スマートフォンの普及と銀行アプリ
総務省の平成27年版 情報通信白書によれば、スマートフォンの普及率は64.2%。インターネットを使うときもまずはスマホ、という人は約半数にのぼり、スマートフォンでの提供を優先するウェブメディアが増加しています。小売業やサービス業でも、スマートフォン向けアプリによりお客さまとの新たな接点を作り出している企業が増えています。海外でも、MovenやGoBank、Hello bank!といった新世代の銀行が次々に登場、各行ともスマートフォンによるサービスに力をいれています。イギリスのAtom Bankは、2016年から完全アプリ専業でサービスを開始し、今後の展開に注目を集めています。最先端のIT技術を金融サービスに活かすことで、よりお客さまの利便性を高めようというFin-Tech(フィンテック)への取り組みが盛んになり、スマートフォンによる金融サービスの幅が広がって、利便性が向上してきました。
じぶん銀行は、2008年の設立当時から、モバイルをメインチャネルとした独自の銀行サービスをお客さまにお届けしてきました。その後、スマートフォンの登場にともない「スマホ銀行」としてスマートフォン向けアプリ「じぶん銀行アプリ」を他社に先駆けて展開。2016年6月に同アプリをフルリニューアルし、日本の銀行としては初となる「タイムライン」等の機能を組み込み、“新しいスマホ銀行”として歩みを進めています。新しいアプリの設計のベースとなった想いを、アプリリニューアルを手がけたUX(ユーザー・エクスペリエンス(顧客体験))デザイナーのスズキ・スムース氏に伺いました。
単なる「お取引アプリ」では
ない、お客さまとの接点を作る。
UI/UXデザイナー スズキ・スムース氏
「たのしく」「きもちよく」「毎日」「じぶんごとに」「かしこく役に立つ」というキーワードをコンセプトに掲げ、じぶん銀行アプリリニューアルのプロジェクトにUXデザイナーとして参加いただいたスズキ・スムース氏。わかりやすく、使いやすいユーザー・インターフェイス(UI(画面設計))のみならず、「タイムライン」や「サマリー」など独創的な機能を持つアプリが生まれた経緯を振り返ってもらいました。
スズキ・スムース 桑沢デザイン研究所卒。株式会社スピードグラフィックス代表。CIデザイン、サイン計画、ピクトグラム、WEBデザイン、携帯端末などのUIデザインを経て現在はUI/UX、インタラクションデザインを軸にしたサービスデザインをメインに展開。大手企業のアプリを複数手がける。
――じぶん銀行アプリのリニューアルにおいて、どのようなスタンスで取り組まれていましたか。
スズキ:お声がけいただいたのは1年以上前のことになります。UIを見直し、アプリを全面リニューアルしたいというお話でした。ただ、UIというのはいわゆる表層の部分です。お化粧直しをしても、改善にはつながらないことも多くあります。そこで「このサービスはなんだろう?」という視点から、根本的に何を改善したいのかというヒアリングやディスカッションを行わせていただきました。改善すべきなのは構造的な問題なのか、ユーザーのタッチポイントの見え方の問題なのか。分解して組み立て直す、いわばUX(顧客体験)の設計・デザインのところから関わらせていただきました。
銀行のアプリをツールとして考える際、大きいのはユーティリティ(機能性)の部分です。入出金の取引、預金残高の確認といった当たり前のところですね。これは絶対になくならない部分です。ただ、じぶん銀行はスマートフォンやパソコンからのアクセスがメインという、ネット銀行です。
窓口に行って質問するなど、お客さまがお取引を始めたり、増やしたりする際に、通常の銀行が持っているお客さまに応える機能を、すべて画面、もしくはお客さま自らがタッチして使う情報からしか得られません。ですから、単なる「お取引アプリ」であってはいけないと考えました。じぶん銀行にとって、アプリはお客さまとの大切な接点。単なる道具に成り下がってはいけない、「接点としての場所」を作りたいという思いがありました。
誰でも日常的に、お金との関わりがあります。さらに、インターネットや金融技術の進化によって「デジタル化・電子化したお金」というものが多くの人にとって身近になってきています。物理的なお金とはまた違った、新しいお金との付き合い方を、じぶん銀行のアプリを通して体感していただけたら、と思うのです。そこから、開発コンセプトのキーワード「たのしく」「きもちよく」「毎日」が浮かび上がってきました。
――ほか、「じぶんごとに」というキーワードもありました。
スズキ:銀行の窓口やATMはみんなで、つまり多くの人が共通して使うものですが、アプリは確実に自分のものです。まさに「じぶん銀行」ですね。アプリそのものを「自分のもの」「自分ごと」に、どんどん寄せていきたいと考えました。お金を軸に、ライフスタイルや時間の流れ、いろいろな出来事といったものをそのまま反映できるようにと思っています。それを体現したものが、現状の「タイムライン」ですね。お金の動きが、日々、朝から晩までの自分のタイムラインに差し込まれてくる。今後は、生活のなかにもっと入りこんでいきたい。どんどん進化させていきたいと考えています。
