルギー輸入増加により、赤字に転じた貿易収支が、2016年から黒字に戻ったことで、アベノミクス政策・日銀異次元緩和で円安となった米ドル/円相場も、徐々に円高トレンドに回帰していくと見ている。先月時点では、円高は日銀の出口政策への思惑に過剰に反応したもので、いまだレンジ内下限での取引であり、大きな動きにつながるものではないと考えていたが、過去数ヶ月の貿易・経常収支動向に顕著な変化はなく、足下の110円を超える円高は、日銀の金融政策の変化(金利正常化に向けた動き)を先取りするものではないか、と考え始めている。

    従って、2018年の米ドル/円相場を予想する上では、日銀の金融政策動向に十分留意する必要がある。まずは年央までの注目点として、①黒田日銀総裁の後任人事、②春闘の妥結水準、③脱デフレ宣言、の3つを挙げたい。①については、黒田総裁続投の可能性が大宗であるが、その場合でも、現状政策(YCC:イールドカーブコントロール政策)以上に緩和方向に踏み込むことは、その副作用(金融仲介機能への悪影響など)から難しいのではと思われる。②については、政府は3%の賃上げを実施した企業に税制上の優遇措置を発表した。2017年の大手企業実績(+2.34%)を上回る水準となれば、景気・物価への好影響が期待される。③については、安倍首相は2月5日の衆議院予算委員会で、『現段階では「デフレ脱却」とはいえない』と述べたが、以前に日銀の異次元緩和やアベノミクス政策の推進により、「もはやデフレではない状況を作り出すことができた」との認識を示しており、9月の自民党総裁選前に、政府として「脱デフレ宣言」を示したいところであろう。これが日銀の金融政策に与える影響は大きなものとなることは、容易に想像できる。

    ただし、日銀の金利正常化に向けた動き(例えばYCC政策における10年国債利回りのターゲットを、現在のおおむねゼロ%程度から0.10~0.20%に引き上げる)を可能とするのは、米ドル/円相場が現状程度の水準(110円程度)にあることであり、市場が先取りして思惑的に円高が進んでしまう(100円程度)と、政策変更の足かせとなることも考えられよう。1月9日に国債買い入れオペを減額後に円高が進んで以降、円長期金利上昇や円高を想起させる言動は影を潜めており(1月26日の黒田総裁発言*5後には、すぐに日銀事務局から修正コメントが出され、市場金利が上昇した1月31日、2月1日には、オペの増額と指値オペを実施*6)、これ以上の円高にナーバスになっている状況がよくわかる。

    1. *5世界フォーラムにて、『日本は2%のインフレ目標にようやく近い状況にある』と発言し、108円台前半へ下落。
    2. *61月31日:残存期間3年超5年以下の国債買い入れ額を300億円増額。2月1日:残存期間5年超10年以下の国債買い入れ額を500億円増額。同時に10年債利回り0.11%の水準で指値オペ(金額無制限の買い入れ)を通知。

    堅調な1月雇用統計発表後、米長期金利(10年国債利回り)は一時2.85%まで上昇し、ニューヨークダウ平均株価は▲665ドル下落。週明け5日は、2.88%に上昇後、株価が史上最大となる▲1,175ドル下落したことで、2.71%へと急低下した。各市場が自律的に調整したとも見えるが、予断は許さない状況である。6日の東京市場では日経平均株価が一時1,600円以上下落したが、米ドル/円相場は108円台後半と、比較的軽度な下落にとどまった。過熱感のある中で、年初からさらに上昇を続けた株式市場がようやく調整となり、急上昇となった米長期金利が落ち着けば、市場参加者の注目は再び日銀の金融政策に向かうであろう。今局面では107円前半の昨年来安値は守られたが、金利正常化のゴールが見え始めてきた米国と、これから着手する日本との金融政策の方向性の違いを背景に、年央に向けて再度円高局面が訪れるのではと考えている。

    予想レンジ:
    108円00銭~111円50銭(向こう1ヶ月程度)
    105円50銭~113円50銭(向こう半年程度)
  • 当内容は2018年2月6日現在の見解です。
執筆者:
株式会社じぶん銀行 ALM部長 島本薫

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