[米国雇用統計] なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

なぜ動いた?変動理由を詳しく解説

10月6日発表「米国雇用統計」

変動結果

発表直後からの10分間は↑円安ドル高に変動!
  • じぶん銀行FX米ドル/円10分足のチャートより抜粋
発表直前 10分後 変動幅
米ドル/円
為替レート
112.893円 113.168円 +0.275円
  • じぶん銀行FXレート
失業率 非農業部門
雇用者数
予想 4.4% +9.0万人
結果 4.2% -3.3万人
乖離 -0.2% -12.3万人
  • 結果は速報値です。

詳しい解説

1. 発表前

前月の雇用統計後(9月1日)は、賃金データから「賃金上昇が加速して物価上昇」を想起させることは難しく、追加利上げは来年以降に先送り、との見方が強まりつつあった。さらに3日に6度目の核実験を行った北朝鮮情勢の緊張の高まりから、米ドル/円は、8日に4月の安値を下回る107円30銭台まで下落し、年初来安値を更新した。
しかしながら、週末9日の北朝鮮建国記念日に、目立った動きが見られなかったことから、緊張がやややわらぎ、米ドル/円は翌週初めから買戻しが先行。米長期金利(10年国債利回り)の上昇とあいまって、18日には111円台を回復した。
注目された20日の米FOMC(連邦公開市場委員会)では、声明文で「今年あと1回、来年3回の利上げをなお予想」、「FOMCメンバー11人が年内あと1回の利上げを見込む(6月時点では8人)」ことが示され、12月の利上げ確率が急速に高まることとなり、米ドル/円は112円台半ばへ上昇することとなった。
その後は、北朝鮮からの挑発発言に値を下げる場面も見られたが、ドル高基調は崩れず、一時113円台前半まで上昇し、結局112円90銭近辺で指標の発表を迎えることとなった。
事前予想は、「失業率」が4.4%(前月4.4%)、「非農業部門雇用者数」が+90千人(前月+156千人)、「平均時給」が+0.3%(前月+0.1%)であった。

2. 発表直後

9月「失業率」は4.2%へ大幅に低下。一方、「非農業部門雇用者数」は、事前予想を大きく下回る前月比▲33千人(7・8月分は合わせて38千人下方修正)と弱い内容。注目された「平均時給」は、前月比+0.5%とこちらは事前予想を大幅に上回った。

非常に強い「失業率」と「平均時給」、一方でハリケーンという特殊要因はあるものの、非常に弱い「非農業部門雇用者数」と両極端な内容に対して、市場参加者は「平均時給」の伸びにまず反応した。米ドル/円は、米長期金利(10年国債利回り)が騰勢を強めるのに合わせ113円40銭台まで急騰。いったん113円10銭台へ反落するも、ドルは底堅く推移し、再度113円40銭台へ上昇した。しかしながら同水準ではドルの戻り売りが厚く、指標発表後のドル買いが一巡すると、その後は徐々に値を崩すこととなった。日付が変わる頃に指標発表前の水準を割り込むと、今度は一転してドル売りが強まり、米ドル/円は112円台後半へ下落した。

3. NYK Closeまで

日・米市場が3連休を控えていることに加え、週明けに朝鮮労働党創建記念日を迎える、北朝鮮の挑発行為への警戒感もあり、ニューヨーク時間午後になると様子見気分が広がった。米ドル/円は112円台後半で小動きとなり、そのまま112円65銭前後でクローズ。米長期金利(10年国債利回り)は2.36%に上昇。ニューヨークダウは22,773ドル(前日比▲1ドル)とほぼ横ばいで取引終了となった。

4. 「米ドル/円がいったん上昇後に下落に転じたのはなぜ」

  • 「非農業部門雇用者数」が7年振りとなる前月比減少、過去2ヶ月分も下方修正と、市場予想を大きく下回るも、「失業率」と「平均時給」の強い結果に反応して、米ドル/円と米長期金利が上昇したのは、「いいとこどり」の感が強く、9月下旬につけた直近高値を抜けたところでドル買いが一巡したと思われる。
  • 3連休を控えていたことや、北朝鮮情勢への警戒感で市場参加者の様子見気分が強まる等の要因も、ドルの下げ足を速めたものと考える。

5. 当面の見通し

  • (Ⅰ)10月雇用統計

    米国の雇用統計調査は、事業者調査と家計調査に分類できるが、事業者調査においては、その調査期間中に賃金が支払われていない人は、雇用者として計上されない。9月の「非農業部門雇用者数」の減少は、8月25日と9月10日に2度にわたって、米中南部を襲ったハリケーンが大きく影響したものと推測される。したがって、10月分は当該雇用者の職場復帰により、大幅な増加となることが見込まれよう。
    一方、家計調査においては、「就業者数」が前月比で急増、「失業者」が急減となっており、これが「失業率」の急低下につながったと見られる。数値だけ見ると9月は異常値であった可能性もあり、10月分での修正の有無を確認したい。
    また、「平均時給」の急上昇については、9月単月だけでなく、過去2ヶ月分も上方修正されていることは、利上げを目するFRBにとって心強い内容であろう。ただし、前年比では+2%台後半の現状が、明確に+3%台の伸びにつながるかは、あと半年ほどの検証が必要か。