――「タイムライン」や「サマリー」はもちろん、アプリの導入やチュートリアルも、ユーザーが馴染みやすく、柔らかい印象が特徴的です。
スズキ:そうですね。じぶん銀行のアプリは「お金とのタッチポイントを作るためのツール」といった気持ちで使い始めていただきたいと思っています。お買い物アプリやニュースアプリを使い始めるのと同じような気楽さで、楽しみながら使えて、立ち上げて使うのにストレス無く、気持ちよく反応がある。お金のことというのはとかく事務的で、堅苦しくなりがちなものですが、もっと前向きに気持ちよく付き合えるはず。そうした意味で、このアプリはあまたある金融系アプリのなかでも、スマホ時代に相応しい、新しい世界観を作ることができたのではないかと思います。
目指したのは「心地よさ」。
もっとお客さまとお金の接点を
増やしたい
じぶん銀行 IT戦略部 中村力
IT戦略部としてスズキ・スムース氏とともにじぶん銀行のアプリリニューアルを行った中村力。今後、じぶん銀行が目指す方向性や展開を語ります。
――じぶん銀行では、お客さまの多くがスマホユーザー。アプリをじぶん銀行にとってはどのような位置づけと考えていますか。
中村:じぶん銀行では、お客さまの7割がスマホからアクセスしています。アプリというものは、一言でいえば「お客さまとの重要な接点」ですね。実店舗があれば、お客さまはわからないことがあれば聞きに行けます。ですが、私たちはネットバンクで、しかもスマホです。手のひらのスマホでお客さまが解決できるような仕組みを作らなければならないという使命があります。その点、スマホでの銀行サービスやアプリでは、一歩先を行っているという自負心はあります。
――今回のリニューアルにおいて、もっとも大切にしたことは。
中村:「心地よく使っていただけるアプリにしたい」という点です。アプリって、人それぞれいろいろなものをインストールしていると思います。でも、全部使いたいと思っているわけではないですよね。用があるときにしか立ち上げないものもたくさんあるはずです。そうした用があるときだけの付き合いではなく、暇なときにSNSのアプリをなんとなく立ち上げるように、心地よく気軽に、普段使いのものとして立ち上げていただけるようにしたいと考えました。そう考えると、必要なのは取引や残高照会の機能だけではありません。お客さまによるアプリの使われ方をより広げて見るようにしたために、すべての動線や必要機能を見直したという流れですね。画面設計もそこを基点としています。
――単なる「お取引ツール」ではないということですね。
中村:じぶん銀行にとって、アプリは単なる取引チャネルではありません。お客さまに新しい「お金との付き合い方」をお届けするインフラであり、お客さまとの大切な接点だと考えています。たとえば、以前のアプリにはバナーをいろいろ出していました。銀行の店舗を思い出していただくと、だいたい窓口周辺にはたくさんチラシが置いてありますよね。それはたくさんの人が訪れる場だからです。スマホやそのアプリは、自分ひとりのもの。いわば、自分専用の場所であり、例えるならば自分の家の玄関です。そこにチラシはいりません。つまり、アプリにバナーを出すのは非常に違和感が出てしまうのです。それよりも「タイムライン」で、自分にとって必要なときに必要な情報が提供される形であるべきではないでしょうか。たとえば、何か取引をしたときに「こうするともっと手数料が安くなりますよ」といった情報がタイムラインに表示される。これこそが、アプリとしてのあり方だろうと考えています。
じぶん銀行のアプリは
さらに進化していく
――今後の展開を教えてください。
中村:今後は今よりもっと役に立つ機能や、お客さまに応じた情報やコンテンツを出していったり、インタラクティブなやりとりが可能になればと考えています。銀行の商品は説明が多いですから、読むのが面倒だという方も多いと思うのです。でも、自分が興味を持っているときに説明されると、スッと入ってくるのではないでしょうか。いきなり取引や商品をご提案するのではなく、さまざまな情報やコンテンツを見たり、便利なお知らせ機能を使ったりすることを通して、お客さま自身が納得して、こういうものなのだとわかってお取引をしていただく。「サマリー」もそうしたコンテンツのひとつで、自分のお金の動きや状態をインフォグラフ化して見ていただくものです。アプリがお客さまに寄り添うことでお客さまご自身がステップアップしていく、そしてアプリ自体もどんどん賢くなっていくというのが、私たちの目指すところです。
2016年6月に公開しました「じぶん仕様プロジェクト」。
アプリの全面リニューアルを皮切りに今後、第二弾、第三弾と、
よりお客さまの役に立ち、お金との付き合いを賢くサポートする
パートナーとして進化をつづけていきます。
今後の「じぶん銀行」にご期待ください。