  • (Ⅱ)米ドル/円動向

    米国と北朝鮮間で、過去数年で最も高いレベルでの緊張が続き、『リスクオフ(より安全な資産に資金が向かいやすい相場状況)』という言葉も一般的になりつつある。こうした中、リスク資産の代表とも言える株式が、今年は世界中の市場で上昇している。日・米・欧の中央銀行が相次いで行った量的金融緩和策(金利を限界まで引き下げた後に行われた、市中に出回るお金の量を拡大する金融緩和策)により、教科書的には、株式への投資妙味が相対的に高いことに違いはないが、米欧がその量的金融緩和策からの出口をうかがい始めた今年、世界中で株高となっていることは、さらにその先の「景気回復・拡大に対する期待」、および「今後も大幅な金利上昇は回避される」との思惑の表れであろうか。

    本邦株式市場もご多分に漏れず、日経平均株価は本稿執筆時点(10月11日)で、約21年振りの高値をつけている。9月8日の直近安値からわずか1ヶ月で、1,500円以上の驚くべき上昇である。もちろん、その間に衆議院解散・総選挙といった、株高をイメージさせる材料はあったものの、上昇の背景には海外投資家の動きがある。日本取引所グループが毎週発表している、投資部門別売買・取引状況によると、9月第3週と4週で海外投資家は株価指数先物を2兆円強買い越した。年初から直前週までの平均が約500億円の売り越し、7・8月の2ヶ月間で約1.3兆円売り越していたのと比べると、海外投資家の投資姿勢が変わったのは明らかである。同時に発表された「裁定取引」*1の買いポジションが9月第3~5週で1兆円強増加していることから、海外投資家による買い仕掛けが行われたものと推測される。米ドル/円が9月安値から6円弱上昇した要因は、12月の米利上げ確率が高まったこともあるが、海外投資家の日本株取引に関わるもの*2であった可能性が高いと考えている。

    • *1 先物取引を使った裁定取引とは(日経225先物の例)
      現物価格(日経平均なら採用銘柄225銘柄の全て)と理論的な先物価格(日経225先物)との価格差に注目した取引。先物に大口の買い注文が入ると、先物価格は割高な水準まで上昇する。ここで割高となった日経225先物を売り、相対的に割安となった現物株(日経平均採用225銘柄)を買って価格差を確定させる(この取引が裁定取引、この残高が裁定取引残)。先物取引は現物取引と異なり最終売買日が決められており、期限内に取引を解消しなければならない。したがって、日経225先物と日経平均株価との価格差が縮んだり、裁定取引残高が大きく積み上がると、裁定取引を解消する注文(日経225先物を売り、その結果相対的に割高となった現物株を売る)が一斉に出回り相場を崩す要因となる場合がある。
    • *2 海外投資家の日本株投資に伴う為替ヘッジ操作
      日本株市場参加者の中心である外国人投資家は、為替市場で円を調達(ドル売り・円買い)しながら日本株投資を行うことになるが、その一部は為替ヘッジ付き(将来円安により日本株資産が減価することに備え、ポジションの一部をドル買い・円売りすることで中立化する戦略)といわれている。
      また投資開始後に株価が上昇すると、日本株ポジションの時価が大きくなるため、増加した分の追加でのヘッジ操作(ドル買い・円売り)を随時行うこととなる。
      一方、株価が急落した場合や、大幅に円高が進行すると、これまで行っていたヘッジ操作(追加分を含む)のポジションを縮小するため、これまでとは逆の操作である、ドル売り・円買いを市場で行うこととなる。

    ここから年末までの米ドル/円相場を考える上で、衆議院選挙の投票結果(10月22日)が最重要であるが、前号でも記載した通り、北朝鮮情勢は武力衝突とならない限りは一過性のものであり、中長期的な相場の方向性を決めるのは米国の金融政策と景気情勢、および本邦の貿易・経常収支動向と考えるが、12月の米利上げはすでに8割程度市場は織り込んでおり、ここから一段のドル買いにはつながりにくい。他方、第4四半期は、輸入筋のドル買いや、海外企業の米国決算期末(12月)に向けた本国送金(ドル需要)が強まることで、短期間で大幅に円高が進む可能性も低いであろう。

    そうなると、上述の海外投資家の日本株ポジションのような、短期的にトレンド(方向性)の出た投資対象の巻き戻し(反対売買)が為替相場に与える影響に注意すべきと考える。最近の動きでは、ECB(欧州中央銀行)の量的緩和策からの出口示唆に関連し、夏以降に思惑的に積み上がったユーロ買いポジションが、9月7日のECB理事会後の記者会見でドラギ総裁が、『最近のユーロ高が、利上げまでの時間軸を長期化させる格好となった』と発言したことで、一斉に巻き戻された(ユーロ売り)例がある。安倍陣営が勝利すれば、アベノミクス継続で好材料のように見えるが、結果の如何にかかわらず、選挙終了後は材料出尽くしとなり、いったんは大幅なポジション調整(円高圧力)となる可能性が高いものと予想している。

    予想レンジ:
    109円50銭~114円50銭(向こう1ヶ月程度)
    107円~115円(向こう半年程度)
  • 当内容は2017年10月11日現在の見解です。
執筆者:
株式会社じぶん銀行 ALM部長 島本薫

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